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アフターディメンション-After dimension-  作者: 片岡 雅
第2章 一人を救い出す話
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第5節 雪山の追撃

 山茶花町を出発してさらに五日経った。携帯を開いて日付を確かめると、今日は五月二十日らしい。どおりで最近雲行きが怪しいと思った。今も空は暗いグレーに染まっている。

 僕らは今、北の山脈を目指して歩いている。もうかなり近づいた。このまま行けば、今日中にでも着きそうだ。このあたりは、季節に関係なく雪が降っていて、足元には常に雪があった。おかげで歩きづらい。

「それにしても寒いな。」

「そうね。山茶花町で毛布か何か買っとくんだったわ。」

僕らの装備では、ここは寒すぎる。防寒効果は備わっていないのだ。皆、マントで体を包みつつ体を丸めて歩いていた。

「ああ。この山の頂上が寒くない事を祈る。あと、魔王が寒がりなことを祈る。」

「ははは。そうね。そうだったら暖かいかも。」

少し笑っていると、自然と体温が上がった。この調子で、しゃべって体温を上げよう。

「それにしても、この山には何があるんだろうな。」

「さあね。このあたりのことは知らないわ。」

僕は、久しぶりに静香が口を開いたような気がした。それに、何か怒っているようにも見える。何かしただろうか。

「まぁまぁ静香さんそう怒らず。」

奥村が静香に声をかける。

「別に怒ってなんかいないわよ。こんな感じで大丈夫なのか心配なだけ!」

そういえば静香は生徒会長よりだった。そのため正義感も強いのだろうな。

「静香さんの言うことももっともだわ。ここからは真面目かつ慎重に行きましょうよ。」

「そうだな、雫の言うとおりだ。そうしよう。絶対に魔王を倒すんだ。」

これで静香の心配も少しは解消されたで、苦笑いしていた。


 しばらくすると、雪が止んだ。

「それにしても、魔物がまったくいないな。いいことなんだが、不気味だ。」

「そうだよね。不気味だよねー。」

僕が意見を言うと、すかさず雫が言葉を挟んだ。

「ねぇ、言ってる側からいるんですけど?」

古川が指差す方向を見ると、そこには巨大な獅子のような容姿の魔物がいた。

「あれはなんていうんだ?」

「うーんと、スノウパンサーとでも言っとこうかな。」

そんな話をしていると、スノウパンサーは遠慮無しに飛び掛ってきた。狙いは僕だ。

 僕は腰から一対の短剣を取り出すと、スノウパンサーに向けた。そして、右目を紅く染め、勢いよくとびこんだ。一対の短剣からの素早い攻撃で、スノウパンサーは防戦一方だった。

「よし。これなら余裕だな。」

そう思ったときだった。僕の右手側から一撃が迫ってきた。しかも、僕は目の前のスノウパンシーに攻撃していたためか、気づくことができず、もろに受けてしまった。これはかなりの痛手だ。魔物の一撃は、生身で受ければ死に招くダメージへと変わるのだ。僕はそれなりに防御性の高いものを着けていたが、それでもダメージはでかかった。そして、倒れた僕に追い討ちをかけるように、スノウパンサーが腕を振り下ろそうとする。すると、

