じゅうご
薄暗く低い温度が一定に保たれた冷暗所には、木箱に詰められた野菜、小麦粉や塩が入った袋が壁沿いに設置された棚に収納されている。
芋、人参、たまねぎ、豆などの長期保存できるものが多い。
お、干し肉発見!ってことで、物を持ち運ぶためのスキル「アイテムボックス」と念じると、空間にバスケットポールぐらいの大きさの穴が空く。野菜、小麦粉、干し肉、塩をバレない程度の量を『アイテムボックス』に放り込んでいく。
最後に林檎を入れて、もう冷暗所に用はない。
厨房に戻ると、料理人達が頭にクエスチョンマークを浮かべ、辺りを見回している。
この状況では、調理道具の拝借は無理かぁ。
「お前ら!賄いだけじゃなく、旦那様達の夕食まで手を出すとは、何を考えてる!」
料理長の怒声が響き、カガチを探すと奴は満足そうに腹を撫でていた。
食べ過ぎだよ。『隠密』があっても気付かれるのも時間の問題だと、カガチをつれて早々に厨房を後にした。
すれ違う使用人達は誰一人、私とカガチに気づかない。『隠密』スキル持ちが偵察し放題だぞ。それで良いのかデュモンディー伯爵家と、余計なことを考えながら、やってきたのは人気のない父の書斎の前。
「身代わり案の代わりに、私、デュモンディー伯爵家を出ることを父と話すことにしたよ」
「貴族家を出るんは、面倒くさいぞ」
「心配しているの?でも大丈夫。だって父は私に興味がないから、簡単に出て行けるわ」
好きの反対は無関心って言うし。
「それなら、良いが」
目を細めて私を見上げるカガチは信用していないようだが、本当に大丈夫だと自信を持って言える。
父は、針の先ほども私に興味がないのだから。
「行きますか」
執務室の扉を3階ノックしたと同時に、カガチが『隠密』を発動し、奴の身体は空気に溶けるように透明になり姿が消えた。『隠密』と言うより、『透明人間』の方がしっくりくる。
「失礼します、お父様」
少し緊張しながら入室すると古書の匂いがして、羽根ペンが擦れる音と、書類を捲る音がやけに大きく聞こえる。机に書類が積み上がり、窓を背にして重厚な椅子に座る男性。リデアの父親だ。
彼は、キャロラインと同じ水色の瞳と髪をしている。
「勝手に入って来るな」
「お話があります」
父の羽根ペンを持つ手がとまるが、私の顔を見ようともしない。
「私は本日をもって、デュモンディー伯爵家を出ていきます」
「好きにするといい。ただし、今後何があってもデュモンディー家の敷居を跨ぐな」




