いちのつづき
私のスキルが戦闘に不向きだったため当然、母は親戚から嫌がらせをされて、耐えきれず父と私を残して伯爵家からある日突然出ていった。
他所に男を作り駆け落ちしたのだと、使用人たちの間で噂になり、父は悲しみを紛らわすためか、母への当てつけかわからないが継母と再婚し、キャロラインが生まれた。
父は母を恨んでるようで、私に対して情など無い。それでも孤児院に入れずデュモルティー伯爵家に置くのは、政略の駒だからだろう。きっと裕福だが問題ある子息か、何回も結婚してるであろう年の離れ過ぎた相手と政略結婚させられる。それまでデュモルティー伯爵家の使用人のように過ごすのだ。
そんな風に漠然と、未来を想像しながら木箱を開ける。中は木彫りの魚を咥えた熊だった。
「スキルを使わなきゃ、見つからないかなぁ」と、大きな溜息を吐いて木箱に蓋をした。
母を追い詰めた原因のスキルなんかに頼りたくないが、仕方ない。
数回パチパチと瞬きをして、ピンクの花柄の花瓶を思い浮かべて呟く。
「サーチ」
数秒経過したが、棚にはなんの変化もなく「おかしいな?」と周囲を見回すが、目当ての反応はない。
私のスキルは『探索』だ。紛失物 を見つけたり、指定した場所などを探査、調査して新しい物や魔物を発見したりする。
一見便利そうなんだけど、戦闘スキルじゃないから屑スキルだ。
「あーぁ。やられたぁ」
キャロライン付きの侍女は「物置部屋にある」と言っていたが、実際にはピンクの花模様の花瓶は物置部屋になく別の場所にあるのだ。嫌がらせだ。
「まったく」と呆れるのと同時に、私のお腹が空腹を訴えてクゥゥと鳴った。
デュモルティー伯爵家での私の食事は、1日2回。時間も厳しく決められていて、時間を過ぎると食事できないのだ。他の使用人達は1日3食で時間もある程度融通がきくのに!
まぁ、つまり、私は朝食を食べ損なったのだ。もしかしたら、今日は食事にありつけないかもしれない。
お腹空いたなぁ。花瓶何処にあるかなぁ?と、思いながら散らかした木箱の片付けをはじめたが、不揃いな大きさの木箱はなかなか棚に収まらなくて。
八つ当たりで「えい!」と力任せに隙間に小さな木箱を押し込むと、振動で棚が揺れて年代物の筒が一つ落ちてきた。
やばい!キズがついてたり、壊れてたりしたら殴られる。
さぁっと全身の血が引く。慌てて筒がキズついていないか確認する。筒にキズはなかったが、問題は中身だ。
震える手で筒の蓋を取り、中を覗くと丸められた紙が入っていた。
「良かった」
中身が紙なら壊れる事が無いからほっとすると同時に、何が書いてあるのか気になるのが人と言うもので。ドキドキしながら丸められた紙を広げた。