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薤露  作者: 空蝉ゆあん
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第三夜 顔面崩壊

 第三夜 顔面崩壊

 

 私が二十代の頃の話だ。当時、同棲していた恋人と五年間この部屋で暮らしてきた。彼の母親が引っ越してきなさいと言ってきたので、色々考え引越しをする事にした。


 荷物をまとめ、掃除もし終わり、後は荷物を運ぶだけになった。荷物が多かったのと、私が小さい車しか所有していなかったのもあり、兄に手伝ってもらう事にしたんだ。


 ドライブが趣味だった私は、下道が空いているのもあり、下道で行こうと提案した。すると兄は、少し不服そうだが、了承してくれ、次の家へ向かう旅が始まったのだ。


 田んぼが並んでいるを走っていると、景色が移り変わり、ビルが多くなってきた。私の所在していた県は、どちらかと言うと田舎だ。生まれてこのかた、この県で住んでいた。


 ミラーを確認すると、後ろからちゃんと着いてきている事が確認出来た。


 安心した私は、事前に行き道を教えていた事もあり、気楽にドライブを楽しんでいる。


 そうして1時間半かけて、次の住居に辿り着いた。マンションだが、仲介業者が言うには、住んでいる人は少ないらしい。


 荷物を運び終えると、実家に一度、帰ろうと言う話になった。その時は、手伝ってくれた兄夫婦の事もあり、私の実家に向かう事にしたんだ。


 彼も同意してくれ、私の実家へと車を走らせた。1時間、車を走らせると、中間地点を通りすぎ、信号が赤になったので、止まった。その時に後ろに兄の運転する車があった。ミラーで見ていると、兄の顔が半分、膜のような、霧のようなもので、半分見えない状態になっていた。


 今はお盆時期だ。何かしらあるかもしれないと思いながら、その事を彼に説明すると、確認するように後ろを見た。


「見たところ、変な部分はないぞ」

「そうなんやね、見間違いやろうか」


 目の錯覚なのかもしれないと自分に言い聞かせながら、細道を運転しながら、家の駐車場にたどり着いた。

 すると、彼がやば……と声を漏らし、何かを見つめている。不審に思った私は、彼に問いかけると、状況を説明する内容が返ってきた。


 夕方五時が回っている。家の周りを黒い人影が行ったり来たりしていた。私は慣れているから、少し多いな、と思うくらいだったが、彼は、喉を鳴らしながらゆっくりと語り出した。


「お前、お兄さんの顔に靄かかってたって言ってたよな……」

「うん、それに今日の人影、なんか動きが変だよ」

「誰かを探しているみたいだよな」


 私だけにしか見えないと思っていたが、彼にもはっきりと見えていた。人の形をしているのに、真っ黒に塗りつぶされた、影の集団達。なるべく刺激しないように、知らんぷりしながら、本家へと足を踏み入れる。


 それから何事もなく、私達はかいた汗を流し、ゆっくりとお茶を飲んでいた。


「どっか行くん?」


 兄は自分のアクセサリーを取り出すと、どこかに出かけるようだった。イカつい金属アクセサリーを身につける。


「今から用事あるから、出かける。夜は遅くなるから、先に寝てろ」

「出かけるんやね、今日は気をつけた方がええよ」


 あの昼間に見た光景が忘れられない。何かの予兆のような気がした私は、忠告しながら兄の背中を見送った。

 それから二分後、裏の畑から誰かの叫び声が聞こえた。私達はその声を微かだが、耳にし、顔を見合わせる。


「様子見てきた方がいいよ」

「そうやな、見てくるわ」


 私の実家には裏口がある。そこにあったサンダルを急いで履くと、小さな電気をつけて、様子を見に行く。


「助けてくれ、誰か、助けてくれユヤ」


 私の名前を呼んでいる人がいる。声を聞くと、その人物は兄本人だった。私は何があったかと兄の側に行くと、そこには顔を押さえて蹲る兄の姿があった。


「大丈夫? どしたん?」


 一体、何が起こったのだろう。兄は手をのけると、そこには鼻から下半分が血まみれになっていて、大きく避けている。


 ぼたぼたと止まる事のない血を見て、私は大声で彼を呼ぶ。


「何があった?」

「土手で足を、引っ掛けて顔がコンクリートに直撃したんや……息するのも辛そう。急いで救急車を呼んで」


 兄が怪我をした箇所は昼間に見た白い霧に包まれていた箇所だった。あの時、起こった知らせはこの時を予言するものだったかもしれない。


 

 近所の人が救急車の音に引き寄せられると、兄は担がれていく。お盆の日は、気をつけた方がいいかもしれない。


 教えてくれたのか、それとも……


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