004 - だにえるさま -
004 - だにえるさま -
・・・
「ネリーザ!、ネリーザ!、死なないでっ」
僕の名前はダニエル・リュート・アリア、14歳、アリア王国の第二王子だ。
僕が涙と鼻水を垂らしながら抱き付いている相手は婚約者のネリーザ・ヒューム、僕より3つ年上の17歳・・・先程夜会で何者かに毒を盛られて倒れてしまった。
ここは王城にある救護室、夜会会場からネリーザが運ばれて治療を受けていた場所・・・。
「殿下、残念ながらネリーザ様は・・・」
ぱあっ!
「うわ眩しっ!」
医者が彼女の死を僕に伝えようとしたその時、突然眩しい光に包まれてネリーザの目が開いた。
「・・・ダニエル様?」
「ネリーザ・・・僕の祈りが神に届いたのか?」
がしっ!
「ダニエル様・・・苦しいです」
僕は無意識のうちにネリーザを抱きしめていたようだ、彼女の綺麗な頬に僕の鼻水が付いてしまったぁ!。
「ご・・・ごめん、ネリーザ、今凄い光ったけど身体は大丈夫?、どこか痛いところは無い?」
さりげなく彼女の頬に触れてバレないように鼻水を拭う・・・。
「うん、実は私・・・神様に会って生き返らせてもらいましたぁ!」
「へ・・・」
僕のネリーザがおかしくなってしまった!。
・・・
「・・・という訳なのです、本当なら私は死んで新しい命として生まれ変わる筈だったのですがリーナさんのおかげでダニエル様の所に戻って来られたの」
「・・・」
「疑われるのなら私のスキルを調べてもらえますか?、「癒し」のスキルが増えていると思うので・・・」
「・・・」
「それで、スキル鑑定を行なった結果、「癒し(極み)」と「美しい女神オシーリアの加護」なる謎のスキルが増えていたと?」
「・・・はい父上、元々彼女のスキルは「料理が美味しい(中級)」だった筈です」
「新しいスキルが増えた事例は今までどこの国からも報告されていない、しかも2つか・・・それにしても女神の加護というのは何だ?」
「分かりません」
あれから1日経った、ネリーザは療養という名目で部屋に引きこもって貰っている、僕はというと実の父親である陛下に経緯を報告しているところだ。
父上は元々身体が弱く、数年前に倒れてからは殆どの政務を兄である王太子が行っているのだ。
ベッドで横になっている父上の隣で兄上も僕の報告を聞いている、ちなみに兄弟仲はとても良い。
「癒しのスキルというのは歴史書に記録が残る大聖女が持っていた能力だろう、あらゆる病を癒やし怪我を回復させるという冗談のようなスキルだ」
兄上が深刻な表情で僕に言った。
「あらゆる病・・・それなら父上の身体を治せるのでは?」
「やってみる価値はあるな、だがいきなり父上に能力を使うのは危険だ、他の重病人で試してみたいところだが・・・」
僕の提案に兄上が答えた、確かにそうだ・・・現在、我が国の政治体制は極めて不安定だから民衆に人気のある父上の身に何かあれば国が混乱する。
「私は別に構わないのだが・・・そういえば騎士団長の娘が寝込んでいると聞いたぞ、彼は信頼できるし口も硬い」
父上の言うとおり騎士団長の娘は昨年病に倒れ、彼女を溺愛していた団長は見ていられないほど憔悴しているらしい。
「もし癒しのスキルが本物なら厄介な事になるだろうな、我が国に聖女が誕生したとなれば他国・・・特に教会の権力が強い聖公国が黙っていない」
・・・
3人の議論は夜遅くまで続き結局病に臥せっている騎士団長の娘で試す事になった、もちろん団長へ事情を説明して了承を得られればの話だけど。
そわそわ・・・
「殿下・・・本当に娘は治るのでしょうか?」
「確実な保証は無いしまだ分からない事が多い、だがスキルの鑑定結果を信じるなら可能性は高いと思う」
翌日僕とネリーザ、それから兄上は騎士団長の屋敷にやって来た、もちろん3人は変装している、この事を知っているのは団長と屋敷の執事長だけだ。
出迎えてくれた団長に案内されて屋敷に入る・・・一番日当たりのいい場所にある彼女の部屋は可愛いぬいぐるみや小物で溢れていた、これを見れば娘が両親から愛されている事がよく分かる。
「ネリーザ、お願いできるかい?」
「はい、ダニエル様」
目深に被ったフードを外したネリーザの表情は真剣だ。
ベッドに寝ている彼女のシーツを取ると首から頬にかけて白く変色していた。
団長の話だと右腕や胸も同じ症状で石のように硬化しているそうだ、今は顔と下半身に向けて変色が進行中でこれが頭まで達すると死んでしまうと言われている・・・残念ながら現時点で治療法は無い。
彼女は屋敷の庭で遊んでいる時に石化蛇という魔物に手を噛まれたらしい、普通なら王都の周辺には居ない筈の魔物だけど何者かによって意図的に屋敷の庭へ放たれた可能性がある。
「石化蛇は屋敷の護衛がすぐに始末しましたが犯人は捕まっておりません・・・私に恨みを持っている者が家族を狙ったのだと思います」
団長が苦々しく答える。
「では始めます・・・」
ぱぁっ!
