じゅうく
今世、久しぶりのベッドは極楽と言っていいほど、寝心地が最高だった。
フカフカの枕。程良い硬さのマット。良い匂いの毛布。
なのに、おばあちゃん家にあるような古い掃除機に追いかけ回されて、花びらと一緒に吸い込まれる悪夢を見た。
原因は、隣のベッドで寝ているカガチだと、断言する。ともかく「ガァーゴォー」とイビキがうるさいのだ。防音の魔導具を錬金術で作るか、カガチと別の部屋にしないと寝不足で死んでしまう。
私は案外、神経質だったようで。
二度寝に挑むが、イビキとデュモンディー邸で培った早起きの習慣が抜けず挫折する。仕方ないかと窓を少し開けると、潮の匂いがする風が麻のカーテンを軽く揺らした。
ぬぅんと背伸びをして窓から顔を出すと、家々の間から海が見えた。
「そぉ言えば、ここは港町だから、朝市とかあるのかな?」
ポツリと漏れた独り言。前世でも港町に行ったことがないし、朝市も未体験。新鮮な生牡蠣をレモンと醤油で食べれるかも!それからウニとか刺身も。
「イカ焼きじゃ!イカ焼きを5枚たのむぞ!」
「!?」
ついにイビキだけでなく、寝言まで言い始めたか!とカガチを見れば、奴は上半身を起こして自分の荷物をゴソゴソと漁っていた。寝言じゃないことにホッとしたと同時に、おつかいを頼まれたのだと理解した。
差し出された小袋を受け取ると、そこそこ重い。
アランス王国の貨幣は硬貨で、紙幣はない。価値は日本円だと、小銅貨1枚が10円、銅貨1枚が100円、小銀貨1枚が1000円、銀貨1枚が10000円だ。小金貨や金貨もあるが、平民が普段使うのは銀貨までが一般的だ。
小袋の中は銅貨10枚と小銀貨9枚。
「釣りは駄賃じゃ」
「ありがとう!」
イカ焼き5枚が銅貨10枚と小銀貨9枚もするはずないし、ホクホク顔で私は女将さんにオススメの露店を聞いて。
「草色の屋根の露店だよ。でも、あんまり買い食いしちゃダメだよ。ちゃぁんと、朝ご飯用意してるんだからね」
「はい。行ってきます」と宿を出た。
因みに宿の名前は「ごめの宿木亭」だ。
◆
「ごめ」と呼ばれる海鳥の鳴き声を聞きながら、露店が並ぶ通りをぶらぶら歩く。まだ早い時間だと言うのに、人が多い。朝市の効果だろう。




