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アフターディメンション-After dimension-  作者: 片岡 雅
第1章 真相を求める話
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第2節 驚きの演習

 二時間目の≪数学≫が終わった。三時間目の≪実戦演習≫まであと一〇分だ。

 先ほどさらに聞いた話では、実戦演習は基本的に学校南端の演習場で行うらしく、毎回内容が違ってはいるものの、大体似通ったもので対人戦や下級の魔物との戦闘を行うそうだ。

 ちなみに、僕は魔物を見たことがない。最近ココに来たばっかりだからだ。どんなものなのかも、名前すらも知らない。ここ数日で話に聞いてすらもいない。――なのに、クラスメイトは何も知らず期待の表情を浮かべている。

 まぁ、まだ僕が何も話していないからだが。話したほうがいいだろうか?いや、話したとして信じてくれるとは思えない。が、この授業が終わったら、僕はクラスメイトにすべてを話すことにしよう。


 そして、休み時間一〇分が終わり、とうとう待ちに待った(?)≪実戦演習≫が始まった。


「今日の演習内容は対人戦だー! みんな二人一組なって集まれー!」


 本授業担当主任/加藤(かとう) 一馬(かずま)先生はそう指示を出すと、円形の演習場の中心へと歩いていった。


「佑太君。私と組まない?」


 完璧初心者の僕を誘ってきたのは、おしゃべりで花に水をやる係の古川だった。


「いいけど。僕うまくできないと思うから、うまくアシストしてくれよ?」


「戦う相手をアシストするのは無理だよ? それに佑太君学年トップじゃない。何変なこと言ってんのよ」


「あ、ああ。そうだったな」


 はやくクラスメイト皆に話をしなくては対応に困る。

 そう思い、今古川にだけでも話そうとすると、僕は大切なことを忘れていた。そうだ、古川はおしゃべりだった。


「ねぇ、なんで佑太君はそんなに成績がいいの? どんな勉強しているの? そういえばどんな家に住んでるの? 好きな動物は? やっぱねずみなの? バッグについてるもんね。変なのー。ネコかってるって聞いたからネコが好きなんだと思ってたのになー」


 べらべらべらべらしゃべる。しかも地味に痛いところをついてくる。


「そんな一度に質問されても困るよ。せめて一つに絞ってくれよ」


 僕は苦笑いになりながらも話をうまく返すがさすがにそろそろ無理があるようだ。僕が返すと古川はそれにやめることなく返し、喋り続ける。そうしていると、


「では、これから組んだ二人でまず組み手を行ってもらう。ルールは簡単で……」


 加藤先生が授業の説明を始めた。おそらく古川はこんな話も、しゃべっていて聞いていないんだろうなと僕は思った。――だが、意外なことにそうではなかった。

 あのおしゃべりな古川が隣で真剣に話を聞いていた。僕はそんな意外な姿の古川を見ていて、加藤先生の話をつい聞き逃してしまったのだった。


「さ、佑太君。はじめるよ!」


「え? あ、ああ、うん。はじめよう。ってなにするんだっけ?」


「もう、聞いてなかったの? まったくもう。どうしたのよ佑太君。仕方ないわねー。組み手よ。今日の演習は」


 ほう。ほんとに意外だな。って、え? 組み手? 僕は昔から運動も苦手で喧嘩もろくに勝てなかった。そんな僕が組み手をしてどうしろというんだ?


「さぁ、行くわよ!」


 古川はやる気満々のようだ。さっそく攻撃を開始してきた。


「うわっ、アブね。」


 そもそも僕は何故古川の誘いを承諾してしまったのか。女の子と戦うなんて僕には荷が重い! それにこれで勝ってもうれしくない!

