表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
3章 空の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/160

88 買い物の本番

 

「レッツ、パ~リィタ~イム!!!!」


 食料品コーナーである。ペット用品コーナーで活力を失っていたはずの男は嘘のように元気を取り戻していた。


「ここからがショッピングの本番!! 我々はこのためにこの店に来た!! それでは各自、欲望をむき出しにして!! 食べたいもの、アシハラに作ってほしいもの、あったらどんどんカートに入れるように!!」


 言い終えた大賢者は一人、精肉を取り扱っているエリアの方へと消えていった。


「はぁ~……」


 本当に疲れる。私としたことがヤツのペースに合わせてしまった。これも旅に帯同する人数が増えたことによる弊害なのだろうか。あれの機微だけに注意を向けることが出来たら、こんな心労抱えずに済んだというのに。


「待ち合わせ場所だけ決めて、後で合流しようか?」


 アシハラが遠回しに『疲れてるなら休んでいいぞ』と言ってくれた。こんな優しいオジサンが加入したわけだから、そんなこと思ってはいけないか。自分勝手で軽率な考えを恥じた私は彼に笑いかけた。


「一緒に回りましょう。食材の事について色々教えてくださいよ」

「ええ? そんな期待されても、オジサン詳しくないよ?」

「いいですよ、ゆっくり見て回りましょう」


 私は知っている。本当に有能な人ほど多くを語らないことを。現に大賢者がそうなのだ。アイツは喋らない。だからアイツはダメなんだ。頭の中が喧しい。それはここで捨て去って、まずは青果エリアを目指した。





 野菜売り場ではキラが大暴れした。


「コレ!! 似てる!!」

「そんなにはデカくないでしょうよぉ? 品がない事はおやめなさい? はい、購入」


 バターナッツカボチャ。


「コレ!!」

「うーん、色とか皮が堅めな所がそっくり!! 艶はこんなにないけどね。って、やかましいわ!! はい、購入」


 アメリカ産の巨大ナス。


「ニシシシシ……」

「なんで二個持ってきたの!? タマってこと!? はい、購入。ダメ!! 吉良殿、野菜禁止!! もう触らないで!! 全部買わなきゃいけなくなっちゃうから!!」


 見たこともない特大サイズのジャガイモあたりで指導が入った。途中まで笑いを堪えていた私だったが、このあたりで限界が来た。


「あのねぇ……吉良殿、直接あてがっちゃダメなのよ? そこさえなければ、まぁ……よかったんだけどね?」


 アシハラは優しくキラを諭した。彼女は持ってきた野菜のすべてをアシハラの体の一部に直接あてがっていた。それが問題だった。なお、あてがった部分の詳細に関しては割愛する。


 その後もさまざまな野菜について、アシハラに美味しい食べ方を聞きながら買い物を楽しんでいると、丸太のようなブロック肉をどっさり抱えた大賢者が戻って来た。


「これでハム作ってくれるか?」

「ハムですか? いいですけど、時間はかかりますよ?」

「どれくらい?」

「このサイズですと……魔法無しなら2週間ほど。使うのならすぐできますが、味は保障しません」

「そんなかかんの!? うーん……試しに両方作ってくれるか?」

「御意」


 アシハラの返答に満足した大賢者はブロック肉を乱暴にカートに入れて、またしても精肉エリアに向かっていった。気になった私は雑に入れられた塊肉を丁寧に積み直すアシハラに尋ねた。


「調理に魔法を使うと、そんなに味が変わるものなんですか?」

「うん……まあ、プロじゃないからね。さて、野菜はこんなものでいいかな? 次はケーキ作りの材料か。乳製品と卵はどこに……あっ、フルーツをまだ見てない。ケーキにも果物が必要だからね?」


 男というものはどうしてこうなのだろうか。どうでもいい事はベラベラ喋るくせに、こちら側から積極的に根掘り葉掘り聞かないと教えてくれない時がある。この現象は何なんだろうか。また、そうしたところで元捜査官だからどうだとか言って茶化してくるし。私は少しだけ湧いた怒りを隠しながら買い物を続けた。





 果物を取り扱うエリアでは、子供たちが好きな果物を一つ選んで食べられるという、素敵な無料サービスが待ち受けていた。しかもそれを食べながら買い物をしていいという、少し抵抗すらあるサービスだった。


 ピィちゃんは自分の顔よりも大きなスイカを選んであっという間に皮だけにしてしまった。売り場にいた女性店員はその食べっぷりを褒め、内緒でもう一つくれたがそれもすぐに食べ切ってしまった。お腹は大丈夫なのだろうか。


 キラは存分に悩んだあと、桃をひとつ選んで食べていた。普通の女の子の様に可愛いものも好きなようで私は安心した。


 果物もどれを選んでいいやらわからないほどにたくさんの種類が並べられていた。ケーキ作りの為のアメリカンチェリーや、食欲のない時やおやつに重宝するバナナなど、基本的な果物はアシハラが目利きをしてくれた。


 途中でありとあらゆる肉を持ってきた大賢者が私たちと合流した。そこからはまた全員一緒に買い物をすることになった。うるさい男はドラゴンフルーツが好きらしく、大量にカートに入れていた。





 青果エリアの次はベーカリーエリアが広がっていた。それまでしていたフレッシュな香りは濃厚なバターと甘い砂糖の香りに変わっていた。


「これ、食べたいかも……」

「フハハハハ!! バカだなぁ!? よし、買おう!!」


 キラが遠慮がちに欲しがった特大サイズのケーキを大賢者は躊躇なくカートに入れた。


「明日ケーキ作りますよ!?」

「それはそれ、これはこれ。な?」


 大賢者が同意を求めたキラは、うつむいて少し気まずそうにしているだけだった。


「……ちゃんと、食べ切ってくださいね?」

「オッケー」


 頭の中と同じ、軽快な返事だ。大賢者はバカなのか賢いのかでいうと、バカだと思う。それだったらもうそれでいいのだ。こんな何十人前あるかもわからない大きなケーキをどうして買うのか。キラが欲しがったから。こんな小さな体のキラが食べ切れるわけがない。でも残らない。余ったら大賢者が食べ切るから。それでいいのだ。今日はその理論で全部許そうと思った。


「冷蔵庫、入りますかね?」


 さすがの料理番は収納面での心配もした。


「いい機会だから、地下室でも作るか。食料保存庫も作らなきゃならんし。今あるものとは別に、もっと大型のキッチンもあると便利だろう?」

「なんと……恐悦至極に存じます」


 アシハラは大賢者を褒めたたえた。


 その後、ベーカリーコーナーでも無用の長物を買い漁った。このコーナーで学んだことは、キラがクッキーなどの焼き菓子類が嫌いであることだった。ケーキは好きなのにどうして、と思った私は彼女が以前話してくれたエルフの完全栄養食の事を思い出した。確か、その完全栄養食とやらはあまり美味しくなくて、ボソボソしているとの事だった。おそらくクッキーを見るとその栄養食を連想してしまうのではないだろうか、という無駄な推測をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