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アフターディメンション-After dimension-  作者: 片岡 雅
第2章 一人を救い出す話
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第4節 打ち消す騎士

 『死の夢』が終わってから一週間が経った。人々の心はまだ癒えていない。

 あの日、この町にいた三万四千人のうちの八割、二万七千二百人が死んだ。残ったのはたったの二割だ。僕らはあの日、救うチャンスがあったのに、そのチャンスを活かすことができなかった。おかげで僕も古川も、強い罪悪感を感じていた。

 生き残った人のうち、力のあるもので魔王を討伐しようとの考えもでた。だが、力のあるものらは怯えきって自ら名乗りではしなかった。だが、そんなこと僕にはどうでもよかった。逃げるやつは逃げればいいし、怖いやつは怖がっていればいい。僕は、古川と共に名乗りを上げた。生き残ったクラスメイト達は強く反対したが、僕には関係ない。僕は、彼らを知らないし、彼らも僕を知らないのだから。その後僕らの他にも数名名乗りを上げたそうだが、誰かはまだ知らない。

 僕と古川は、バトルアカデミアの校長のもとへ行っていた。魔王討伐のための物資を受け取るためだ。

「では、君達が魔王エトルーザを討伐するというのだな…。」

「はい。」

校長は、自分の生徒だからか、深刻な表情をしていた。

「まさか、志望者全員うちの生徒とわな。喜ぶべきか、嘆くべきか。」

「え、そうなんですか? そういえば、他のメンバーというのは一体…」

全員が生徒、という言葉に僕は少々驚いた。そして、今までまで聞いていなかった他のメンバーも気になった。

「メンバーはですね…」

「あたしたちだよ!」

校長が名前を言うよりも速く、後ろの扉から三人が入ってきた。そして、その姿を見た僕は目を丸くした。

「黙って行こうとするなんて、水臭いじゃない。」

「そうよ。私は佑にいの行くところ、どこまでも行くんだから!」

「怖いですけど、じっとしている訳には行きませんから!」

僕らのほかに名乗りを上げたのは、他でもない僕の仲間達だった。そして、不意にも涙が込み上げてしまった。この日から、僕ら5人は魔王を倒すパーティとして、人々に"ディニーズナイト"と呼ばれた。

 翌日、僕らは焼けた大地を踏みしめて、魔王討伐へと出発した。しかし、重大な謎が一つあった。

「古川、魔王って、どこにいるんだ?」

「そうねー。毎回場所が違っているから分からないわ。」

分からない?

「おい、まてまて。じゃあ僕達は今どこに向かって歩いているんだ?」

「さぁ? 魔王の居場所は、勇者的ポジのあなたにしか分からないわ。私の時は、自分で分かったもの。」

ふざけんな。そう、言ってやりたかったが、おそらく古川の言っている事は本当だ。そうなると、僕が自力で探し当てるしかない。

「はぁ…。星野、お前今どこにいるんだ…。」

僕は、雲の散りばめられた大きな天井を見つめながら呟いた。

 そういえば、古川の表情が以前と一変して明るくなっていた。昨晩の作戦会議で、古川も自ら能力の事を打ち明かし、肩の荷が下りたのだろう。みんなの反応も好反応で、蔑めたり罵声を浴びせるのではなく、褒めたり喜んだりとしていた。

「さて、どこへ向かうか。」

そういえば、僕はこの世界に来てから町を出たことはなかった。今はじめて思ったのだが、この世界の町は外周を高い壁と結界で覆われていて、魔物の侵入を防ぐ形となっていた。基本的には筒状になった壁に囲まれているのだそうだ。

「不自由だな。」

これが僕の正直な感想だった。

「そうよね。」

隣から古川が返答する。これも正直な感想、今まで隣に古川がいたのに気づかなかった。

「いたのか。」

「失礼ね。ずっと隣にいたわよ。」

「…………」

「まぁいいわ。この世界では当たり前だけど、私たちからしたら、この世界ってとっても不自由よね。人々は皆魔物の恐怖におびえながら閉塞した空間に閉じこもってる。」

古川も僕と同じことを、昔からずっと思っていたらしい。まぁでももう慣れているのだろうが。

 僕の視界には、黒いマントを羽織った三人の影が映っていた。シェルター内部で貰った装備はそこそこ上物で、防具は全員同じ、猛獣の頑丈な皮で作られた軽い服のようなものと、耐熱性に優れた黒いマントだ。武器は、全員バラバラで、自分の気に入ったものを選んだ。僕は、重い連撃を与えるために重めの短剣を二本。刀身に細かい装飾が施されている。銘を「ファングレス」という。静香は軽めの拳銃「ライトル」を二挺。奥村は軽めの長槍「ニードランス」を。古川は、静香と違って重めの拳銃「ライフイータ」を二挺。そして最後に雫だが、戦闘はダメとか言ってたにもかかわらず、一番攻撃力が高いであろう長剣「テイルソード」を選んだ。理由を聞くと、自分のためではなく、もし誰かの武器が無くなったらという事らしい。本当は持てるだけ持っていきたいところだが、荷物が増えると、それだけ進行が遅くなるので必要最低限の量という事になった。


