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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
3章 空の章
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98 モノローグ:『続々・外神桜子』

 

 椿の捜索命令を出してから4日が経過していた。依然として彼女は行方をくらませたままだった。その代わり、彼女と接触したとされる人物を捕らえたという報告を作間から受けた。


「まわりくどい報告ですこと。本人の安否はどうなっているのかしら?」


 私はご機嫌麗しくなく、作間とかいう悪漢に焦りをぶつけた。


「安否だけで言えば、安の方でしょうな」


 作間はこちらをバカにしたような態度で答えた。


「それで満足かしら? あなたはどこのどちら様ですか? 悪魔殺しさん」


 流石に見過ごせなかった私は、主従関係というものが分かっていないオッサンにその恥ずかしい態度を改めるよう教えてやった。


「……大変失礼しました。しかし今更なぜ、彼女に執着を?」

「幼少の頃からお世話になっている、特別な人だからです。そういう人、あなたにもいらっしゃいますでしょう?」

「いいえ」


 即答。さすが人造人間。血も涙もない。逆にかわいそう。高貴な心を持った私としては彼を慰めてあげないといけない。そう思って、孤独な彼にこんな言葉をかけてあげた。


「そうでしょうね」


 気の利いた言葉の入った引き出しなんてどこにもありはしなかった。いつも言われる側だったから、仕方ない。慣れない事はするものではないという勉強になった。



 ぶっちゃけ、椿には直接会って色々お話がしたい。思い返せば私が誘拐された後ぐらいの時から、彼女との不和が始まったというか、どこか距離を置いたような態度になっちゃって。彼女なりに責任を感じての事なのかしら。でも相手も相手でしたし、あの時はレオナルド様が私の純潔を守ってくれたわけだから、一般人のくせに一丁前にそんな事で悩まないでほしい。


 彼女というか、私もなんですけど、おにぎりが好きなんです。私が5歳の頃、ピアノのお稽古をしていたんですけども、このお稽古が大嫌いで。出発する時間になると、私は毎回わんわん泣いて。もう嫌だったんです。先生が厳しくて。その時も当然彼女が送り迎えをしてくれていたんですけど、というか私の身の回りのことほとんど全て彼女がみてくれていたんですけども。愚図る私を、彼女は何回かサボらせてくれたことがあって。そんな時、まず最初に行ったのがコンビニ。 庶民の方ってコンビニって、行きます? ツナマヨのおにぎり、あるでしょう? 椿は自分に梅干しのおにぎりと、私に必ずこのツナマヨのおにぎりを買い与えてくれて。私の事をサボらせちゃってるから、報告できないし、たぶん彼女の自腹ですよ。それで、買ったおにぎりを彼女と御苑の芝生の上で二人で座って食べて。彼女、サボったことに関しては何も言わないで『美味しい?』なんて笑いながら聞いてくれて。もう……泣いちゃうでしょう? 優しかったんですよ、昔は。だから私にとって、そのコンビニのツナマヨおにぎりが実は忘れられない味になっていて。時折、お家を抜け出してでも食べたくなっちゃうんです。まあ、それが原因で一人で無断で外出した時に誘拐されちゃったんですけどね。


 それに椿は秋田美人。単純に心配。精神的に参っている所に屈強な男が現れて、捻じ込まれでもしたら。私の記憶の限りでは椿は牡馬の巨大な剥き出しに興味津々でしたし、もしそういう状況になってしまったら簡単に屈しちゃいそうで心配。今頃そうなっていたら、どうしましょう。悪い男ですよ、きっと。なにか彼女のふとしたミスで私の顔写真なんかがその男にバレちゃったりして。『いい女だなァ、この女連れて来いよ』みたいな。そんな流れになっちゃったりしていたら、どうしましょう。



「どうしましょう!?」


 心の赴くままに、私は吐き出すように作間に話しかけた。


「……じきに尋問も終わる事かと」


 何度見ても悪い顔してる。こんなヤクザ者から4日間も逃げるなんて。うちの椿ってば、やっぱりすごい。なんて思っちゃったりもして。本当に複雑な気持ち。何だったらこのまま逃げ切ってほしい気持ちまである。でも、彼女には会いたい。逆を言えば、事態がどちらに転んでも私の願いは叶うわけだ。そうなってくると、人生って楽勝なんだなって。そう思わざるを得ない。


 尋問という名の進展がこれ以上望めないのならば、作間に用はない。


「そうですか……」


 私としてはここで作間は退室して、一人になって椿との楽しい幼少の頃の思い出なんかに浸りたかった。でもこのオジサンときたら下がらない。なに? 慰めてくれてるつもり? だとしても、オジサンと居たいわけがないでしょう?


「何?」


 口から出る言葉はこれしかなかった。怖くもあるじゃない。だって人殺しなんだから、このオジサン。やっておいて、捕まってないんだから。国防軍の上層部だか何だか知らないけれど、えらく可愛がられちゃって。権力って、何? こんな危ない人間が裁かれないのが権力ってこと? ……でも、こういうオジサンが日本を守ってきた。それは事実。でも人殺し。そんな人間がそばで何も言わずにじっと突っ立っていてごらんなさいよ。口から出るのは「何?」ですから。


「……恐らく、日本に戻ったかもしれません」


 なん……何の話をしてるの、この男は。こういう、何を考えているのかわからない人間って、よく話を飛ばす。いくら私が高貴だからといって、そこまで頭が回ると思わないでほしい。


「……ふーん」


 こういう時の返事はこれ。何を話されたのかわからないから順を追って教えてください、なんて口が裂けても言えない。例えわからなくとも、その場の雰囲気とノリでやり過ごすのが超富裕層の社交界ではマスト。


「……椿の話ですが?」

「えっ、あ……そう」


 それを先に言ってほしかった。日本に戻った? 何、それ。どうして?


「我々が捕らえたのは死霊術師でした」

「……ふーん」

「……椿の出身地は?」

「秋田ですけど?」

「そういうことです」


 はい、出た。もうなんか、イライラするこの人。私と合わない。仕事だから付き合うけど。仕事でもないか。私のわがままから始まった物語なのだから。


「作間、報告は最後まできちんとなさい?」


 ビシッと言ってやった。出来ない人間には、ここまで言わないといけない。そうしないと私が馬鹿みたいになるから。「そういうことです((おとこ))」でわかるわけないでしょう? テレパシーを使えとでも?


巫子(いちこ)はご存知ですか?」

「……ふーん」

「……秋田には死霊術の文化と、古代の魔女たちが眠る森があります」


 死霊術って……犯罪じゃない? ちょっと、待って。


「それじゃあ、椿は……」


 作間は黙って頷いた。


「すぐに行きましょう、日本へ、秋田へ!!」

「了解」


 これ以上犯罪者を増やしてたまるか。私は強い思いを抱えて椿の故郷を目指した。

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