第四夜 死の香り
第四夜 死の香り
私はいつものようにインコと遊んでいる。水色と白が合わさりまだら色を作り出していく。彼女の名前はバニラ。機嫌が悪くなるとメガトンキックをしてくるセキセイインコだ。
毎日癒しを運んでくれて、慰めてくれる存在になっていくと、いつの間にか私の大切な家族の一員になっていた。
私の恋人もバニラを可愛がっていた。六年の付き合いで、色々ありギクシャクしている時も、私達を気にかけてくれるバニラがいた。
「バニラ、今日も可愛いな。誰かさんと違って」
昔はそんな言葉も気にしなかった私だが、関係が崩れかけている現在は、火に油を注ぐようなものだった。
その時、ふいに自分の中で言わなくてはいけない言葉が降りてくる。それを言ってしまえば、彼女に対して何かが起こる予兆を残して——
「ねぇ、言わなくちゃいけない事があるんだけど、言ってもいい?」
神妙な面持ちで聞くと、彼は不安そうな表情を浮かべ、首を振り続けた。
時々起こる感覚がある。それは嫌な予感がその通りになる事だ。時には人に対して危険な内容のものもある。
今回はセキセイインコのバニラに対しての言葉。これを言わないときっと、他のものが人間に降りかかってしまう。
だからこそ、これは言わなくてはいけない事なのだ。本当は言葉にするのも辛い。
言わない選択もあっただろう。しかし未来は決まっている。それを回避する事は出来ない。そう感覚が教えてくれたんだ。
私は彼を制しさせる言葉をゆっくりと吐き出していく。
「この子、二分後に亡くなるよ」
「言うなって言っただろう」
「……ごめん。言わなくちゃいけないの」
いつもの自分ならこんな事を言う訳ない。それなのに、誰かの意思が自分の体を動かしているような不思議な空間の中で、引き下がらずに言い切った自分がいた。
全ての会話を終えると、急にバニラがプルプルと震え出した。数秒後に何かに攻撃されるように小屋の下まで落ち、ビィービィーと鳴いている。
私はその光景を見ながら、我に返ると、すぐに動物病院に電話をかけ始めた。
何故、あんな事を言ってしまったのか分からない。まるで自分ではない誰かの言葉のように思えると、ゾッとした。
それから時間はあっと言う前に二分を刻むと、その瞬間、鳴き声がシュンと止み、呼吸をしなくなったバニラが力なく倒れている。
あの時、言わずにいたら違う未来があっただろう。だがそれは確実に私達に向かってくる死の香りだったのかもしれない。