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じゅういち

古井戸の中側は苔らきものと、ヘドロ。底を見下ろせば、不揃いな足場が螺旋階段のようになっていて不気味だ。だが、パリの凱旋門の螺旋階段を登り切った時のような達成感がある。


古井戸の底に落ちそうになりながらも、あの地道な作業を痛む左腕と腹を我慢してよく頑張ったな私。と自分を褒めて見上げれば、日が傾き日暮れがちかい。後もう少しで古井戸から脱出できる。


が、しかし問題がある。


誰かが古井戸の近くで地面を掘るような、ザッザッと音がしているのだ。見つかれば酷い目に遭うこと間違いなし。


庭師だろうか?貴族家の庭園では、花や芝生を植える前に豊かな土を作るため、生ゴミや落ち葉を集めて穴に捨てる場合がある。


だが、ここは目立たない裏庭で、花や芝生を植える必要がない。しかも庭師が日暮れ間近に穴を掘るだろうか?


怪しい。何をしているのか気になるから、確認しよう。


そうと決まれば、スパイか名探偵のように音を立てないように足場を作り、慎重に古井戸の縁から頭を出そうとした瞬間、穴を掘るザッザッという音が止まった。


気づかれたかと警戒するが…。


「おっ!あった、あった」


聞き覚えのある声に、私は警戒を忘れて古井戸から顔をだすと、裏庭は何かを探すかのように複数の穴が掘られている。


「カガチ!貴方こんな所で何してるの!?」


裏庭の隅でシャベルを担いだカガチの姿が。


「それはワシの台詞じゃ。古井戸の中に居るちゅうことは、幽霊屋敷のお化け役の練習か?」


「違うから!キャロラインに落とされたのよ」


「なんじゃと!井戸ちゅうのは、それなりの深さがあるもんじゃぞ!落ちたら…下手したら死んでしまうぞ!そいで怪我しとらんか?」


「左腕とお腹が痛いよ」


「治療が必要じゃな。今すぐ引き上げちゃるからな」


どうしよう。デュモンディー家の奴らより、地獄の鬼の方が優しい。思わず涙腺が弱くなり、古井戸の外へ引っ張り出してもらうと大泣きしてしまった。


リデア・デュモンディーは人の温かみ(カガチは獄卒だけど)に飢えていたようだ。と実感した。


「いい加減に泣き止まんか。じゃないと目玉が溶けるぞ」


「ごめんなさい。優しいこと言われたから、つい」


「は?ワシは、普通のことしか言っとらんぞ」


「このデュモンディー伯爵家ではね、私の扱いなんてシンデレラ級の虐待なんだよ。食事も満足に食べられないし、父親は私をいない者として扱う。継母は私を使用人として、そして義妹のキャロラインからは魔法の的にされたりの暴力を振るわれるし。普通じゃないんだよ!」


私らしくなく愚痴を吐き出すと、カガチの眉間の皺が深くなっていく。


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