――と、そんなことを考えていたのがそもそもの間違いだったのだ。

 あれはまさに一瞬のことだった。古川は僕の足を軽々とすくうと、すぐさま上体を押して僕を突き倒した。


「あ……えっと……」


 僕は声が出なかった。古川は僕のほうを不思議そうな目でじっと見てる。他のクラスメイトはこちらを見て呆然と立ち尽くしている。

 僕は授業とはいえ、古川に敗れた。女の子に敗れた。クラスメイト全員の視線がこちらを向いている。奥のほうから奥村が来た。噂で聞いた話だが、奥村はこういう状況が一番いい記事になると好き好んでいるらしい。まずい、いじられる。


「あれ? 岡本君いま古川さんに負けましたか?」


「あ、いや、ちがっ、これはそのちょっと油断しただけで、あの……」


 たしかに僕は油断していた。だが、実際のところ、本気でやっても勝てる気がしない。


「よし! とりあえず奥村勝負だ!」


 僕はまず奥村に勝負を申し込んだ。

 古川はさておき、勉強ができたから運動はどうか、というのを確かめるためだ。結果、僕の圧勝だった。正直予想していた通りだ。

 おそらくこの世界では、僕は本当の僕ではない、ヒーローで学年トップの僕に似通った何かである岡山 佑太ということになっているからなのだろう。

 僕はその後、他のクラスメイトとも組み手をしたが、全員に勝てた。ただ、古川にだけは勝てなかった。二回目も、古川は僕のこぶしをかわし、そのまま腕をつかんでまた僕を倒した。この日から、組み手成績一位の座は古川のものとなった。三時間目の終了と共に、僕は恐ろしいほどの敗北感とクラスメイトの視線におしつぶされそうになった。

 そしてとうとう四時間目。

 本当は≪国語≫のはずだったのだが、加藤先生の話によると、どうやら国語の松田先生の不在により急遽授業変更ということらしい。授業はまた"地獄の"≪実戦演習≫で、その内容は、今度は魔物との戦闘訓練だそうだ。

 やることは、四人のグループを作って魔物と戦闘をするというもの。そのままだ。

 しかし、加藤先生曰くただの戦闘では面白くないので、演習場の端のほうにある逆さドームの中で行うらしい。要するにドームの急斜面で逃げ場がないのだ。武器はそれぞれ≪短剣≫≪長剣≫≪拳銃≫≪槍≫の中から選ぶというもの。

 とりあえず僕は名前の覚えている、奥村、静香、そして古川と組んだ。


「へぇー、佑太君短剣なんだ。しかも二本。ちょっと意外。もっとこうガンガン行く感じで長剣とかかと思ったよ」


「僕は昔から二刀流が好きなんだ。何でだか知んないけど」


 いや、理由は分かっている。元の世界でやっていたテレビゲームの影響だ。

 そんな感じでのんびり話をしていると、加藤先生に注意された。まぁ無理もないだろう。


「言わなくてもわかってると思うが、演習といっても相手は本物の魔物、これはもう実戦だ。気を抜くんじゃないぞ」


 そう、これは一人一人の実力が試される実戦だ。僕は軽く深呼吸をして、戦いの舞台をじっと見つめた。

 逆さドームは全部で五つある。グループは九個あり、早いところから順番に交代すれば授業中に終わるだろう。


「それではまず……一班二班三班四班五班! はじめ!」


 僕らは三班、前半グループだ。さっそく、四人で逆さドームの中に入った。案外深く、少し驚いた。

 しばらくすると、門が開き、魔物が放たれた。それは僕が思っていた魔物ではなくどこにでもいそうな魔物だった。


「あれ、少し大きすぎる気もするが、これ犬、じゃないのか?」


 僕らの目の前にいるのは人の丈ほどもある十分に巨大といっていい犬がいた。


「佑太君運動の次は頭までおかしくなっちゃったの? 魔物は魔王によって放たれた魔性によって冒された動物達が突然変異を起こしたものって習ったじゃない。あの魔物は犬がほんの少しの魔性で変異したからレッドハウンドって部類なのよ?」


 そうだったのか?まったく知らなかった。犬を殺すのは少々気が引けるが、仕方ない。今は魔物だ。僕らは戦闘態勢をとった。

 僕は先程言ったとおり短剣で二刀流。そして、奥村が槍、静香が拳銃、古川も拳銃だった。よりにもよって女性陣が拳銃とは、ある意味怖い。

 作戦はいたって単純で、僕と奥村が前衛で攻撃して、それを静香と古川が援護射撃するというものだ。

 戦いの幕を下ろしたのはレッドハウンドの先制攻撃。僕のほうに向かって走ってきた。そして、思った以上のスピードで鋭い爪を振り下ろしてくるが、よけられないほどではなかった。僕は振り下ろされるレッドハウンドの腕を体を軽く捻っていなすと、走って裏側に回り、古川が銃弾を撃つ隙を作る。すると古川はその隙をまったく見逃さず、的確に急所を狙って引き金を引いた。

