じゅうに
「橙子の身代わりを置いて、こそっと連れ出す予定じゃったが、デュモンディー伯爵家を潰すか?」
本気でデュモンディー伯爵家を潰しかねない気迫のカガチだが、潰したら国とかから目をつけられそうだから、やめてほしい。と言うか、私自体がもうデュモンディー伯爵家に関わるつもりは無い。
「いやいやいや、潰さなくていいから。それより、私の身代わりってどう言うこと?」
「貴族に家出人ちゅうて、手配されると厄介じゃからな…。橙子は今にも死にそうななりしちょるし、身代わりに死体を置いて連れ出す予定じゃったんだ」
良いアイデアだろうとドヤ顔するカガチ。死体には悪いけど、私を死んだことにすれば、完全にデュモンディー伯爵家と関わることはなくなる。
確かに良いアイデアだが…
「いやいやいや、死体を身代わりにするなんて、罰当たりだからお断りだよ」
「何を言うとんのじゃ!橙子の身代わりにするんのが、1番面倒がないんじゃぞ」
「そうかもしれないけど…。罪悪感塗れになるし、止めようよ」
「しょうのない橙子じゃ。そこの掘り返した骸の遺品を遺族に返せば、罪悪感が消えるんじゃないか?ちょっと待っちょれ」
カガチが示す穴の中を覗くと、茶色く変色した骸骨がまだ半分くらい土に埋もれていた。
今世で初めて見る遺体。こんな寂しい場所で埋められて、無念を訴えるような骸骨を見た瞬間、私は自然と名前もわからない骸骨の冥福を祈り手を合わせた。
「この指輪なんてどうじゃ?」
私に遺体が身に付けていた金色の指輪を手渡すカガチは、暗に身代わり案は実行だと告げる。カガチの言い分がどうしても納得いかなくて、金色の指輪を弄んでいると、裏側の刻印に気がついた。
指輪には日付と『A to S』と記されている。つまり結婚指輪だ。
私の父は、アルフレッド・デュモンディーで、母はソフィア。イニシャルは『A』と『S』。
ある日突然、家から居なくなった母。男と駆け落ちしたと使用人達は噂したが、誰と駆け落ちしたのか分からない。実際は行方不明だ。
そして、『A to S』と刻印された結婚指輪をした身元不明の遺体が、デュモンディー邸の裏庭に埋まっていた。




