じゅう
私に扇子を向けるキャロライン。スキルを使うつもりだ。
「ウォーターボール!」
キャロラインの詠唱と同時に、扇子の先からテニスボールぐらいの大きさの水球が実現し、私に向かって発射された。
私に身を守るスキルは無い。出来ることは、ただ頭を手で守ることぐらいで。
水球が左腕に当たり、痛みで一歩下がろうとするが真後ろは古井戸で私はバランスを崩すが、容赦なく2発目の水球が放たれ腹に受けた。
痛みと同時に体の浮遊感。
スローモーションのように青空が遠ざかっていき、全身を襲う冷たさと水音に、私は古井戸に落ちたのだと理解した。
「婚外子は古井戸の中がお似合いですのよ」
「しばらく、そこで反省してください」
「明日の朝まで覚えていたら引き上げてあげますよ」
古井戸に響くキャロラインと侍女2人の声に言い返したかったが、全身の痛みで呻き声しか出せなかった。
クスクスと嘲りの声と足音が遠ざかり、痛みが引くまで水のの中でジッとする。幸い古井戸の水の深さは、私の胸ぐらいで水死することはないが寒い。まだキャロラインから攻撃された左腕と腹が痛い。前世の私を処刑した業火よりマシだが、このままでは風邪をひいてしまう。
もしかして、キャロラインは最初から私を古井戸に落とすつもりだったのかも。ユージン・サフィーロには、すぐに体調を崩す(身体の弱い)専属侍女など迷惑でしかないだろうからと言って、ユージン・サフィーロの要求を拒否するつもりだったりして。そう考えると腹が立つ。キャロラインもこの冷たさを味わえばいいのに!
イライラとするが、古井戸の底からだと全てが無意味で諦める。私の長所はポジティブで好奇心旺盛なところで。丸い空を見上げて「ここから脱出しなきゃね」と意識を切り替えた。
ロッククライミングの要領で壁の隙間に指を掛けるが、ヘドロでヌルヌルと滑り指に力が入らなくて、私は錬金術を使い這い上がることにした。
まず腰ぐらいの高さの場所に手を翳して、竜巻っぽいもの…いやこの場合、水中だから渦か?を出現させて「分解」とつぶやくと、手を翳した部分が凹んだ。そのまま手をスライドすると、砂や石を巻き上げた渦も移動して。「構築」で壁に石でできた出っ張りを作り上げる。
「これで足場の出来上がり。上手くいきそうね」
ホッと息を吐いて、出来上がったばかりの足場に登る。後はこの繰り返しの地道な作業で、道のりは長い。