 魔物よりこっちのほうが驚いた。なんなんだ古川の戦闘能力は?! かなり気になるが、今は目の前の敵に集中しなくてはならない。

 僕は静香と古川の弾の当たらない死角へと回り込み、レッドハウンドを斬りつける。だが、思ったより肉質が硬く、刃がなかなか通らなかった。

 そんなちまちました攻撃をうざったく思ったのか、レッドハウンドは僕と女性陣を振り払うと、ただ立ち尽くしていた奥村のほうへと向かい爪を振り下ろそうとした。

 奥村は何をやってるんだ! よけろ!

――するとそのとき、僕は昨日の会話を思い出した。


『ホントは怖いんですけどね。若者に対する世間の期待に負けたんです。』


 そうだ。あいつは本当は怖いんだ。今だって、魔物が攻撃してこようとしているのに身動き一つ取れていない。

 そして、レッドハウンドは確実に奥村の急所を狙っていた。


「危ない! 避けて!」


「奥村! 避けろ!」


 僕は叫びながらも奥村のほうへ走った。ただひたすらに走った。

 そのとき一瞬、なぜだか体がとてつもなく軽くなった気がした。

 気づくと、レッドハウンドは逆さドームの急斜の壁に叩きつけられていた。そして、僕の手には少量の血が付いた短剣がにぎられている。

 古川が驚きの表情でこちらを見ていた。


「佑太君……。今の……」


 僕にはまだ何が起きたのかわからない。だが、とりあえずは奥村が助かってほっとしている。


「岡本君、目が……」


 え? 僕の目がどうしたというんだ?

 僕は古川が言っている意味が分からない。


「佑太君、右目が若干紅いわよ?」


 静香も僕の目を指摘する。

 しかし、僕の目の色は黒だ。中二病じゃあるまいし、片目カラーコンタクト(オッドアイって言うの?)なんてのもしていない。だが、壁に叩きつけられているレッドハウンドといい、僕が奥村の目の前にいることといい、何かが起きていることは確かだった。


「岡本君、はい、鏡」


 奥村から鏡を受け取り僕は自分の顔を見る。すると、確かに僕の目は若干紅くなっていて、指摘はされなかったものの、髪の色も先のほうが白っぽく見えた。しかし時間が経つにつれて目の色も髪の色も元の黒に戻っていった。


「今のは、一体……」


 僕は自分のみに起きたことがまったく分からなかった。そして、もちろん他の皆もわからない。だが、その理由はなんとなく分かる気がした。それはきっと、僕はココにいないはずの人間、剣城 佑太だからだ。ココのいるはずの岡本 佑太ではないのだから。

 詳しいことはわからないが、おそらくそれが理由だと、僕は考えた。そしてそれと同時に、ココにいる3人には話しておかなければと思った。他のクラスメイトにはまた今度でいいだろうとも思った。正直言って、あまり関わりあいがないからだ。


「みんな、ちょっと来てくれないか? 話しておきたいことがあるんだ」


 僕は3人を呼んだ。


「何? いまのこと?」


「いや、悪いけど違う。今のことについては俺もなんだかわからないんだ」


 それから僕は、今までのことについて三人に話した。僕は岡本佑太ではなく、剣城佑太であること。通り魔に殺されたと思ったら誰かの声がして、気づいたら自分のものらしい部屋の中にいたこと。


