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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
2章 山の章
80/160

80 変態対決

 

 結局、トイレは性別ごとに分かれてすることになった。それが道理というものだろう。なのに、キラがアシハラを帯同させようとしたから話がややこしくなった。すでにふんどしデビューを済ませていたキラは手慣れた様子で、私は特防課秘伝の立った状態での排泄術を駆使して、それぞれ用を足した。


「すごいな、タル!! 今度、やり方を教えてくれ!!」

「う~ん……ダメ」


 立った状態での排泄は慣れればそんなに難しくはない。私が生まれる数十年前まではそうやって用を足す魔女たちの方が圧倒的多数だった程だ。しかしながら、現代を生きる魔女としては大切な何かを捨て去ることになる。キラのまわりには大賢者もアシハラも、私だっているのだから、わざわざそんな技術を会得して奇襲に備える必要性がない。だから私はこの方法を墓場まで持って行くつもりだ。




 水ようかんと冷たい緑茶による栄養補給をきっちりとした後、休憩は終わりを迎えた。案の定、進路はすぐに行き詰まった。石柱の間を通った光る足跡が途切れた所、溶岩の滝が流れ落ちる場所で私たちは足を止めた。


 先頭に立つ大賢者が私たちに後ろに下がるように手で合図した。棒立ちのまま、彼は珍しい魔法を使い始めた。


「コンセーダノスセ、フォゴ、アルデンチエ、プロテッサーオ、ミラグローザ」


 現代の魔法界では滅多にお目にかかることのない、詠唱による魔法だった。地面が震え始め、進路を塞いでいた溶岩の滝の流れが徐々に弱くなっていった。


「お゛お゛お゛!?」

「ビビビッ!?」


 キラとピィちゃんが地面の揺れに怯え、腕を組んでどっしりと構えるアシハラにしがみついた。私も彼の厚みのある肉体に頼りたいところだったが、定員オーバー気味だったため、仕方なく一番近くにいた大賢者のローブの端っこをつまむ程度にしておいた。


 溶岩の滝が消失すると、地面の揺れもおさまった。滝の裏側には人工的な石造りの通路が隠されていた。


「これが……詠唱魔法」


 詠唱魔法は利便性や安全性、発動速度などに問題があり、現在では廃れてしまった魔法技術だった。頭の中に最初に思い浮かんだのは、アイスランドでの海割りの大魔法。私は詠唱魔法の強大な力に圧倒され言葉を失いながら、その魔法のことも思い出していた。


「これが失われた魔術ってやつよ。ご感想は?」


 求められた私は無理やり感想を捻り出した。


「……敵方は、どうやってここを通ったんですかね?」


 戦闘が近いことはこの洞窟に入った時点で気がついたことであり、休憩時にも伝えられていた。我々は敵に先回りされている状況にある。ということは、あちら側の人間もここを通ったという事だ。大賢者の世にも珍しい詠唱魔法と同じことが出来る人間が相手の方にもいるとは考え難かった。


「さぁな。最新の魔道具でも使ったんじゃない? 相手は財閥だし」


 魔法界の技術の発展に何とも言えない気分にさせられた。整備された石畳を黙って進み始めた大賢者の後を追い、そこから私は彼と並んで歩いた。


「もう一つ質問があるんですけど、よろしいですか?」

「質問はいつでも歓迎だ」

「さっきの詠唱魔法って、海を割った時の魔法と同じ性質のものですか?」

「よくわかったな? さすがは我が右腕」


 ということは、つまり……。


「詠唱の必要性って、あったんですか?」

「別にないよ? 冒険してる感じを出したかっただけ」


 ガッカリしたやら何やら、私は大きくため息をついた。


「フハハハハ!! あまり気を抜くなよ、タルぅ~? この先には戦闘が控えてるんだから、緊張感を持たないと!!」


 その緊張感をなくしたのはどこのどいつだ。私は指先まで出かけた魔力を抑えつけながら敵の事を考えることに集中した。




 足に負荷のかからない平らに整備された道の先にはシンプルな石造りの神殿のような建造物が佇んでいた。私たちは入り口の階段下で立ち止まり、パーティの中で一番気の短い男が口を開くまでの間、その建造物を眺めていた。


「な? 明らかに不自然だろ? 恐るべし、古代エルフの建築技術」


 何年前に建てられたものなのだろうか。この場所がエルフの秘宝の魔力が封印された場所だとしたら、数千年は経っているという事になる。それなのに、神殿には目立った劣化が見受けられなかった。綺麗すぎる神殿は私から現実感を奪い取る存在だった。


