表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したけど最弱体質で詰んだ俺が、世界最強になって無双するまで ~気づけば俺、美女に囲まれて英雄やってました~  作者: 朝食ダンゴ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/23

15.激突する炎 ②

 合図と共に放たれたのは、揺らめく火炎の砲弾。これが障壁を破るに十分な威力があることはすでに実証済みだ。

 予想通り、ソーニャは回避行動に移った。とん、と軽く地を蹴り、全身のフリルをなびかせて宙を舞う。外れた砲弾は一本の木に命中し、爆炎を巻いて周囲の草木ごとなぎ倒していった。


「当たんないってー。そんな見え見えの攻撃」


 頭を下にしてふわふわと宙に浮いたまま、ソーニャは溜息を吐く。


「さっきは不意打ちくらっちゃったけど、あなたの魔法はもうわかったから」

「ええ、そうでしょうとも!」


 リーティアは追撃を放つ。連続で撃ち込んだ二発の炎弾は、吸い込まれるようにソーニャに迫り、直撃。轟音をたてて派手な爆発を巻き起こした。


「だーかーらー」


 激しく拡がった爆炎の中から、ソーニャの呆れ声が響いた。


「無駄だって言ってるでしょーが」


 爆炎を斬り裂いてリーティアへ飛来したのは、輝きのない漆黒の火炎。姿形こそリーティアの炎弾に似通っているが、その色彩は闇そのものであった。

 咄嗟に杖をかざして魔法障壁を展開し、闇の炎を正面から受け止める。ソーニャの炎は爆発を伴わず、輪郭を揺らめかせながら障壁を破らんと進み続けようとする。リーティアの障壁が、破壊に耐えるように何度も閃いた。


 魔力によって生み出される火炎。それは実際の炎ではなく、魔法術式によって生み出された破壊のエネルギーである。故に熱を持たず、水で消えることもない。マナによってもたらされた単純なエネルギーに、破壊という属性を与えた結果、炎の形をとって具現化しているのだ。

 闇の炎とリーティアの障壁は互いに相殺し合い、マナの粒子となって霧散する。


「へぇ。やるじゃない」


 ソーニャは素直に感心していた。先程の炎弾にしても今の障壁にしても、称賛に値する威力である。

 魔族とは、魔力の扱いに長ける故にそう呼ばれる。その中でも将軍の地位にあるソーニャの炎を防いだ事実は、リーティアが人並外れた術士であることの証左であった。


「このあたしと張り合えるなんて。人間のくせにすごいわねーあなた」


 ソーニャは、余裕の笑みでようやく大地に降り立った。

 対するリーティアは、額に汗を浮かべて荒い呼吸を繰り返している。


「えー、もう限界なの? 前言撤回。拍子抜けね」


 騎兵達の強化と、数発の炎弾。リーティアの魔力はすでに尽きつつあった。

 無理もない。本来なら数人がかりで行う後衛術師の役割を、たった一人でこなしているのだ。

 だが、底なしの魔力を持つソーニャの目には、単なる惰弱に映っていた。


「ほらぁ。そんなぜーぜー言ってないで、もうちょっとくらい頑張れるでしょ?」

「残念ながら、ご期待には添えません」


 リーティアは挑発には乗らない。彼女は聡明だ。これ以上の攻撃が無意味であると理解しており、目的を忘れる愚も犯さない。カイトを抱えて去っていく部下の背中を視界の端に捉えると、彼女はひとまず安堵し、そして大きく息を吸い込む。


「撤退!」


 言うや否や、彼女は馬を転進させ、嘶きと共に駆け飛んだ。


「逃がすわけないっての!」


 ソーニャの対応は速かった。リーティアの行動は読めていたし、攻撃魔法の発動準備もすでに終えていた。

 だが、その先読みが仇となる。

 撤退命令を受けたはずの騎兵達は、あろうことかその進路を一斉にソーニャに向けていた。


「へっ?」


 四方八方から接近する十数の騎兵に、ソーニャは些か以上に虚を衝かれた。背を向けて逃げると思った敵が突撃してきたのだから、驚くのも無理はない。

 騎兵達は各々の武器を振るい、巧みな連携をもって攻撃を加える。

 障壁の展開は間に合わないと判断し、地を蹴って中空に逃るたソーニャ。そこに数発の矢が射かけられ、ドレスの裾やフリルを斬り裂いていった。


「あー! お気に入りなのに!」


 頬を膨らませたソーニャは、眼下にきつい視線を落とす。


「もー許さないんだから」


 構築した攻撃魔法の狙いを騎兵達に定める。適当に放てば二、三人は消し飛ばせる威力。彼女の顔に歪んだ笑みが浮かんだ。

 だが、その魔法が撃たれることはなかった。

 唐突に空が翳り、ソーニャの直下に巨大な円形の影を落としたからだ。


「なにこれ?」


 頭上を見やる。

 そこにあるのは、視界を埋め尽くさんばかりの紅蓮の塊。


「うそ――」


 避けられない。回避のタイミングはとうに失われている。


「え、ちょっ」


 ここでソーニャはようやく悟る。

 これがリーティアの狙いだったのだ。何度かの手加減した攻撃で油断させ、あたかもそれが限界であるかのように演じ、偽りの号令でソーニャを欺き、攻撃を誘ったところで本命の一撃を確定させる。


「退避ーッ!」


 騎兵達は即座に転進。速やかに後退する。


「わーうそうそ! まずいでしょこれぇ!」


 落下する紅蓮を辛うじて受け止めたソーニャは、しかしその勢いを殺せず、大地に圧し潰されて身動きを失った。

 刹那。


 龍にも見紛うほどの壮絶な火柱が、天まで届かんばかりの勢いで立ち昇った。

 すんでのところで逃れた騎兵達は、背後で消滅する一帯の様子に戦慄を禁じえない。

 森の中、リーティアの細い腰にしがみ付く兵士は、轟々と燃え盛る火柱の苛烈さに圧倒されていた。


「上手くいって、よかった」


 ほぼすべての魔力をつぎ込んだ乾坤一擲の大魔法。

 いちかばちかの賭けに勝ったリーティアは、豊かな胸をほっと撫で下ろしていた。


「あの、フューディメイム卿」


 若い兵士が、おずおずと口を開く。


「さっきの人、助かりますか……?」


 ほとんど上の空のような一言だったが、その声には僅かな諦めの響きが混ざっていた。

 リーティアは答えない。カイトの容体は、もってあと数分といったところだ。まだ息があること自体が奇跡的といえるが、当の本人は地獄の苦しみを味わっているだろう。


「やっぱり……無理ですよね」


 幼さの残る顔が、痛ましい表情に歪む。


「ごめんなさい。ボクが余計なお願いをしたばかりに、皆さんにご迷惑を」

「気に病むことはありません」

「でも」

「これもまた、乙女の思し召しと……そう考えなさい」


 リーティアは淡々と言い切る。未熟な兵士への厳愛の言葉。

 それは同時に、決意の表れでもあった。


「心配は無用です」


 緋色の瞳に強き意志を宿して、彼女は馬を走らせる。


「救ってみせますとも。必ず」


 リーティア率いる部隊はただ一騎の損害も出さず、将軍と兵士、そしてカイトの救出を達成したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