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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
3章 空の章

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89/160

89 確変終了

 

 鮮魚エリアでは、普段控えめなピィちゃんがここぞとばかりに騒ぎ立てた。


「ピュイ!!」

「これ? これは赤玉って言って、日本だと縁起物。味は変わらないよ」


 アシハラがホタテの貝柱の色について解説した。


「ピィちゃんの言ってること、わかるんですか?」


 これが無駄な質問であるという事は百も承知だった。わかっていても一応あたってみる、という習性が抑えきれなかった。


「あ~……テレパシーはご存知?」

「え? まぁ、はい」


 無駄だとわかっていても、やってみると実際にこういう場合だってある。アシハラは大賢者と違ってちゃんと答えてくれそうだった。


「それに近い感じ。でもそれは以心伝心ていうより、こちら側が相手の気持ちを汲む、というか。目を見ればわかる、というか。まあ、そんな感じの能力を多くの日本の魔法族は……持っていた、と言うべきか」

「過去形、ですか」

「うん……前にチラッと話したよね? 言霊の話。あれと同じで、文明が発展すると失っちゃうのよ。だから、現代に生きる日本の魔法族はもう持っていない。生活に必要がなくなったからね。もちろん、現代的な生活をしていない少数民族の人たちはまだまだ健在だけどね」

「ピピピィ!!」

「アニサキスはまあ……いるよ。そんなに騒ぎなさんな。この世の物にはすべて毒が入ってると思わないと。出来る限りこっちで処理するし、万が一の時はレオナルド殿だっておられるから大丈夫だって」


 私はその話にいまいちピンと来なかったが、アシハラはピィちゃんとの会話を優先させた。このオジサンとはいつかじっくり話がしてみたい。私のそんな思いを無視するかのように、カートにはホタテの貝柱とサーモンが1キロずつ追加された。





 続いてはデリカコーナー。ありとあらゆる、サイズも規格外なお惣菜が集まるエリアである。ここでも元気なのはあの男だった。


「美味しい物たち、か。あんま使わねぇから、忘れてきちゃってるんだよな、母国語。イメージが悪くなるから国籍不明で行け、って協会の煩型の連中にも言われてるし。それは置いといて、ここからは特殊なパワーを感じる。タルも感じるよな?」


 そこでは首をかしげるだけにとどめた。大賢者の国籍についてなんて今更どうでもいいし、イメージは最悪なことに変わらない。国際魔術師協会は彼という腐敗を隠す義務があると思う。そういう意味では、煩型の連中とやらに一票投じたくなった。


「じゃあ、今日はここでメシを買って、午後いっぱい使ってデリカパーティーをしよう。そうすればアシハラも休めるから」

「かたじけない」

「うん……まぁ、俺がお惣菜食べたいだけなんだけどね?」


 だと思った。大賢者は億万長者のくせに舌が一般人か、下手するとそれ以下のレベルだ。こんなお惣菜なんて、大好きに決まっている。私は彼のそういう部分に好感を持ってはいるが、偏食についてはけしからんとも思っている。


「それでは各自、好きなだけお惣菜を買い込みなさい!!」


 その言葉を皮切りに各自がそれぞれ好き勝手に動くこともなく、全員まとまって順路通りにお惣菜を見て回った。


 肉の人が肉のお惣菜をたっぷりと買い込んだのは言うまでもなかった。


「なんだよ?」

「べつに。買いそうだな、と思ったものを買っているなって」

「ふーん、挑戦的だねぇ? よ~し、じゃあ俺がお前の選びそうなやつを当ててやろうか?」

「どうぞ?」

「お前なんか所詮コレだろ? しかも消去法で、な?」


 そう言って大賢者が手に取ったのは、生野菜がたっぷり包まれたラップサンドだった。消去法で、という所まで含めて完璧に当てられた。特に心惹かれるものも見当たらなかったし、栄養バランスを考えるとそれしか残らなかったのだ。


 私たちのやや後方では、別の攻防が発生していた。


「なぁ、ムガ。おっぱいが大きくなるのはどれだ?」

「そうねぇ……チーズにナッツ、海藻類、レーズンとかもいいらしいけど……まあ、結局はバランスよく食べることだね」

「おい!! なんだ、その態度は!? 私のおっぱいはお前のおっぱいでもあるんだぞ!? ちゃんと育てろよ!!」

「育てたとしても、吉良殿のおっぱいは吉良殿のものだからね? もっと自分に誇りをもって、大切にしなさい。でも、真面目にそうなのよ。バランスって大事だから」

「う~ん、バランスか。じゃあ、おっぱいが大きくなる食べ物を全部使って、なにか美味しいもの、作ってくれ」

「全部ぅ? 欲張りさんだねぇ……それとも暴君?」


 小腹が減ってきたからであろうか、デリカコーナーは若干の荒れ模様となった。





 卵と乳製品、酒類、飲料、缶詰やレトルト食品、アイスクリーム、冷凍食品、チルド食品、調味料、油、小麦粉類、お菓子、衣類、キャンプ用品、洗濯用品、生活雑貨。数えきれないすったもんだのあげく、長い長い買い物もようやく終わろうかとした時の事だった。大賢者がある商品に釘付けになって動かなくなってしまった。


