さんのつづき
背が低いくせに怒り顔が怖い。カガチの顔が醜さと怖さが増して変な声で頷いてしまった。
「ふぁっっくからのバルス!」
叫びと同時に天井に向けて中指を立てる獄卒カガチ…。
「えぇと、私が悪いのですか!?ごめんなさい!!」
日本人特有の条件反射で頭を下げると、ドレッサーにかけてある白い布が床に落ちた。
「橙子は悪くないじゃろう、謝る必要ないぞ。ワシはな日下部 匠、小太刀 橙子のニ名の魂が三途の川にこんからな、閻魔様の命令で迎えに来たんじゃ」
「えっ!?ちょっと待って!匠って、まだこの世界に居るの!?」
「そうじゃ。正確な居場所はわからんが日下部 匠の魂はこの世界に居る。…魂を迎えに来たんじゃがなぁ。小太刀 橙子は生まれ変わっとるからなぁ、殺すわけにもいかんし。日下部 匠の魂のが先に迎えじゃな。ちゅう事で、小太刀 橙子お前が死ぬ頃に迎えに行くからな。じゃあな」
換気窓から外に出ようとする獄卒カガチの腕を私は、匠と再会できるチャンスを逃すものか!と咄嗟に掴んだ。
「ちょっと待って。待って。デュモルティー伯爵家に居ても仕方ないし、私も連れて行ってください!匠を探すお手伝いしますから!それに私が死んだら、すぐにあの世に連れて行けますよ!これぞ一石二鳥!お買い得ですよ!」
「む!?最後のお買い得のは意味わからんが、まぁ、うぅぅむ」
唸り声をあげ、私の頭の天辺から足の爪先まで視線を動かしながらジロジロ見るカガチ。
ドレッサーに映る私の姿はボロボロだ。艶のない髪は老婆のような薄灰色で、着古しほつれた御仕着せから出た手足は、枯れ枝のように細いく痣だらけだ。亡者と勘違いされても仕方がない。
「苦労しちょるんじゃな。しゃぁないな。『40秒で支度しな』じゃ」
「イェッサー」
40秒で支度しな…か。日本で聴き慣れた台詞をカガチが知っているせいか、不思議と親近感が湧く。きっとマニアかヲタクだ。語り合わねば!
いや、それより40秒で支度しなきゃ!と必要な物を頭の中でリスト化するが。
「40秒は言ってみたかっただけじゃ。暗くなる頃に迎えにきちゃるからな、それまでに荷物を纏めておくんじゃぞ」
「いやいやいや、私物なんてたいして持っていないから、すぐ身支度できます!我儘じゃないし、最悪身一つでも全然平気だよ。さあ、匠探しにlet's go!今すぐ出発!」
「冗談が通じんのか」
当然っしょ。
デュモルティー伯爵家で私の立ち位置は、シンデレラの下をいくのだから!さよならできるのなら、迅速にだ。
「じゃがなぁ…。2人旅になるんじゃと、ワシにも準備する時間が必要なんじゃ」
カガチにも都合があるのだし、…仕方なく「分かった」と頷き手を離すと、カガチは忍者のような素早さで換気窓から外に出て行った。