015 - だにえるさまのゆううつ -(挿絵あり)
015 - だにえるさまのゆううつ -
コンコン・・・
「はぁい」
がちゃ・・・
「ネリーザ!」
「あ、ダニエル様ぁ!」
僕の名前はダニエル・リュート・アリア14歳、アリア王国の第二王子だ。
1日の仕事が終わり、僕は癒しを求めて日課になっているネリーザの部屋を訪ねた。
城内に与えられた自室のソファに座って本を読んでいる彼女の名前はネリーザ・ヒューム17歳、僕の婚約者だ・・・あまりの可愛さに1日の疲れが吹き飛んでしまう。
「少し眠そうだね、忙しかったのかな?」
僕はいつものように微笑んでいるネリーザの表情に違和感を感じて問いかける。
「お昼から先程まで聖女の衣装合わせをしていました、ずっと立ったままだったので疲れたのかもしれません、ダニエル様も疲れたお顔をしていますよ」
聖女の衣装・・・この大陸に聖女が現れたら必ず周辺国に伝えて聖女認定の儀式をしなければならない、遥か昔から条約でそう決まっているのだ、それは大陸一の国力を誇る我が王国でも例外は認められない。
ネリーザは将来、僕の妻であるのと同時に聖女・・・神を祀る神殿の最高司祭としてこの大陸にある国々の祭事に関わる事になる。
ぽんぽん・・・
ネリーザが自分の太ももを軽く叩く、疲れているのに僕に膝枕をしてくれるようだ。
もちろん結婚前の男女、しかも王族が2人きりになる事はできないからこの部屋には僕とネリーザの他にメイドが2人、生暖かい目をして僕たちを見守っている。
・・・僕はネリーザの隣に座り彼女の柔らかい太ももに頭を乗せた。
少し経ってネリーザの細い指が僕の髪を撫で始める・・・最初はゆっくり、次に指に髪を絡めて優しく・・・次第に僕は心地いい眠気に包まれていく。
・・・
・・・
最初に彼女に会った時は今のように丁寧な言葉遣いじゃなかった・・・。
「君・・・おーい、そこの少年、・・・少年だよね?、夜は冷えるのにそんな所で倒れてたら死んじゃうよ!」
大陸中央にある小国、ギノール王国・・・その王都の路地で力尽きていた僕に声をかけてくれた女性がネリーザだった。
「んしょ・・・小さいのに重いなぁ」
その言葉を最後に僕は意識を手放した。
次に目が覚めたのは農具を入れる物置小屋のような場所だった、小汚い毛布を取ると僕は何故か全裸だ!。
慌てて起き上がると額に乗せられていた濡れタオルが落ちる・・・それに毛布やぺったんこの布団からは甘くていい香りがした。
小屋の窓があったと思われる箇所には窓が無く風が入って寒い、時間は夜のようで夜空には2つの月が輝いていた。
・・・どれくらい時間が経ったか・・・外の様子が気になるけど僕は全裸だ、毛布をかぶって外に出てみようか・・・そう思っていると入口の扉が開いた。
ギィ・・・
「あ、目が覚めてる」
携帯用の魔導灯を手に持ったメイド服の女性が立っていた。
「熱を出して昨日からずっと眠り続けてたんだよ、お家はどこ?、帰る場所はある?」
魔導灯を机の上に置き、僕の顔を覗き込む女性・・・肩より少し長い金髪で瞳の色は暗くてよく分からない、年齢は僕より少し上のようだ。
「ここはどこ?、馬車が魔物に襲われて、行商人の荷台に潜り込んだらこの街に着いたの・・・」
「ジーノだよ」
「ジーノ・・・」
「そう、ギノール王国の王都ジーノ」
それから彼女は自分の食事・・・粗末なパンと具の入っていないスープを僕に食べさせてくれた。
くぅぅ・・・
僕が硬いパンを齧っていると彼女のお腹が盛大に鳴った。
「あ、もしかしてこれはネリーザさんの食事だった?」
「だ・・・大丈夫よ!、遠慮しないで食べて!」
「でもお腹が鳴って・・・」
「気のせいよ!」
くぅぅ・・・きゅるる・・・
「ぷっ・・・あははは」
その夜は寒かったから2人一緒の布団で寝た、僕は何故全裸なのか聞いたら服が濡れて泥だらけだったから洗濯して干してあるのだとか、それに・・・。
「熱が凄くて震えていたから私が温めてあげたよ、人肌で」
ネリーザさんがとんでもない事を言い始めた!。
「まさか裸で抱き合っ・・・」
「うふふ・・・可愛い男の子、抱き心地良かったなぁ」
「なぁっ!」
翌朝ネリーザさんは絶対に外に出ないようにと言い残してお仕事に行った。
小屋の隙間から外を見ると大きなお屋敷が目の前に建っている・・・彼女はこの家の使用人かな、でもこんなボロ小屋で寝泊まりするのはおかしい。
彼女について考えるほど謎が深まっていく。
その日の夜遅く、昨日より豪華な食事と僕の身体を拭く為のお湯を抱えて戻ってきた彼女を僕は質問攻めにした。
彼女はこのお屋敷の当主がメイドを襲って産ませた子供らしい、夫人によりメイドは追い出され当主は彼女に無関心、夫人の恨みは全てネリーザさんに向かってしまう。
夫人や兄弟姉妹達に酷い扱いを受けてもここを追い出されたら行くあてが無い、だから今は黙って耐え忍んでいる・・・。
「でもいつかこのお屋敷を出て自由に暮らせるといいなぁ・・・」
夜が明けて朝になる頃には僕は立ち上がって歩けるようになった。
ここがギノール王国の王都ならアリア王国の大使館がどこかにある筈だ、そこに行って僕の魔力・・・魔紋を見て貰えれば僕が第二王子だと分かるし国に帰る事ができるだろう。
でも僕は彼女が心配で小屋から離れられなかった・・・。
昨日と同じ時間にネリーザさんは小屋を出て仕事に行こうとしていた、その時・・・。
ドンドンッ!
