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異世界転移したけど最弱体質で詰んだ俺が、世界最強になって無双するまで ~気づけば俺、美女に囲まれて英雄やってました~  作者: 朝食ダンゴ


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18.もう逃げない ③

 わざとらしく咳払いをしたクディカが、ベッドの上に座りなおす。


「まったくけしからん。手が早いのは結構だが、すこしは人目というものを気にしたらどうだ」

「手が早いって……頭を撫でただけじゃないですか」


 何気なく口にした一言に、クディカは信じられないといった風に目を大きくした。

 幼馴染の見慣れぬ表情を見たリーティアが、くすりと品のある笑みを漏らした。


「カイトさん。あなたのいた世界ではどうかわかりませんが、少なくとも私達の文化圏において異性の頭や髪の毛を触れるということは、たいへん恥ずかしい行為なのですよ」

「恥ずかしい?」


 なるほど。文化の違いというものか。とはいえ、カイトにいまいちピンとこない。


「具体的にはどんな風に?」

「ええ? そうですわね……」


 まさかそこを問われるとは思っていなかったのだろう。リーティアは困ったように眉を下げ、クディカに視線を投げた。


「どう思います? クディカ」

「ええいっ。私に振るな!」


 壁と顔を突き合わせたクディカと、気まずそうに眼鏡を押さえるリーティアを交互に見て、カイトはますます訳が分からなくなった。


「まぁ、なんだ。有り体に言えば」


 見かねたデュールが、部屋の隅から助け舟を出す。


「男が女性の頭に触れるのは、今からお前を抱くぞ、という意思表示だ」

「……えっ」


 それを聞いてやっと、カイトは事の重大さに思い至った。

 ヘイスが顔を真っ赤にして俯いたのも、女性陣が言葉を濁したのも、それなら納得がいく。


「い、いや! 俺はそんなつもりじゃ……!」

「わかっている。次からは気を付けることだ。君がどういうつもりでも、いらぬ誤解を生む」


 デュールはカイトへのフォローも忘れなかった。こういうところは男同士だからこそわかる機微だろう。


「ごめんっ。俺そういうの、全然わかってなくて」

「いえ……」


 慌ててヘイスに謝罪するも、彼女は顔を上げてくれない。気を悪くしてしまっただろうか。


「しかし、気安く女の頭を撫でるとは、一体どんな風習なのだ?」

「異世界の、ということになるのでしょうね」


 自己嫌悪でいたたまれなくなったカイトをよそに、クディカとリーティアは談話を続ける。


「それに気になることがもう一つ。カイトさんのヘイスを見る目は、私達に向けられるものとは違います」

「む? そうか? どのあたりが」

「クディカ。そういうところに鈍感だから、行き遅れるのですよ」

「なにを。お前とて同じではないか。自分のことを棚に上げるな」


 ムキになって言い返したクディカには反応せず、リーティアはカイトに柔らかい笑みを向けた。


「カイトさん。あなたから見て、私達二人とヘイス。どういうところが違いますか?」

「どういうところ?」


 抽象的な問いだ。質問の意図を汲めないカイトは後頭部をかきながら、三人を見比べる。


「あー。大人と子ども、ってことですか?」

「子ども……」


 ヘイスは顔を上げて、ショックな表情を隠そうともしなかった。


「ボク、これでも成人してますっ。今年で十二になったんですっ」


 右手を薄い胸に、左腕は大きく広げて、ヘイスは高い声を張る。


「十二? 二十じゃなくて?」

「十二ですっ」

「じゃあやっぱり子どもじゃないか」


 ヘイスの頭上に『ガーン』という擬音が見えるようだった。

 クディカはまたもや信じられないものをみるような目つきになっていた。

 リーティアは苦笑しながら、


「この国では十二歳で成人と見なされます。ヘイスはもう結婚だってできる歳なのですよ」

「あー……そういう」


 カイトは異世界との文化の違いに思いを馳せて腕を組んだ。

 もとの世界でも成人年齢は国によって違っていた。だが、十二歳で成人というのは流石に早すぎるんじゃないか。いや、武家の元服は十代前半でも珍しくなかったようだし、異世界ともなれば十二歳で成人というのも十分にありうる話だ。

 現代日本の常識は通用しない。この世界の文化を、そういうものだと受け入れるべきなのだろう。


「ごめん。気を悪くしないでくれ。俺の住んでた国では、成人は十八歳でさ。そういう意味では、俺だって子ども扱いされてたんだ」

「そうなんですか」


 ヘイスはわかっているのかそうでないのか微妙な表情である。


「とりあえず、お前はこの国の常識を学ぶところから始めなければいけないようだな」


 クディカの言う通りだ。しかしながらカイトの頭には、そんなことよりも急いで対処しなければならない懸念があった。


「それもそうですけど。それより俺のマナ中毒の方をなんとかしないといけないんじゃ」


 自然と胸元のタリスマンに手が行く。これの効能もあと数日。それまでにマナ中毒を抑える方法を見つけなければ、死線を越えた意味も失ってしまう。


「それに関しては後ほど、場を改めてお話しいたしましょう」

「はぁ」


 すぐにでも対策を教えてもらいたかったが、リーティアの言うことなら従おう。もしかしたら、そこまで深刻じゃないのかも。


「デュール殿」

「はっ」


 リーティアに呼びかけられたデュールは、立ち上がって居住まいを正す。


「カイトさんに個室を用意して差し上げてください。それから清潔な服と温かい食事を」

「承知しました」

「ヘイス。カイトさんの身の回りのお世話はあなたに一任します。よろしくお願いしますね」

「はいっ。頑張ります!」

「よろしい」


 リーティアがふわりと微笑みを浮かべる。いつしか場の雰囲気は和やかなものに変わっていた。


「そういえば」


 話が一段落したところで、クディカが思い出したように口を開く。


「カイト。ヘイスはお前をおとぎ話の英雄のように語っていたが……実際どのていど剣を使えるのだ?」


 思わずヘイスを見ると、はにかみがちに目線を逸らされた。


「いやいや、からっきしですよ。剣どころか包丁だって握ったことありません」

「それでよくソーニャ・コワールの魔獣どもを一掃できたものだ。天賦の才か、あるいはただの幸運か」


 切れ長の碧眼がカイトを射抜く。見定めるような視線。それは確かに将軍の眼光であったが、カイトはもうたじろがない。


「よし。デュール、もう一つ仕事が与える」

「なんなりと」

「カイトに剣術を仕込め。私が復帰するまでに使い物になるようにな」

「了解しました。訓練用の装備を与えます」

「ああ、それでいい」


 とんとんと進んでいく話に、カイトはついていくので精一杯だ。驚きの連続で口を挟む隙もない。

 個室をあてがわれるのは良い。服も食事も欲しかったところだ。ヘイスに世話をされるのは少し気が引けるが、助けが必要なのも確かである。


 しかし、剣の訓練とはどういうことか。カイトは軍人ではないし、これからそうなる予定もない。

 自分が剣を握っている姿を想像すると、先日の戦いがフラッシュバックする。カイトからしてみればつい先刻の出来事だ。


「剣、ですか」


 それは無邪気な幻想の象徴であり、勇気の一歩を踏み出した証でもある。


「訓練は嫌か?」

「いえ」


 自分の弱さも甘さも不甲斐なさも、死ぬほどよくわかった。

 だから、もう二度と逃げない。

 いま、そう決めた。


「教えてください。剣を」


 強くなるのだ。

 辛い時、誰かの為に戦えるように。

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