「これ……買ってもいいかな?」


 その商品とはドラゴンの大きなぬいぐるみだった。可愛くデフォルメされた角の生えたドラゴンは成人男性の興味を引くとは思えないデザインだったが、巨大好きの大賢者はそれが欲しくてたまらなくなってしまったようだった。


「今更、そんなこと聞きます?」


 操縦するアシハラがどうやって前を見ているのか不思議なくらい、カートは山盛りの状態だった。周りを見渡してみても、こんなに買い込んでいる客は他にいない。この状況でなぜ、大賢者が迷いを見せるのか謎でしかなかった。


「じゃあ、買っちゃお!!」


 こういう所が彼が異性にモテる部分なのかもしれない。中身が完全に子供なのだ。強大な魔力があって容姿も文句なしに整っているわけだし、そういうのが好きな魔女にはハマるのだろう。結果、豪華客船でのあの乱闘騒ぎがあったわけだから、巻き込まれたこっちとしてはいつかメアリーが言っていたように慰謝料でも欲しい所ではある。


「それじゃあ、お会計行こう!! いくらになるか楽しみだなぁ~!!」


 注目のお会計は、とても言えない金額になった。2つ買った最新鋭の飛行用魔道具。これが一番、他の追随を許さないほどに高額な商品であった。大賢者は笑い飛ばしていたが、私としては金額分の務めを果たさなければならないという気持ちになった。これを役得と思えるような図太い神経が欲しかった。


 帰りは3つのグループに分かれての魔法による転移を行った。大量の物資を異空間にしまい込んだ大賢者はなぜか一緒にしまわなかった巨大なドラゴンのぬいぐるみと、アシハラはキラと、私はピィちゃんを連れて同時にアメリカを発った。





 カナダの奥地にある雪原。到着したデッキからは昨日行った火山がよく見えた。拠点はその場所から動いていなかった。出発は同時だったのに、到着は私とピィちゃんが一番遅れてしまった。


「遅いぞ、タル?」

「すいません……」


 到着が2秒遅い。私の転移魔法に大賢者がよく言う言葉だった。


「アシハラ、教えてやって?」

「だからその~……行こうとする分、全部が遅くなっちゃうパターンのやつ、かなぁ?」

「そうそう。そう言ってるんだけど、コイツ全然理解してくれないの」

「いいんじゃないですか? こうやって、ちゃんと使えてるわけですし」


 結構なエリートが使う高位の魔法。私が使う魔法において、魔法界の客観的な評価はそれ以外ない。だがこの二人からすれば、まるで子供扱いだった。


「だめだよ、そんな!! モテないやつのちんちんみたいな理論!! こいつは絶対使えるタイプのやつなんだから!! 使えるっつっても、ちんちんの事じゃないよ!? 転移は最適化しといた方が、絶対いいってこと!! 今がチャンスだから!!」


 魔法の事になると途端に大賢者は熱くなる。運悪く、この日は私が標的にされてしまった。


「まぁ、買い物も終わったばかりですし……今日はいいじゃないですか。そのあたりは道中でゆるりと学べれば」


 どこまでも優しいオジサンの存在がただありがたかった。


「じゃあもう、久しぶりに命じるぞ? アシハラ、お前はタルに本当の転移ってのを教えてあげなさい。二人への課題ね。あとでトレーニングルームを作っておいてやる」


 めんどくさい話になってきた。私は困ってアシハラの顔を見たが、向こうも顔を困らせていた。


「増築前にまずは腹ごしらえだな。デリカパーリィ!!」

「いえ~い!!」

「ピィッ!!」


 面倒な話に関係のない子供たちはパーティを歓迎する声をあげた。


「よし、入るぞ!!」


 テントの中に入った大賢者に私も続いた。はっきりしたものでもなかったが、違和感は室内に入った瞬間に感じた。しかし彼の方は何も感じていなかったように見えた。


「さぁ~て!! 自由の国アフリカへはどうやって行こうかねぇ!? 空でも飛んでバーっと行くか、それとも海底を這いずり回ってシャ……」


 大賢者が一点を見つめた状態で完全に固まった。私は彼の視線の先を追った。


 リビング中央に設置されたソファに、絵に描いたような美しい女性がこちらを見ながら赤毛の大型犬を撫でている姿があった。


「……よお、ソフィー」

「おかえり」


 彼女は優雅に微笑んで、私たちの帰りを迎え入れた。

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