「うわ眩しっ!」
ネリーザが石化している箇所に手を翳すと部屋中が眩しい光に包まれた。
しゅぅぅぅ・・・
光が収まり、ベッドの少女に目を向けると白く石化していた箇所が徐々に小さくなっている、成功だ!。
「おぉ・・・奇跡だ・・・奇跡が起こった!」
だっ!
脱がしっ!
団長が少女に駆け寄り、石化した部分を確かめようと服を脱がし始めた!、ちょっと待って!、これは僕達が見ていいの?。
「・・・んぅ」
今まで眠るように閉じられていた少女の目が開いた・・・。
「お父様・・・どうしたの?そんなに泣いて・・・って!、私何で裸なのぉ!」
「うぉぉぉぉ!、オリーブたんっ!、オリーブたんっ!」
「嫌ぁぁぁぁ!」
ぺしぺし!
僕と兄上はネリーザに促されて少女に背を向けた。
僕達の後ろでは半裸の幼女に抱きつき頬ずりをする筋肉モリモリ男、その男の顔や頭を泣きながらぺしぺし叩く幼女という惨状がまだ続いている・・・。
「あぅ、お父様の涙や鼻水でべちょべちょですぅ・・・」
ネリーザによって服を着せられた少女が父親に文句を言っている、見た感じとても元気そうだ・・・。
少女・・・オリーブちゃんは強面の団長と違いシルバーブロンドの長い髪を持つ可愛い少女で、今年12歳になるらしい。
顔の所々をオリーブちゃんの手形で赤くした団長が僕達の前で跪いた。
「この度は娘を治療していただき誠にありがとうございますっ!、この私、ゴーマ・アヴラギッシュはネリーザ様と王家に生涯の忠誠を誓い大恩に報いる所存にございます!」
「あー、気にしないで、元々はネリーザちゃんのスキルを確かめる為に王家が無理を言って協力して貰った事だからね・・・もしかしたら治せなかったかもしれないし」
兄上がそう言って跪く騎士団長を立たせた。
騎士団長の屋敷から戻った翌日、ネリーザの治癒によって父上の身体は完治した。
医師や魔術師による体内透視の結果、生まれつき疾患のあった内臓の異常が全て消えていたらしい。
近年は食事もあまり喉を通らず歩くだけで息切れしていた父上は昨日から城内を歩き回り僕達兄弟が呆れるほどよく食べるようになった。
「ネリーザ嬢、心より礼を言わせて貰う・・・ありがとう」
治癒を行った後、身体が楽になったと言い父上がネリーザに頭を下げた・・・実は僕とネリーザの婚約に最後まで反対していたのは父上だったのだ。
ネリーザを応援する母上と決断を渋る父上・・・激しい口論の末、ようやく父上が根負けして「好きにしろ」と言い僕達の婚約が決まった。
父上は別にネリーザを嫌っていたわけではない。
アリア王国の国王として優秀な貴族令嬢を差し置いて他国の虐げられた・・・まともに淑女教育を受けていない令嬢が第二王子である僕の婚約者になる事を懸念していたのだ。
「これで癒しのスキルが本物であると証明された・・・聖女認定をどうするか頭が痛いな」
執務室で僕と話していた兄上が頭を抱えた。
「それにネリーザちゃんの恩人・・・リーナだったか?、その者も高い治癒能力を持っているそうじゃないか・・・他国に囲われる前に我が国で保護したい」
兄上としては他国で拘束されたり能力が悪用されるよりは安全なうちの国で・・・という考えのようだ。
「ネリーザの話だとメルト帝国に滞在しているようです、しかも希少なエルフ族の中でも更に珍しいダークエルフ、今や伝説の存在となっている精霊と一緒に行動・・・放っておくと誘拐目的の悪党どもが群がって来るかと」
基本的にエルフ族は結界に守られたエルフの森に集落を作りそこから出て来ない、稀に好奇心旺盛な者が外の世界に興味を抱いて村を抜け出し人間と共に暮らしている・・・。
「聖女の治癒力を持つダークエルフ・・・強欲な貴族や商人達の耳に入れば奪い合いになるでしょうね、1年ほど周辺国を旅した後でネリーザに会う為にこの国に来るようです」
しばらく思案していた兄上が僕を見て言った。
「・・・騎士団の諜報員をメルト帝国に派遣して探させよう、貴族や商人ならまだ良いが国同士で奪い合えば戦争に発展する危険がある、存在が知られる前に動く必要があるな」
・・・
ぱらっ・・・
「なるほど・・・寿命を迎えたエルフ族は肉体を捨て精霊になる、その後は生まれ育った集落に留まり能力に秀でた者は神格を得る事も・・・」
ぱらっ・・・
「人間の生活圏に精霊が居ない理由・・・人間と共に暮らすエルフが精霊になる要因の多くが寿命ではなく人間や魔物による殺害・・・その為に精霊になった者は人間の住む場所を避けエルフの森の奥深くに引き篭もる」
・・・
「精霊についての文献はこれだけ?・・・少ないなぁ」
僕は今、王城にある書庫で精霊についての資料を読んでいる、彼等には謎が多くて文献も少ない、地方の村には伝承が僅かに残っていようだけど精霊に会った事のある人間は殆ど居ない。
ネリーザの友人として近い将来エルフのリーナと精霊のロリーナを王城に招待する事になるだろう。
「ネリーザを生き返らせてくれたお礼をしないとね・・・」
読んでいただきありがとうございます。
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