「え、じゃあ岡本君とは別人?」


「うん」


「だからずっと様子がおかしかったの? いつもみたいじゃなかった」


「前のことが分からないけど、たぶんね」


「え、じゃあ私見ず知らずの人を2回も押し倒して、ご、ごめんなさい!」


「いや、そういう授業だったんだし。別にいいよ」


「いや、よくないわよ」


 僕が何を言っても古川は誤り続けた。正直言ってうっとうしいくらいに。


「さっきのあれもその所為なの?」


 のんびりし初めた空気を壊して、静香が話を戻す。


「かもしれないし、違うかもしれない。でも、可能性としては十分高いと思う」


 そして僕は、関係ないと思いこの時話していなかったが、何か大切なものを忘れていた。絶対に忘れてはいけない、一番大切なことを。

――そんな時、ガシャンッ、と大きな音が聞こえた。


「な、なんでしょうか、今の音……」


 もう演習はこりごりだと言わんばかりに奥村は震えている。


「わからない。だが、あまりいいものではなさそうだな」


 音がしたときから、レッドハウンドの出てきた門のほうから足音が聞こえている。

 静香と古川もそれに気づいているようで、武器を構えている。僕もそれに倣って、短剣を構える。そしてしばらくすると足音が消えた。しかし、それは安心していいということではなかった。僕らが気の所為かと思って気を緩めたとたん、勢いよく門を壁ごと破壊して、一匹の魔物が飛び出してきた。

 しかし、それは元動物というにはあまりにも奇妙な姿をしていたのだ。体自体は無駄にでかいネコのようなのだ。大きさもレッドハウンドの2倍はあった。だが、牙がナイフのように鋭く、肌には毛ではなく鱗が生えていた。


「キメラ? でも、こんなの一体誰が、一体どこから……」


 キメラ。それなら僕にも分かった。ゲームなんかによく出てくる合成獣だ。

 だが一体こんなもの誰が作ったんだ? 合成獣というからには誰かが作ったのだろうが、心当たりがない。

 いや、この時点で僕らが考えられることはこの危機的状況をいかにのりきるかだった。なぜなら、キメラはこちらを睨みつけ、今にも襲ってきそうな体制なのだから。


「おい、これどうするんだ? まずいぞ?」


 僕は一番頼りになりそうな静香に訊く。


「知らないわよ。とりあえずはこの場を離れないと、追ってくるとは思うけどなるべく距離を開けときたいし」


 確かにそのとおり。静香の判断は的確だった。

 僕らが20メートルほど距離をあけると、キメラは僕ら目掛けて勢いよく迫ってきた。


「ちょっ、的確な判断はいいけど、何か打開策はないのか?」


「打開策って、こんな状況、逃走か撃退か討伐しか選択肢はないのよ? そんなの逃走以外選べないわよ。さっきのがまたできればいいけど……」


 確かに、これまたそのとおり。喜ばしくないが静香の判断は的確だった。

 僕が後ろを向くと、目に映ったのは鬼のように迫るキメラだけだった。そして、自分でも先ほどの力の発揮方法はわからない。だが、逃げ続けても、逆さドームの中では逃げ道がない。門の奥へ行ってもおそらく魔物しかいない。

 そう考えていた時だった。奥村が足を滑らせた。


「馬鹿!急げ奥村!」


 駄目だ。もう遅い。望むなら、静香か古川にキメラを撃ってもらいたかった。だけど、そう思い通りに行くはずもなく静香も古川も焦りの表情を浮かべる以外なかった。

――間に合え!動け!動け!

 刹那、僕は奥村のもとへとありえない速さで移動した。そして再び僕は、体が異様に軽くなるのを感じた。

 来た!

 これで戦えば撃退くらいならできるかもしれない。僕はキメラの腕を受け止めると、すばやくキメラの背中へと移動し、上部から短剣で斬りつけた。すると、レッドハウンドのときと違って、刃がすらすらと入っていく。キメラは背後にあるものを攻撃する術を持ち合わせていないようで、もがきながらも斬りつけられ続けた。

 そして数分の後、キメラはかなりの体力を消耗し、自ら門の奥へと逃げていった。

 そして僕らも、傷つきながらも逆さドームから演習終了ということとなり退出した。

 一体あのキメラを作った人物は誰なのか? 少々疑問が残るが、まだこの先の事もわからない上に想像さえもつかない。今はあまり詮索はしないことにした。

 それから数日間、奥村は学校を休んだ。

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