「佑太!」

古川の叫びと共に、一つの爆弾が放たれた。それは古川のものではなく、雫のものだった。その爆弾が破裂すると、爆音と共に多少の衝撃波が生まれた。

「佑にい! 戻って!」

僕は雫がいうとおり、魔物が爆発でひるんでいる隙に前線から離脱した。すると、爆音に続き今度は轟音が響き始めた。

「ねぇ、これ、何の音?」

僕らは辺りを見回したが、あるのは木と、洞穴と、魔物と、雪だけ。しかし、しばらくすると、その中にもう一つ、あるものが加わった。それは、雪崩だ。

「やばい! にげろ!」

僕の声よりも先に、皆それぞれその場から逃げようとしていた。しかし、誰も逃れる事はできず、雪崩に飲まれた。


「――にい! 佑にい! 佑にい!」

「うぅ……雫?」

「はぁ、やっと起きた。もうダメかと思ったよ。」

「いや、大丈夫だ。それよりここはどこだ?」

「たぶんここは、さっき外で見た洞窟じゃないかな?」

僕は気づくと、雫と共に洞窟の中にいた。天井からは冷たい水が垂れ、足元は暗くてよく見えない。

「これはなにかの罰かな?」

僕は先ほどまで浮かれていた罰なのではないかと考え始める、そして後ろでは、泣き出しそうな様子の雫がいる。

「雫、どうしたんだ?」

僕は心配になり、声をかける。

「だって、私が爆弾なんて投げたから……雪崩なんて起きて、こんな事に……」

なるほど、だからいきなり雪崩が起きたのか。

「気にするなよ。雫があの時爆弾投げなかったら、俺がいま生きてないかもしれないんだからさ。」

僕は必死に雫を慰める。もしこんなところで泣かれたら洞窟中に響き渡って何が起きたかわかったものではない。

「本当?」

「本当」

「そっか。ありがとう。」

慰めはうまくいき、雫は笑顔に戻ってくれた。これで一件落着。と、言いたい所だが、なかなかそういうわけにも行かず、困ってしまう。

「さて、どうやったらここから出られるかな?」

「うん。入り口はふさがってるから、進むしかないんだけどね。」

そうなのだ。入り口は雪崩が原因で、雪によって完全にふさがっていた。おそらく掘るなんて言ったら何日かかるか知れない。僕は雫と共に、先へ進む事にした。

「他の皆もきっと無事だよな。古川もいるし。」

僕は雫がまだ俯いているので元気付けるためにそういうと、雫は何か不機嫌そうな顔でこちらを向いた。

「な、なんだよ?」

「なんでもない……。」


 歩き続ける事十数分。洞窟が振動している気がした。

「雫、今何か感じなかった?」

「え? なにも?」

そうか。気のせいだったのかもしれない。僕は気にせず先に進む事にした。

 しばらくして、また洞窟が振動した気がした。

「雫、やっぱこの洞窟揺れてないか?」

「え? 何言ってんのよ? あっ、もしかして頭打った?」

いや、大丈夫だ。と、こんなふざけた事を言っている場合ではなく、やはり洞窟は揺れていた。気のせいなんかではなかったのだ。

 僕はああ足りを警戒しつつ、少しずつ、少しずつ前へ進んだ。そして、大きなドーム状の穴に出たとき、揺れの原因が分かった。そこには、大型の人型をした大きな魔物がいた。人型といっても、悪魔のような容姿で、角や牙やら尻尾やらが生えている。

「なるほどそういうことか。」

これで、いろいろな事の辻褄があった。まずは洞窟の揺れの事だ。理由はいたって単純でここで暴れていたわけだ。

 そして次に、一番重要なこと。それは、外に魔物がいなかった訳。以前、授業で聞いた事がある。大型の魔物は自分の縄張りを作り、その中には同種か、それ以外でも配下のものしか進入を許さないのだ。おそらく、先ほどの雪崩もこいつの仕業だろう。僕達とスノウパンサーを追い出すためだ。そして、戦闘中にいきなり現れた魔物はこいつの配下と言って間違いない。明らかスノウパンサーとは異種だったからだ。

「よかったな雫、あの雪崩はお前の所為じゃなかったぞ?」

「これじゃぁ私の所為だったほうがマシだよ……」

 僕と雫は戦闘態勢をとった。僕は両手に短剣を、雫は回復薬と予備の武器を手元に用意した。

「行くぞ!」

僕の掛け声と共に、戦闘の幕は切って落とされた。僕が剣を構えて魔物へと向かっていくと、魔物も戦闘態勢に入り、僕へ突き進んできた。

「もう油断はしない。」

そう誓って、右方向へ旋回し、魔物の背後へ回り込む。そして、背中の角へ狙いを定める。敗北の結果となったアスモディエラ戦でもそうだったように、悪魔系の魔物は角が弱点なのではないか考えたのだ。しかし、相手も縄張りの主、馬鹿ではない。僕の思考を読み取ったように、僕と雫二人に背中を見せない形で体を向けた。そして、大きな腕で僕を殴り飛ばそうとする。