「開けなさいネリーザ!」
誰かが小屋に来た、女の声だ。
ネリーザは僕を毛布で隠し、何があっても絶対に出て来ないようにと言った。
がちゃ・・・
「お前、昨日生意気にもお湯と料理を盗んだようね、料理人が見ていて報告に来たわ」
「す・・・すみません奥様!」
僕は毛布の中で誰かがネリーザを叩いたり蹴ったりする音を聞いた・・・でも出て来るなと言われていたので我慢する。
その日の夜遅く、ネリーザさんは小屋に帰ってきた、昨日と同じお湯と少し豪華な料理を持って・・・。
「あはは、奥様には殴られるし蹴られるしで散々だったよ、お屋敷を出る前に井戸で身体を洗ってきたけど傷に染みたぁ!」
「この寒いのに井戸で身体洗ったの!」
「うん、お屋敷が汚れるから毎日絶対に水を浴びて身体を洗えって言われてるの、手の甲なんて踏まれて皮が剥けたからすっごく痛かったぁ!」
「お湯を貰えばいいのに・・・」
「奥様の嫌がらせだよ、私が生意気にお湯を使うのが許せないとか言ってたなぁ・・・このお湯と料理は誰にも見られないで厨房から盗んできたから安心して」
「・・・」
「泣きそうな顔してどうしたの?」
「・・・ネリーザさん、僕はこれから自分の国に帰るんだ、一緒に行かない?」
僕の言葉に固まるネリーザさん、でも出てきた言葉は僕の予想と違っていた。
「外国に勝手に出るのは無理かなぁ・・・ほら私って一応貴族の血が入ってるから国に登録されてるの、だから無断で他の国に出たら亡命みたいになって国際問題になると思う・・・」
待って、そんな話は聞いた事が無い、たかが小国の貴族令嬢が外国に逃げ出したとしても国際問題になんてならないぞ・・・。
「それは誰に聞いたの?」
「奥様だよ」
ネリーザの話を聞いて僕はこの家の人間に殺意が湧いた。
・・・
僕は自慢じゃないけど幼い頃から聡い子供だった。
10歳には既に王族に求められるマナーは全て習得し、11歳で城に勤める文官並みの知識を持っていた。
父上は民に慕われていたけれど生まれつき病弱だった、王としての執務を代理で行う兄上の力になりたいと寝る間も惜しんで努力した結果、僕は神童と呼ばれるようになる。
12歳になると少しずつ国の執務にも携わるようになった、それなりに忙しくやり甲斐のある仕事を楽しんでいたある日・・・僕は王の右腕、忠臣とまで呼ばれていた宰相の汚職に気付いてしまったのだ。
最初は僕も目を疑った、そんな筈が無いと何度も調べ直した、でも彼は国の機密情報を他国に流し代償として多額の賄賂を受け取っていた。
僕は兄上に報告する為の証拠を集め始めた・・・今思えばすぐに父上か兄上に相談しておくべき事だ、でも僕はまだ経験が浅かった為に判断を誤った。
第二王子が身の回りを嗅ぎ回っている事に気付いた宰相は裏組織の人間を城に招き入れ僕を消す計画を企てた。
「殿下のように勘のいい子供は嫌いです」
使用人に化けた賊に組み伏せられた僕に宰相は醜く歪んだ笑顔でそう言った。
「商人に偽装した馬車を手配してあるので城の外に運び出して殺しなさい、死体は焼いて絶対に見つからないように・・・」
そこで僕は賊に薬を嗅がされ気を失った・・・。
有能な宰相が想定していなかったのは雇った闇組織の首領が僕の顔を見て高く売れると考えた事・・・。
僕は森の中にある組織の館で酷い辱めを受けた、僕の身体を味わい尽くした首領は裏で人間を奴隷として売買している他国の貴族に売り払ったのだ。
その貴族の所には奴隷専門の魔術師が居て契約紋を刻み自分の名を名乗れないようにすると聞かされた僕は絶望した。
でも運よく道中で馬車が魔物に襲われ隙を見て逃げ出せた、その後は森を抜け街道を走って商人の荷台に紛れ込みギノール王国の王都に辿り着いた、そして熱と空腹で倒れているところをネリーザに助けられたというわけだ。
くぅ・・・すぴー・・・
ぽたぽたっ・・・
「んっ・・・顔に水が・・・ってネリーザの涎ぇぇ!」
顔に水が落ちてきて目を覚ますとネリーザの顔が近い!、僕に膝枕をしたまま眠ってしまったようだ。
僕はハンカチを出してネリーザの口元の涎を拭った、その後生暖かい視線を送るメイドを呼びネリーザを起こさないでベッドに運ぶよう頼んだ。
今のネリーザは毎日厳しい礼儀作法の教育を受けている、あの頃のように気軽に話しかけてくれないし僕を揶揄うような事もしない、完璧な王子妃として将来僕の横に立つ為に必要な事というのは理解している。
でもこのまま教育を終えたらネリーザがネリーザじゃなくなりそうで怖いし不安だ。
結婚後は王城内にある僕専用の邸宅に移るからそこではあの頃のネリーザに戻って一緒に笑えたらいいな・・・。
「来年には結婚できるよ、ネリーザ」
僕はそう呟いてネリーザの自室を後にした。
ダニエル様
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