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薤露  作者: 空蝉ゆあん
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第二夜 手招き

 

 第二夜 手招き

 

 家には誰もいない。集まりで祖父母は外に出ている。残された私は、ビクビクしながらも二人の帰りを待ち続けた。


 私の家は古い。ガラスの引き戸で覆われている部屋はどんよりとした空気を漂わせながら、暗闇の中で蹲っていた。


 時計はカチカチと八時を示している。普段なら祖父母と一緒にテレビを見ている時間だった。


 父は仕事が忙しく、帰宅するのは夜中の三時くらいだった。母の入院費を稼ぐ為に、私達の生活を守る為に、頑張って働いている。


 基本、私を育てたのは祖父母になる。一人の時間が多くなってしまうのを見越して、本家に出入りをしていた。


 敷地内には本家ともう一つ両親が建てた家がある。母がいる時だけ、もう一つの家で過ごすと言った感じだった。


 基本は本家にいる事が多かった。古くて七つの部屋とトイレが二箇所、そして台所とお風呂がある。後は衣装部屋だ。昔は衣装部屋だったが、いつの間にか贈り物を保管する場所になっていた。住んでいるのは私と祖父母と父だ。


 夜になると不気味になる。時々だが水の音をさせていないのに、応接間からポチャンと雫が落ちる音が聞こえてくる。


 ガタガタと風が吹いて、ガラスが鳴り響きながら炬燵の中に潜り込んで、恐怖を和らごうとしていた。


 その時だった。仏間にぼんやりと小さな影が浮かんでいる。炬燵の中からひっそりと見ていた私は、目の錯覚と思って、擦った。


 もう一度、見てみると、ニタァと黒い影が笑っているように見えた。チラチラと右手らしきものを動かしながら、こちらを見ている。


「おいで、おいで」


 黒い影はこちらにおいで、と手招きをして自分の元へ来させようとしている。仏間の部屋から居間に冷気が漂っていた。


 ぞくりと悪寒が走り、恐怖で固まってしまった私は、その光景を涙をこぼしながら、見ているしか出来ない。


「ガラッ」


 玄関の引き戸を動かす音が部屋中に響き渡ると、密かな灯りが点いた。どうやら祖父母が戻って来たらしい。恐怖の糸を手放した私は、もう一度、目の前の光景を確認してみる事にした。


 そこには、何もない。

 そこには、誰もいない。


 人の気配を察知した迷い人は、子供をいつも見ているのだろう。


 貴方のそばにも、黒い影が手招きをしながら、死の世界に招いているのかもしれない。


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