表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

後日談

 あるアパートの一室に、2人の男が立ち尽くしていた。

 その部屋は必要最低限の家具しか置かれていない無個性なモノであった。


 2人の男は部屋の様子など気にも止めず、それぞれが手にしている大学ノートを読んでいた。


 大学ノートには【オカルト体験記】と書かれている。それぞれvol 1とvol 2と番号が振られていた。


 vol 1のノートを持っている青年は筋肉質な体格をしている。イケメンというよりは男前という言葉が似合っている。気難しげな顔付で、どことなく近寄り難い雰囲気を出していた。


 一方、vol 2のノートを持っている青年は対照的だ。

 長身で線が細い体型。銀縁のメガネを掛けたその奥には凛とした瞳が存在感を放っていた。

 中性的な雰囲気ながらもどことなく芯の強さを感じさせた。


 2人は同時にノートを閉じ、これまた同時にため息を吐いた。


「どう思う、タケル?」


 長身のメガネを掛けた青年が尋ねた。

 尋ねられたタケルは、大儀そうに頭を掻いた。


「どうって、普通の人間が読んだら、頭がおかしい奴が書いたって思うだろうよ」

「だろうね。でも僕たちは違う」

 

 メガネを掛けた青年は部屋を見回し始めた。


「しかし、この男はあきれるくらい超常現象にのめり込んでいたようだぜ、ヤマト」


 タケルはノートをヒラヒラと振った。

 そんな彼にヤマトは自分の持つノートを手渡した。


「うん。こっちにさ、【絵画】って書かれた話があるんだけど、読んでみろよ」


 ノートを手渡されたタケルは自分の持っていたノートを相手に渡すと、該当するページを繰り始めた。

 その間、ヤマトは渡されたノートをペラペラとめくりながら部屋を歩きだした。


 該当ページを読み終わったタケルは顔を上げ、ヤマトの方を見た。

 ヤマトは壁に寄りかかり、相変わらずページをめくっていた。


「これがあの男の妄想話じゃないとしたら、相当厄介な奴が出現したな。カミトミラ……知ってるか?」


 タケルが尋ねた。


「知ってる。かつて神童とまで呼ばれた天才画家、神渡美良……。まさか、彼女が悪霊になっていたとはね」

「良く知ってんな。てか、この話を信用するのか?」


 タケルは意外そうな顔をした。


「あぁ。彼女の死は不可解な点が多い。でも、もし彼女が――」

「黒魔術を使っていたとしたら説明がつくんだな?」

「うん」


 タケルは再びため息を吐いた。


「見過ごす訳には行かねえか……」


 ヤマトは苦笑した。


「これも、あの家に生まれた宿命だな。そう言えば、そっちのノートには僕たちの事が書いてあったよ、【鏡界線】ってやつ」


 彼はタケルの持つノートを指差した。


「へぇ、それって【鏡鬼】を退治した時だよな。あの時、ヤマトが結界を壊してくれなかったら手遅れになってたな」

「【鏡鬼】とは前にも遭遇した事があるからね。対処法は頭に入れていた」

「へぇ、しっかりしてんな!」

「出来の悪い弟を持つと、兄がしっかりしないとね」

「言ってろ、クソ兄貴!」


 彼らにとっては毎度お馴染みの口喧嘩を終えたところで、2人は玄関へと向かった。2つのノートはヤマトのショルダーバックに入れてある。

 タケルが部屋の方を振り向いた。


「結局、俺たちはこの男を救えなかったんだな……」


 彼は渋い顔をして言った。


「うん、おそらくね。ノートには、もう超常現象に関わらないって書いてあったけど、無理だったんだろうな」


 ヤマトもそれに答える。彼の表情も暗い。


「彼自身が再び足を踏み入れたのか、それとも奴らが逃がさなかったのかは、わからない」


 彼のバックに入れられた【オカルト体験記】の持ち主は行方不明になっていた。職場も部屋も放って、どこかに消えたのだ。


「彼が生きているのか、死んでいるのかもわからない。ただ、これだけは言える。彼が最後に望んでいた日常には決して戻る事はできないだろうね……」


 2人の兄弟は、主を失った部屋を後にした。



 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