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ろく

「この忙しい時に!花瓶を持って早く持ち場に戻りなさい」


慌てて物置部屋から出て行く2人にざまあと思うが、侍女長の眼光は鋭いままで。


「リデアお嬢様、花瓶を取りに行くのに時間をかけすぎですよ。素早く行動してもらわなければ困ります。次からは気をつけてくださいね!」


「はい」


「2時間後にキャロラインお嬢様の婚約者様がお見えになりますから、庭園の手入れをしておいてくださいね」


私の返事を聞くことなく、忙しいと言いながら侍女長も物置部屋から出て行き、私は溜息を吐いた。


理不尽だが、カガチが迎えに来るのは暗くなってから。それまでプラプラしていれば、仕事をしないと反省部屋に監禁されてしまうのは確実。


仕方ない。庭園で薔薇の手入れをしますか。



薔薇の匂いに包まれた庭園は、王都でも名高い。芝生面を囲むように赤やピンク、白などの薔薇の生け垣。中央にはデュモンティー伯爵家が水属性スキルの者を多く輩出していることを象徴して作られた豪華な噴水から噴き出す水が、虹を作りだす。そして、香りの強いつるバラが、我先にと枝を絡ませて咲いているアーチを潜ると、ガゼボがある。


ここでキャロラインは婚約者と親睦を深めるのだ。


婚約者の名は、侯爵令息のユージン・サフィーロ。15歳。


ユージン・サフィーロは女性に非常にモテる、恋多き方だと使用人の間でも噂されるほど有名だ。肩まで伸びたストレートのブロンドの髪に切れ長のブルーの瞳に細面の美しい顔立ちのスラリとした体つきをした貴公子で、人当たりも良く会話も軽妙らしい。我儘なキャロラインにも気遣いのできる貴重な人物だ。


イケメン貴公子に優しくされた我儘な姫君は、お約束のごとく恋に落ちた。家格もまあまあ釣り合うことからトントン拍子で彼等は婚約した。って感じだ。


でも、ユージン・サフィーロに心を寄るご令嬢は多勢いる訳で。お茶会などでは令嬢達に見せつけるように、キャロラインはユージン・サフィーロにベタベタと体を寄せるのだ。牽制なのだろうが、令嬢達の怒りの瞳をものともしない、その姿勢は凄い。


そのうちに背中を刺されるのでは?と邸でのお茶会をこっそりと覗きながら思ったのは、つい最近だ。


「さっさと終わらせて、荷造りしなきゃ!いや、その前に何か食べたい」


ひもじいなと思いながら、箒片手に庭園を見回すと、昨日は風が強かったせいか散ってしまった薔薇や枯れ葉が結構ある。


「この花びらがクッキーだったら良いのにね」


馬鹿なことを呟いてから、散った薔薇や枯れ葉を集めて、ゴミ置き場に持っていく。後はアーチに絡んだつる薔薇と生け垣の薔薇の棘を切るだけだが、根気がいる。


薔薇の手入れで思い出すのは、匠を巻き込み沼った冒険アニメ『異世界召喚のパティシエール』だ。異世界に召喚された女子高生が、お菓子への愛情を武器に、剣と魔法の世界を生き抜いていく作品だ。作中に描かれている薔薇をイメージしたお菓子の数々は魅力的で、ヲタク魂の趣くまま私は、薔薇お菓子を完璧に再現するのが楽しみだった。


前世で異世界召喚された国の食事事情は、肉、魚や野菜の旨味と塩のシンプルな味付けと調理方法も手間を端折ったものが主流で、甘味も果物と蜂蜜だけだったから、匠と起こした飯テロ甘味テロは評判は良かったが…。


転生してから味噌、醤油、ドレッシング、お菓子も無ければ、おだしの文化がないことから、政治や宗教的に故郷の文化は広がらなかったか、シュトラーフェの脅威を前に忘れ去られたかだ。

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