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8/21

幕間 1

 いつのことだったか。

 灰一色の大地の上で、カイトは退屈そうに胡坐をかいていた。


 すぐ前で少女が正座を組み、カイトをじっと見つめている。

 頭上には澄み渡るような青空が広がっていた。雲はまだない。


「空か」

「空」


 記憶の中にある空と、何ら変わらぬ晴天だ。大きく息を吸ってみると、匂いもないのに郷愁を感じずにいられない。

 少女も天を仰いでいた。彼女はどことなく微笑んでいるような、やっぱり変わらず無表情のような、どっちともつかない面持ちだった。


「そういえば、女神様」

「なに?」

「あんたって名前あるの?」


 しばらく共に過ごしてきたが、名前を尋ねるのはこれが初めてだ。


「いつまでも女神様じゃ、不便っていうか。なんか、距離感がわかり辛いんだよな」


 少女は膝の上に両手を置いたまま微動だにせず、闇色の瞳を何度か瞬きさせた。

 今ならばわかる。彼女がこういった仕草をする時は、何か思案を巡らせているのだ。名前を聞かれたことは、彼女にとっても想定外の出来事だったのだろう。


「好きに呼んでかまわない」


 しばらくの沈黙の後、少女は普段と同じ声調で呟いた。


「好きにったって」

「名前なんて必要なかったから」

「そうだろうけどさ」


 ぶっきらぼうに言いながら、カイトはなんとなく嬉しい気分になっていた。

 二人きりの世界ではカイトだけが少女の名を呼ぶ。それはつまり、名付けを委ねられたことを意味している。そして、彼女の名を独り占めにできるということでもある。


「ちょっと、考えとく」


 すぐには決められなかった。女神の名前なのだから、慎重に考えるべきだ。時間なら有り余っている。

 今はまず、目の前のやるべきことに集中しよう。

 この世界と、真摯に向き合うと決めたのだから。

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