ツインテール×ツインテール
ツインテール至上主義。
世界はいつからかそんな風になっていた。
世の全てがツインテールを基準に回って行く、そんな世界。
ツインテールの美しさ大会。
ツインテールの可愛さ大会。
ツインテールのクールさ大会。
……などはまだマトモな方である。
ツインテールテニス大会。
ツインテール卓球大会。
ツインテールバトミントン大会。
などもまぁ、標準である。
ツインテールは生きている。
日々愛情を注がれ、丁寧に手入れをされたツインテールは宿主である人間の意志に従い、自立行動を起こすようになるのだ。
たかが髪だと侮ってはいけない。
彼女達は……ちゃんと自分の意志を持っているのだから。
そしてここに……とあるツインテール世界大会優勝を夢見る少女が一人。
「……頑張ろうね。
私達なら……きっと優勝できるよ」
そう言った少女の桃色のツインテールが、気合を入れるようにぐっ、と髪を立てる。
頑張ろう、と。そう言っていた。
意志は同じ。少女は薄く笑みを浮かべた。
「行こう、世界一はすぐそこだよ」
少女は壇上に上がる。
歓声と、眩しいほどの照明が少女に降りかかってきて物怖じしそうになるが、彼女のツインテールがそっと背中を押した。
「自分のツインテールに励まされるなんて……。
貴女、そんなことでよくこの舞台にまで上がってこれましたわね」
目の前でスタンバイを終えている決勝戦の相手。
高飛車な声の金髪ツインテールの女だ。
彼女のツインテールは微動だにせずに佇んでいて、まるで彼女に付き従う下僕のようにも写る。
「これはワタクシの優勝で決まりですわね」
「そんなことない! 私だってここまで頑張って来たんだ!」
「へぇ……だったら……」
決勝戦……
「証明してごらんなさい!!」
開始!!
「ほらほらほらほらぁっ!!」
「っくぅっ!」
金髪ツインテールの激しい先制攻撃。
金髪ツインテールの先端部分が桃色の髪を激しく突いていく。
少女は防戦一方だ。
「おーっほっほ!!
ワタクシのツインテールは完璧に調教してありますのよ!」
「ち、調教……っ?」
「ええ! 今やこのツインテールはワタクシの忠実な駒ですわ!
ワタクシの意志通りに! 自在に動きますのよ!!」
金髪ツインテールの猛攻は続く。
金と桃の髪が、二人の少女の間で激しくぶつかり合う。
少女のツインテールはなんとか金髪の攻撃を凌いでいるが、金髪の鋭い連続攻撃に遅れを取っていた。
「ツインテールは、駒なんかじゃ、ないよっ」
「何を言っているのか分かりませんわね!
所詮は髪、主人はワタクシですわ!
ワタクシがどのように扱おうと、ワタクシの自由!
ほら、貴女のツインテールはこんな動きができますの!?」
金髪ツインテールの先端を丸まり、ハンマーのような形態に変化して少女の桃髪ツインテールに襲いかかった。
「そんな……っ!
そんなやり方、ツインテールが傷んじゃうよ!!」
「言ったでしょう?
ツインテールをどう扱おうと、ワタクシの自由ですわ!!」
痛恨の一撃。
ツインテールハンマーの一撃は、少女の桃髪を確かに捉えた……しかし。
「ツインテールは……駒なんかじゃない!」
少女は、一歩たりともその場を動いていなかった。
どれほど強烈な一撃を食らっても、少女の足は最初の位置から微塵も動いていない。
「髪は女の命……っ! ツインテールはっ!
私達に宿ったもう一つの命なんだ!!
そのツインテールを大切にしない人なんかに私は……私達は負けない!!」
桃髪ツインテールが、少女の想いに応えるように速さを増していく。
二人分の想いを両サイドのテールに乗せて、少女は最後の勝負に出る。
「いっけぇえええええええ!!!」
気合いの声と共に鋭く伸びていくツインテール。
それと同時に、
「これでお終いですわっ!!!!」
金髪ツインテールも、全速のスピードで少女のツインテールに対抗する。
二人の最高速度のツインテールが今、ぶつかろうとーーー
「んなっ!?」
不意に、桃髪ツインテールが衝突の寸前で急停止する。
一方の勢いをつけすぎた金髪ツインテールはその動きに戸惑い、すぐに体勢を立て直そうと後退しようとするが、
「ここっ!」
少女の声と同時……否、少女の声よりも早く、桃髪ツインテールは自らの意志で金髪ツインテールを追撃した。
後方へと下がっている最中の追撃。
その攻防の結果……。
金髪少女の足が一歩、後退した。
鳴り響く試合終了のホイッスル。
勝者を讃えるファンファーレが高らかに奏でられ、ここに一人の世界王者が誕生した。
「やった……っ! やったよ!
私達、勝ったんだ!!!
なれたんだよ!
……ツインテール手押し相撲世界王者に!!!」
ーーー世界は、今日も平和だ。