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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
3章 空の章
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85 新商品

 

 次に足を止めたのは飛行用魔道具のコーナーだった。そのコーナーに並べられた商品は箒ばかりではなく、得体のしれない形状をした物も多数取り扱われているようだった。


 話の口火を切ったのは先頭に立つ大賢者だった。


「アシハラは妖刀無くても、空飛べる感じ?」

「ええ」

「ゼノも飛べるもんな?」

「ピィッ!!」

「キラは?」

「なにか道具がなくちゃ無理だ」

「ほーん。杖では飛べない?」

「うん」

「タルも同じだよな?」

「はい」

「そうか……となると、このコーナーでの買い物は2人分になるわけだ。買うぞ。アフリカなんていうのは何があるかわかんないんだから」


 やっとまともな理由で買い物ができる時が来た。


 魔法界のアフリカ大陸におけるほとんどの国は魔法発展途上国に指定されている。それぞれの国や地域は独自の魔法ルールに則って生活を成り立たせているのだ。旅の目的地であるタンザニアの場合、市街地には何度か訪問したことはあった。人の手の行き渡った町については特段変わった点は無かったが、未開発の地域については何もわからない。私もまったく足を踏み入れたことのない、まさに未踏の地である。大賢者の言う通り、何があるかわからない。空中移動を余儀なくされる場面だってあるかもしれない。というか、今までだって飛行用魔道具さえあれば随分と楽が出来たはず。でも、そのおかげというか、飛行媒体を持っていなかったからこそ、大賢者の巨大クラゲ型使い魔『クアラちゃん』と出会うことも出来たし、どうにも胸中は複雑だった。


「ほらほら、何をボーっとしてるんだ!? さっさと試乗しなさい。これなんかいいんじゃない?」


 大賢者は箒の形状とは程遠い、5、60センチはありそうな薄っぺらい円盤を顎で指した。


「いや……なんですか、それ? もっと普通の箒でいいです」

「ダ~メだよ。お前というヤツはまたそうやって。生きている限り、新しいものっていうのはどんどん出てくるんだから順応していかないと、偏屈ババアになっちゃうぞ? ローブ脱いで、ほら」


 有無を言わさず、しかも脱ぐ必要なんてどこにもないのに大賢者は殆ど無理矢理に私からローブを奪い取り、薄い円盤を手渡してきた。


「メイド・イン・ジャパ~ン。コンダの新商品だってさ」

「なぜコンダなんですか? エドガンでいいじゃないですか」


 コンダ社は日本の飛行用魔道具専門メーカーだ。人気と性能においては総合魔道具メーカーであるエドガンと肩を並べる存在でもある。それだったら素直に実父が携わるエドガン社の製品を選べばいいのに、どうしてか大賢者はコンダ社の製品を勧めてきた。


「えぇ? エドガンはつまんないから、いいよ。ただ直線が速いだけだから」

「コンダは何が違うんですか?」

「えっとぉ~?」


 大賢者は棚にぶら下がっていたパンフレットをその場でめくると、声を出して読み始めた。


「我々が求めたのは今までにない旋回性と直感的な操作性……フハハ、カッコつけ過ぎて逆にだせぇ。え~、他にも……使用時以外の時でも圧縮変形でお洒落に……圧縮変形!? ニッチな魔法使ってるなぁ。さすが日本メーカー」


 圧縮変形魔法についてはよく知らないが、旋回性と操作性が売りいう事はエドガン社の製品と比べて小回りが利くという事だろうか。いずれにせよ、実際に乗ってみないとよくわからないキャッチフレーズだった。


「とりあえず、試乗コースに行こう」

「試乗コースって、どこにあるんですか?」


 私は店内を見渡した。視界に入ったのは無数の商品とそれに伴う陳列棚、そして行き交う人々の群れだけだった。どこを見たってそんな場所があるとは思えなかった。


「あそこだよ、あそこ」


 大賢者はいつの間にか手にしていたサーフィンのボードのような物で、壁の方にポツンと存在する試着室のような場所を差した。その先に繋がっているのは魔法によって伸張された空間か、それともまた別の場所か。試乗コースの場所についてピンときた私ではあったが、大賢者が手に持っているボードについてはまた別の話であった。


「それ、何ですか?」

「比較対象用にね。こっちはエドガンの新商品だってさ。キラも同じのでいいよな?」

「うん!! タルと同じのがいい!!」


 キラは随分と可愛い事を言ってくれた。おかげで私は気分よく試乗コースに繋がる試着室へと足を運べた。





 試着室の先には自然が人為的に組み合わせられた空間が広がっていた。


 向かって右側は規則的に植えられた木々が立ち並ぶ植林地帯。対して左側は露出した岩盤群が高く(そび)え立つ岩石砂漠地帯。異なる二つの風景に挟まれるような形で中央には草原が地平の彼方まで続いていた。


「さあ、やって参りました!! 羽ばたけ、第一回飛行用魔道具選手権大会~!!」

「いええぇぇぇぇい!!」


 大賢者の悪ふざけに乗ったのはいつも通りキラだった。アシハラはカートに乗せたピィちゃんに水分補給をさせたあと、小さく拍手を送って場を盛り上げた。


「大声等、他のお客様のご迷惑となる行為はおやめください」


 私は試着室に入る直前に貼られていた注意書きを思い出し、来月30歳を迎えるパーティー野郎に声に出してその旨を伝えた。


「まぁ……そうね」


 彼にしては素直に聞き入れた方だと思う。大賢者はすぐに声のボリュームを落とし、普通の喋り方に変えた。それでも彼の場合は普通の人よりも良く通る声であった。


「それではまず、コンダ社の商品の方から。アシハラ、キラにも同じものを渡してやってくれ」

「御意」


 用意周到なアシハラは大賢者の言う通りにスマートに動いた。キラの手に薄くて大きな円盤が渡されたのを確認すると大賢者は進行を続けた。


「じゃあ二人とも横に並んで。円盤を地面に置いてみてください」


 先にキラが乱暴に地面に円盤を放った。すると円盤は地上より数センチほど浮かび上がり、わずかに横に伸びて楕円形になった。続いて私も地面に円盤を置いた。違いはキラよりも丁寧に地面に置いただけで、円盤はまったく同じ動きを見せた。


「乗るときは足の感覚を肩幅ぐらいに広げて」


 大賢者の合図で、どちらともなく楕円形の物体に両足を乗せた。すると今度は足元の物体が左右それぞれに分かれて靴底のサイズにピタリと一致するまで縮んでいった。左右の靴の下では足のサイズよりも二回りほど大きな白い魔法陣がくるくると回っていた。


「白!? 珍しいねぇ……キラはやっぱり紫か」


 大賢者は私たちの足元に描かれた魔法陣の色に反応した。どうやら人によって色が違うらしい。キラの方を見ると魔法陣は淡い紫色に光っていた。


「それじゃあ、あとはもう……それぞれの感覚の問題です。最初はそうだね……キラは右足を前に前傾姿勢で。タルは右足を後ろにして、左足は気持ち上にしてみると飛びやすいと思う。まずこの草原のところで直線的に飛んでみるといい。慣れてきたら、森の木々の間を旋回してみたり、砂漠の岩穴をくぐってエアトリックを決めてみたり、色々試してみてください。俺たちはここで見学してるから」

「よいしょーー!!!!」


 余程待ちきれなかったのか、その場でロケットスタートを決めたキラは完全に私を置き去りにしていった。


「な~にやってんだ? お前も行くんだよ」


 遅れた私は、まず高度を十分に上げてからスタートすることにした。

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