――町を出て数時間。僕らは手持ちの時計を確認しながら、涼めるところを探していた。時間は昼ごろ。時計を見なくとも分かる。太陽が真上にあるからだ。それでも時計を確認してしまうのは、やはり今までの癖だろうか。

「あった! いいとこあったよ!」

雫が泉を見つけたようだ。何故こんなところに、とも思ったが、この際何でもいい。何より暑いからだ。僕らは泉までたどり着くと、昼食をとる事にした。食量は町から持ってきた。だが、おそらく一ヶ月でなくなってしまうだろう。何せこのパーティは五人だしな。どこか違う町に着いたらそこでまた調達するのだ。

「それにしても、こんなにのんびりしてていいのかな?」

僕がそんなことを言うと、古川が昼食に食いつきながら何故? とこちらを見ている。

「魔物に襲われたりしないのかな、てこと。」

「んっ。大丈夫だよ。魔物はこの辺にいないから。この辺はまだ人よく来るからきちんと整備されてるの。」

口の中の物を飲み込んで、そう教えてくれた。

「へー。」

じゃあ整備されてないところはどうなの? とも聞きたかったが、飯の邪魔をしては悪いと、話を終わらせた。

 昼食を終えると、再び出発した。太陽もそれとともに下り始めた。

「それにしても、本当に僕達はどこへ向かっているんだ?」

「どこって言われても、たぶんこのまま行くと、山茶花町ね。」

なんだ、町があるのか。ならばそこで情報収集をすればいいと、僕は考えた。

「それじゃあ、そこに行こう。」

「うん。」

そういえば、僕は今朝から古川としか会話をしていないような気がする。そんなことを考えていると、背後から鬼のような目で睨み付けられていることに気がついた。犯人は雫だ。

「なんだよ……。」

「なんでもないもん。」

「……そうか。」

雫は何か怒っているようだった。何で怒っているのか僕には分からないが。そして、今のやり取りを見ていた古川は隣でクスクス笑っている。まったくなんなのだろうか。


 翌日、僕らはようやく山茶花町に到着した。途中で数匹の魔物と遭遇したが、難なく討伐することができた。

「おおー。ここが山茶花町か。」

「そう。実はね、私はじめはこの町にいたのよ。」

「え、そうなの?」

って、僕は気づけばまた古川と会話をしていた。そして、背後からは雫の視線。

「まぁ、じゃあとりあえず入ろうか。」

僕はうまく誤魔化して、町の中へと入っていった。

 町はあまり栄えてはいないようで、人は少なく、家も古臭かった。大きくもなく、ぱっと見僕らがいた町の半分くらいしかなさそうだ。

「さ、まずは宿だな。」

僕らは人に尋ねながら、安い宿を探した。というのも、栄えていない割には宿代が高いからだ。最初に見つけた宿に入ったとき、明らかに五人分払えるようなものではなかったのだ。

 結果、僕達は「夢や亭」という少しおしゃれな宿に泊まることにした。値段はギリギリなのだが。部屋は、金がなく一部屋で、しかもベッドが二人分しかない。三人は床で寝なければならないのだ。じゃんけんの結果、僕と奥村と、じゃんけんではないのだが雫に決まった。ベッドは二段ベッドで、上に静香、下に古川となった。床組みは、雫の要望で僕を挟む形にして寝る事になった。夕飯を済ませると、早速そのかたちで寝た。

「おい雫。くっつくな暑い。」

「えー。」

さっきから雫がくっついてきてとても暑かった。もともと暑いから余計に耐えられない。そうしていると、ベッドのほうからまたクスクスと笑い声が聞こえた。正体は分かっているが、何も言わないでおくことにしておこう。


『佑太。佑太。起きて佑太。』

誰かが僕を呼んだ。僕は気づくと、声に導かれるまま宿の外にでていた。そして、僕の目の前には、声の正体、星野が立っていた。

「星…野…?」

「そうよ。また会えたわね、佑太。」

また…、そうだ、僕は以前、思い出の森で星野とあった。

「ごめん。あの森、焼かれちゃった。」

「ううん。いいの。あれは、私のせいだから…。」

星野がぼそっと呟いた言葉を、僕は聞く事ができなかった。

「え、なんて?」

「いや、なんでもない。」

星野の笑顔を最後に見たのは何時だったろうか。僕も自然と、笑っていた。そうだ、ここで居場所を聞かなくては。

「星野、今までどこに居たんだ?」

そういうと、星野は辛そうな目になった。

「そうよね。あなたにも言わなくてはいけないのよね。それが、『ルール』だから…。」

ルール? なんだろうと思ったが、なぜか聞いてはならないような気がして、聞けなかった。

「私は今、北の山脈にある廃城『デスアクター』にいるわ。」

北の山脈。それはここからでも見えるほど大きなものだった。え、でも今って、ここにいる星野は偽者なのか?

「私は幻。あなたを導くための幻なのよ。でも、あなた、本当に来るの?」

悲しそうな顔で僕を見る。

「当たり前だ。そのためにここまで来た。」

僕が真剣に答えると、星野の表情に少しの喜びが浮かんだ。そして、闇の中へと消えていった。

「北の山脈か。」

僕は新たな決意を手に握り、右目を紅く染めて呟いた。

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