「お前たちの気持ちはわかる。俺も最初そうだったから。とりあえず上にあがって、ちゃちゃっと敵を蹴散らそう。それから守護獣みたいなのを呼び出すから」


 大賢者の後を追って入り口の階段を上りきると、すぐに祭壇のある場所に出た。敵方はそこにいた。




 奥の方にある祭壇の前に立っていたのは一人の魔女だった。さらに8人の魔法使いたちが魔女と祭壇を守るようにして扇状に陣形を組み、こちらに狙いを定めているようだった。緊迫した場面で最初に口を開いたのは祭壇の前に立った魔女だった。


「やっと来た。あなた……本当に葦原? 見違えたわ。今度はお嬢様に会わせても失礼にならなそうね。さあ、大人しく投降しなさい。一緒に日本に帰って、やり直しましょう」


 魔女は胸元が大きく開かれた黒一色のボンデージ衣装に身を包み、赤いフレームの眼鏡をかけていた。そのあまりにも変態性の高いファッションセンスに困惑した私たちの視線は、おのずとアシハラに集まっていた。


「椿……だよな? いやぁ~……初めて出会った時から光るものは感じてたけど、まさかここまで黒光りするとは……たまげたなぁ」


 アシハラは一歩前に踏み出て、いつものおとぼけ節をお見舞いした。ツバキという名前には聞き覚えがあった。どうやら彼女がアシハラと約束を交わして、すぐに反故にしたという人物そのものらしい。


「無駄口を叩くな!! あなたは黙って私の言う事を聞けばいいの!!」


 一方的な要求を突きつける魔女に、アシハラは彼らしからぬ乾いた笑いを返すだけだった。


 私たちの中で不愉快になっている人物がいた。その人物はおとぼけオジサンの尻を一発叩いてから、彼よりもさらに一歩前に出た。


「お前が話に聞いた、あの女か。残念だけど、もうムガは私のモノだ。ムガはお前のようなババアには豚に……豚に……ムガ~、今日の晩ごはんは豚肉が食べたい」

「あいよ」


 豚に真珠とでも言いたかったのだろうか。キラの主張はただアシハラとイチャついただけで終わった。


「よう、日本人ども。大賢者様と勝負しようぜ? 負けた方が全世界に肛門晒そうな? 条件が飲めない者は5秒以内に去れ。5……4……3……」


 誰よりも前に躍り出た大賢者がツバキよりも一方的な条件を突如として突きつけ、最悪のカウントダウンを始めた。悲しい事に誰もその場を去らなかった。皆、逃げてください。この人絶対、私にその公開する用の現物の映像を撮らせるつもりです。


「2……1……」

「オホホホホ!! 無駄よ、無駄!! いくら大賢者の魔法と言えど、私たちの装備には魔封物質が使われているのだから!!」


 魔封物質。犯罪者を閉じ込めておく施設の建材や、錬金術などの事故処理をする際の防護服などに用いられる物質だ。さすがに今回ばかりは大賢者もお手上げかもしれない。そんなことを少しだけでも思った私が馬鹿だった。


 無情にも爆発音が響き渡った。


 8人の魔法使いは消え去り、その代わりに彼らがいた場所に天井からポタポタと液体が滴り落ちてきていた。


「対日本人専用奥義!! ヤマタノオモラシ!!」

「デュフフフフ」

「ピュイピィ!!」

「あ~あ……これは酷い!!」


 皆が上の方を見て笑い声をあげていた。私は見たくないから絶対に見ない。おそらく天井では8つの穴が露出させられた状態になっている。見ないから、詳細はどうなっているかはわからない。ミノムシみたいになっているのかもしれないし、お尻だけが天井から生えているような状態にさせられているのかもしれない。でも待ってほしい。彼はヤマタと言った。もしかしたら8人の股が一か所に集められてオモラシをさせられているのかもしれない。お花みたいに。


 悲しいかな、大賢者は敵に対しては男女平等。彼の楽しみを奪った可哀そうな8人には罰が下されてしまった。


「そんな……どうして!?」


 一人残されたツバキは狼狽えるばかりだった。


「日本の魔女は魔封破壊も知らんのか?」


 中東の魔女も知りませんでしたけど。いや、正確には知ってはいる。けれど、人間に破壊が可能なほどに強い魔力が出せることは知らなかった。大賢者の魔法は魔封物質でも耐えられない強大な力が込められているという事だ。


「さぁ、次はお前の肛門だな?」


 大賢者は冷徹な表情で最低な脅し文句を言い放った。これではどちらが悪か、わからない。そもそもこの戦いに正義も悪もないけれど。ともかく、変態対決はこちらに軍配が上がってしまった。

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