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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
3章 空の章
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84 買い物スタート

 

「なんだ、これ?」

「これは~……映像を楽しむための物」


 テレビを知らない人にその説明をするのはなかなかに難しい。陳列されている大型テレビに興味を示したキラに対し、私は貧弱な情報しか与えられなかった。


「なんだぁ? テレビが欲しいのか?」


 不機嫌そうに尋ねた大賢者にキラがこっくりとうなずいた。


「いらねぇよ、こんなもん……買いなさい」


 大賢者は眉間にしわを寄せて難色を示す言葉を放った直後、あっさりと購入許可を出した。それまでの否定的な態度はすべて演技で、感受性の強いキラの内面を滅茶苦茶にして遊んでいただけのようだった。


「ほへっ……や、やった? やったー!!」


 それまで遠慮がちだったキラが大喜びする様を見て、大賢者は笑いを漏らした。


「あの、大丈夫なんですかね? いきなりこんな大きなもの、カートに入れて」


 オズフォードのカートは普通のスーパーマーケットのそれよりも大きなものだった。それでもこのテレビなんかを入れてしまったら、他の商品を入れることが出来なくなりそうだった。


「大丈夫だって。アシハラ、頼んだ」

「御意」


 カートの操縦権を握るアシハラがテレビの梱包された箱を詰めようとした。すると箱はみるみる縮んで手のひらサイズとなり、たっぷりの余裕を空けてカートに納まった。


「な? さあ、テレビを買ったらスピーカーと台も買わないと。全員、欲しいものがあったら迷わずにじゃんじゃんカートにぶち込めよ?」


 魔法界屈指のテーマパーク好きはその日も張り切って先頭を歩き始めた。



 これぞアメリカ。私が最初に抱いた感想がそれだった。広大な敷地に建てられた会員制倉庫型大規模店舗オズフォードは何もかもがスーパーサイズだった。敷地、店舗、売り場面積、陳列された商品。巨人の国に行ったことがある私の目から見ても、この店の方がよほど巨人の国のようだった。



 店舗に入ってすぐの魔道具コーナー。大型サイズのテレビとスピーカーとそれらを置くための台。店に入って数歩も歩かずに、すでにこれだけの商品がカートに納められた。いずれも圧縮魔法で縮められ、可愛いサイズになってはいるがお会計の方は可愛くないだろう。大賢者という絶対的な財布がいるからこそできる贅沢なショッピングだ。


「アシハラ、これなんかどうだ? 絶対要らないだろう? 買おうぜ?」

「いや、これは……」


「ゼノ、これは……フハハ、これはヤンチャだぞ? 絶対着ないだろう? 買いなさい?」

「ピィッ!?」


「タルぅ!! これ、お前が一番要らないやつだ!! 買え!!」


 問題はこちらの返答に関係なく、大賢者が奇妙奇天烈な商品ばかりをカートに入れがちなことだった。アシハラにはアニーウェと呼ばれるスカンクの巨大なぬいぐるみを、ピィちゃんにはドラゴンの刺繡の入った黒いローブを、そして私にはカエルの姿をした女神ズェラロンズを象った目覚まし時計を強制的に買い与えてきた。


「うげぇ……」


 キラは目覚まし時計のデザインを見て顔をしかめた。直後、何か思う所があったらしく、じっと時計を見入ってからもう一度口を開いた。


「慣れれば、ちょっとだけかわいいかも……」


 こんなもので彼女のトラウマ克服に貢献できればそれはそれでいいのだが。


「もっと普通の物、買いません?」


 財布の人には申し訳ないが、このショッピングには無駄が多すぎる。私は軌道修正を図るべく、大賢者に提案した。


「普通って……何だろうね」


 大賢者は深い話をするかの如く、低い声でゆっくりと(のたま)った。


「そういうのいいですから」


 私は冷たくあしらい、次の言葉を続けた。


「洗剤と柔軟剤、それからペーパー類のストックも切れてます。それに、いつでも新鮮な食べ物が手に入るとも限りません。長期保存できる水や缶詰類なんかもあった方がいいと思います。そういったものを中心に買わないと、後々皆が困ることになりますよ?」

「さすがイシュタル殿。先見の明がある」

「ピィ!!」


 二人が褒めてくれた。悪い気はしなかったが、普通のことを言ったまでだ。


「わ~かってるよぉ!!」


 母親に怒られた中学生男子の様に大賢者が口を尖らせた。


「必要なものはお前が覚え……といて、くれる?」


 短期の記憶力に致命的な欠陥を持つ大賢者は徐々に語気を弱めていった。


「まかせろ!!」


 記憶力については一番よろしくないであろうキラがなぜか自信満々に答えた。


「お前に言ってねぇし!!」

「はぁ!? 何だよぉ!? いいだろう、別に私が覚えたって……」


 親子喧嘩が唐突に始まるかと思いきや、キラは近くにいた若い二人組の男女が熱いキスを交わしている場面を食い入るように見つめ、こう言った。


「なあ、ムガ。ここで一発チューでもしてみるか!?」


 彼女のアシハラへの熱い思いは変わらないようだった。


「無理だねぇ。ここ、アメリカだから。そういった犯罪に非常に厳しい国だと、オジサンそう聞いております」


 アシハラは生真面目にキラに返答した。それぐらいの事であきらめるわけもなく、キラはしつこくアシハラに絡み続けた。


「そっかぁ。じゃあ終わろうぜ、二人で!!」

「やだぁ、かっこいい……じゃなくて、終わる意味も分からないから。こんなに楽しい旅、もっと続けたいでしょうよ。ね?」

「ほんっとに、意気地のない男だなぁ。そんなんで子どもなんか育てられるのか?」

「う~ん……不安だよ、そりゃあ。やったことないもん。44歳、未経験ですから」

「デュフフフフ。ムガはホント、面白いなぁ」


 お馴染みになってきたおとぼけオジサンと愛の強いエルフとの掛け合いを聞き流しながら、私たちは次の陳列棚へと向かった。

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