「同じ手は食わない!」

この攻撃は以前目にしている。あの時は肋骨を何本かもっていかれたが、疲労している今なら、もっと危険な可能性がある。これだけは受けてはならない。が、予想外な事に、僕が避けた所で、尻尾を巧みに操り僕に叩きつけてきた。

「ぐっ!?」

僕は軽々と端の壁まで飛ばされた。だが、衝撃は思った以上に強くない。不思議に思い振り返ると、雫が受け止めてくれていた。

「お、お前、良く止められたな。」

僕にとってはこちらのほうが衝撃が強かった。

「気にしない気にしない。」

雫は苦笑いで返してくる。だが雫の言うとおり、今は目の前に集中したほうがいいだろう。

 次の瞬間、僕は不思議な感覚に包まれた。それは、未来予知とでも言うのか、魔物が右腕を使って左から振り払う光景が、目に浮かんだのだ。

「何だろう、今の。」

とりあえず、見たとおりの事が起きるとも限らないのだが、僕は右手に向かうと、迫る腕の起動から外れ、そのまま魔物の背後へと回る。そして、僕の動きに対応しきれないまま、魔物は僕に能力補正ありの一撃を背中の角へと許した。

「ウゴアアァァァ……!!」

思ったとおり、角は弱点だったようで、苦痛の叫びを上げる。

「よし、このまま……」

僕は魔物が正面を向かないうちに、続けて攻撃を浴びせた。そして、魔物が正面を向くと同時に、角を一本へし折った。

「やった。今のは結構なダメージのはずよ!」

後ろのほうで雫が歓喜の声を上げている。そして、その次にやってくるのが魔物を反撃。これも前回同じことがあった。ちょうど角をへし折って空にいるとき、一番無防備なときだ。そこで重い一撃をくらい、大ダメージを受ける。これが前回。

 だが、今回は違う。ちゃんと角を折ると同時に、魔物を壁として蹴り、宙を舞って距離を取った。この時もきちんと攻撃備えてガードしている。そして次はこちらの番だ。

「ラストスパートだ!」

僕は思い切り大地を蹴り、目にも留まらぬ速さで魔物へと飛び込む。だんだん能力にも慣れてきて、スピードの制御もできてきたのだ。このスピードには魔物も対応できず、僕の背後への侵入を再び許してしまった。僕はもう片方の角を次から次へと斬りつけていく。そして、角にヒビが入るところで、魔物がこちらへ向き直った。だが僕も諦めず、魔物の振り下ろされた腕を登り、肩まで行くと、背後に飛ぶ。そして、体の向きを変え、再び攻撃を加える。すると、とうとうもう片方の角も粉々に破壊された、それにより大きくひるみ隙を見せた魔物の巨体を、僕は次々と斬りつけていく。

「これで、終わりだ!」

どんどん速度を上げていく攻撃に、魔物は押されてどんどん後退していく。そして、とうとう壁に触れたとき、僕の短剣が止めの一撃を加えた。力を失った魔物の体は、膝をついてばったりと倒れた。そして、魔物特有の消滅をする。黒く染まり、僅かな光を放ちながら崩れ去るのだ。

「やった、んだよね?」

「ああ。終わった。」

雫は戦闘の終了に安心したようで、腰を下ろしている。

「さぁ、また歩くぞ。出口を探して。」

僕は雫の手を引いた。

「出口なんだけどさ、ここの天井から少しの光が出てるんだよね。」

僕は雫が指差す方向に目を向けると、確かにそこからは僅かながら光がこぼれていた。

「そこで提案なんだけどさ、佑にいが私を抱えてここから飛ぶってのはどうだろう?」

ここはさほど天井が高いわけでもなく、確かに能力ありで飛べば行けそうだ。

「わかった。試す価値はあるな。雫、こっちきて。」

「うん。」

僕は雫を抱えると、力いっぱいに洞窟の地面を蹴り、飛んだ。無事に天井まで届き、脱出口は雫が爆弾で強引にこじ開けた。そして、洞窟を抜けると、雪のない台地に着地した。

「あれ? ここの辺は雪がないな。」

僕らが着地した大地は、下で見たときではあった雪がまったくなかった。だがそこには緑もなく、荒れた山道があるだけだった。

「さぁ、皆を探しに行こう。」

「そうね。」

僕らは他の皆を探すため、山を下ることにした。

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