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体の奥から、ドドドドッと力が湧いてきた。もうこれ、全身が熱湯に浸かってるみたいな感覚!


「うわっ、熱っ!? なにこれ、めっちゃ熱いぃぃぃ!!」


声を上げて飛び起きるアレン。とりあえず体チェック──無事!服も破れてない!……けど!?

体の中でグラグラ燃えてた熱が、今度はじわじわと両手に集まってきてる感じ。まるで手のひらの中で、小さな焚き火が始まりそうな予感!

アレンの手のひらから、火花がバチバチッと飛び散る。魔獣の視線が警戒するようにアレンのほうを向く。でもその火は、すぐに黒煙に変わって空中に消えてしまった。


「え、え? 火の魔法じゃないの!? なんで爆発しないの!? いや爆発されても困るけど!」


混乱のなか、アレンは手をぶんぶん振り回して煙を止めようとする。でも火は出ないし、なんか焦げ臭いだけ!

……ふと、視線の端で子どもの姿を探す。さっき助け出したあの子は、村の大人に抱えられてすでに安全な場所へ避難していた。

よかった……と思ったのもつかの間、


ヴグァァァァァアアアッ!!


怒りとも威嚇ともとれる唸り声が大地を震わせる。牙を剥き、毛を逆立て、爪を地面にズザザッと滑らせながら、魔獣がアレンに向かって突進してきた。


「ひぃっ……!」


足がすくみ、体が凍りつく。目の前に迫る巨大な怒りと暴力の塊に、脳が拒絶反応を起こすように思わず瞼が閉じた。

まだ熱の残る両手を無意識に前に出し、反射的に身構える。そして──


ゴギィインッ──


金属がぶつかるような鈍い音と共に、地を叩くドオォーンという衝撃音が鳴り響いた。

……予測していた衝撃は、ない。

恐る恐る、アレンは瞼を開く。

目の前に魔獣の姿はない。視線を横に移すと、地面に横倒しになった魔獣がもがいているのが見えた。脚が不自然な角度に折れ曲がっている。

それでも魔獣は、残る脚で地を這うように踏みしめ、立ち上がる。

その執念を断ち切るように、リセリアが駆け込んでくる──

リセリアの剣が一閃、二閃、刃が通るたび、魔獣が巨体を鋭く震わせる。そしてその傷口は、すでにふさがり始めている!?


「……そんな……」


アレンは目の前の事態に絶句する。

じわ……じわ……と血が止まり、まるでなかったことにされていく。そして魔獣はなおも爪で反撃を繰り出す。

しかし、まだ明らかに動きに乱れはある。リセリアはその攻撃を紙一重でかわしながら、隙を逃さず同じ場所に攻撃を重ねていく。動きは迷いなく、鋭く、着実に魔獣の身体を削る。

そしてついに魔獣が傷口をかばい前脚を下げようとしたその瞬間、リセリアは最後の詠唱を終えると、一気に加速し、低く踏み込んだ──


──ズシャァァァン!!!


まるで稲妻のように、閃光が魔獣の懐を駆け抜ける。その刃は、魔獣の喉元を鋭く、確実に貫いた。

魔獣は大きくのけぞり、全身の毛を逆立てる。そして耳をつんざく咆哮を空に響かせると、ぐわんと巨体をよじりながら音を立てて地に倒れ伏した。


「……ふぅ。これで一件落着、ってとこかしら」


リセリアが息を整えながら振り返ると、そこにはアレンが、手を真っ黒にススで汚しながら、立ち尽くしていた。


「……うん。なんか……助かった、ってことなのかな」


自分で口にしてようやく緊張の糸が解ける。

けれど、口にした言葉と裏腹に、その心は戦いの終わりがもたらした安堵より、もっと深いどこかがざわついているのを感じていた。

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