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異世界転移したけど最弱体質で詰んだ俺が、世界最強になって無双するまで ~気づけば俺、美女に囲まれて英雄やってました~  作者: 朝食ダンゴ


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14.激突する炎 ①

 木々の隙間を縫って飛翔した火炎の砲弾が、闇色の巨人を正確に捉えた。

 直撃。爆炎が拡がり、衝撃の余波が周囲の枝葉をなびかせる。


「ちょっと、なに!?」


 この唐突な攻撃には流石のソーニャも狼狽した。咄嗟に展開した魔法障壁が容易く貫かれたことも、彼女の動揺を一層深める。こんなことは彼女の長い人生において初めての経験だった。

 砲弾が飛来した方向を向いたソーニャは、騎乗し杖を構える女性の姿を見留める。


 翡翠の髪と緋色の瞳。その顔と名は魔王軍にも広く浸透していた。

 リーティア・フューディメイム。


「捉えました」


 十数の騎兵を従えるリーティアは、身の丈ほどある杖で大地を打った。打点を中心に魔法陣が形成され、騎兵隊の足下を翡翠の光が照らす。描き出されたのは身体強化の効能を示すルーン文字。

 直後、騎士と戦馬の全身が淡く輝き始める。


「突撃です!」


 鋭い号令。

 途端、十数の騎兵が鬨の声を唸らせて疾駆する。蹄鉄が土を叩き、重低音が土埃を舞い上げた。


「あはっ」


 ソーニャが相好を崩す。


「いいわいいわ! 面白くなってきたじゃない! わざわざこんな森に残った甲斐があったってもんよ! って……へ?」


 その気になったソーニャであったが、巨人の反応がなくなっていることに気付いて目を丸くした。

 先程リーティアが放った砲弾の仕業だ。大きく抉り取られた巨人の胴体。その断面から闇色の粒子と渇いた灰が零れていく。拳を振り上げた姿勢のまま、完全に活動を停止していた。


「ああっ。うそうそちょっとまって――」


 バランスを崩して後ろに傾いた巨人から、慌てて跳び降りるソーニャ。


「デュール殿!」

「はっ!」


 好機は逃さない。倒れ行く巨人に肉薄する騎兵が一騎。

 一人隊列から突出したデュールは剣を抜き、巨人の手首を斬り落とす。

 解放され宙に投げ出されたクディカを、デュールはしっかりと抱き留め、すぐさま反転。彼は早々に後方へと離脱した。


「今! 敵を包囲してください!」


 リーティアの声に応え、騎兵達が各々の軌道で疾走する。魔法によって強化された戦馬はまるで神話に謳われる天馬のように軽快だ。縦横無尽に駆け回り、やがてソーニャを何重にも囲む渦の軌道が出来上がった。


「むー。ちょっと深追いしすぎちゃったかなー。魔王様になんて言い訳しようかしら」


 塵となって消えていく巨人を眺めるソーニャ。その薄い唇から、蝶の羽ばたきにも似た溜息が漏れた。


「あーもー。つまんない」


 完全に包囲されて尚、彼女は負ける可能性を微塵も考えなかった。頭に浮かぶのは主君である魔王の、良心に訴えかけるような哀しげな表情だけだ。


「ま、しょーがないか。予定通り砦は落としたし、ぱぱっと片付けて帰りましょ」


 騎兵達はソーニャを取り囲む軌道を描き続けている。各々が武器を構え、攻撃の機を窺っている。少し離れた位置には、杖を構えたリーティアがじっと控えていた。

 ソーニャが警戒しているのはリーティアただ一人。その他の雑兵など取るに足りない。


 一方リーティアの視界には、血だらけで息絶えた兵士や、辛うじて人間だったっと分かる亡骸が映り込んでいる。何故もっと早く駆けつけられなかったのか。沈痛な思いを隠し切れない。

 尻もちをついて動けなくなっている若い兵士だけが、唯一の生存者のように見える。

 しかしリーティアは、ソーニャの至近に何かを発見した。この国では珍しい黒い頭髪と、特徴的な意匠の着衣。


「あれは」


 間違いない。例の少年。カイト・イセだ。

 顔に被せられたハンカチが僅かに動いているのを見て、太めの眉がきつく寄った。


(そんな……あんな状態で、生きているというの?)


 なんという生き地獄。惨たらしいにも程がある。

 リーティアの感情が烈火のごとく燃え上がった。それは義憤というにはあまりにも苛烈な怒り。

 敵を討て。非道な行いを許すな。


 そう叫びたい心を必死に抑えつける。

 作戦の目的はあくまでクディカの救出。ソーニャを包囲したのは、救出したクディカを安全な場所に連れていくまでの時間を稼ぐためであり、決して討伐のためではない。そもそもソーニャを討つには絶望的に戦力が不足している。

 ここは退くべきだ。兵を無駄死にさせるのは、指揮官として愚かな選択なのだから。


「弓! 撃ち方!」


 号令とほぼ同時に、数名の弓兵達が騎射を開始する。

 四方からショートボウによる連射を浴びせられたソーニャは、障壁の中であくびを押さえていた。飛来した矢の悉くは不可視の障壁に遮られ、地に突き刺さったりあらぬ方向へ飛んで行ったりしている。

 すでにリーティアは動いていた。馬を走らせ、生き残りの若い兵士のもとに駆け付ける。


「乗りなさい。早く!」


 兵士の腕を引っ張り上げるリーティア。だが兵士の腰は抜けており、思うように後ろに乗せられない。


「たすけて……たすけてください!」

「わかっています。ですから早く」

「違うんですっ!」


 兵士の視線は、死にゆくカイトに向けられた。


「あの人を、たすけてください!」


 明らかに冷静さを欠いた、懸命な懇願だった。落ち着いて確認すれば、彼がすでに処置の施しようもない状態だとわかるはずだ。


「ボクを助けてくれたんですっ。みんなを、助けようとしてくれたんですっ」

「あなた……」


 脚に縋りついてくる兵士の頭に、リーティアは優しく手を置いた。


「私も同じ思いです。できることなら彼を救いたい。ですが肉体の損傷があそこまで激しくては、助かる見込みは――」


 そこまで言って、彼女はふと一つの可能性に思い至った。顔を上げてカイトの方を見やると、彼の首にかかる耐魔のタリスマンが陽光を受けて煌めく。


「試す価値は、ありますね」


 リーティアは心を定めると、強い眼差しを兵士に向けて頷いた。


「さぁ早く。彼を助けましょう」

「は、はいっ」


 改めて兵士を引っ張り上げる。二人乗りになった馬を走らせて包囲網の一部に合流したところで、リーティアは並走する一人の騎兵に指示を投げかけた。


「作戦を一部変更します。私が合図をしたら、敵の近くに倒れている黒い服の男性を回収してください。その後は計画通り、速やかに離脱します」

「はっ……は?」


 カイトの姿を目視して、騎兵は表情を驚かせた。


「回収とは、あの死体をですか?」

「まだ生きています。ですが猶予はありません。迅速にお願いします」

「了解。やってみます」


 話している間も、射撃による牽制は続いている。矢はソーニャにかすりもしないが、足止めが目的なのだから問題はない。


「あのさー。いつまで続けるの、これ」


 それはソーニャもわかっているようで、いい加減飽き飽きした様子だった。


「そろそろ終わりにしてほしいんだけど」

「言われずとも、そうします」


 馬をソーニャの方へ急旋回させるリーティア。その杖に、攻撃魔法の発動を表す紅蓮の輝きが宿った。


「今!」

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