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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
2章 山の章
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63 茶番

 

 デッキへと上がる階段下で大賢者とアシハラが見覚えのあるやり取りを始めた。


「どうぞどうぞ、まずは上がってください」

「否!! その資格は自分にはまだ!!」

「そうですか。困りましたねぇ……このままだと、ここで面接を始めないといけなくなってしまいますねぇ?」

「いやぁ~……その~……自分は~……」


 なるほど。面接はすでに始まっているというわけか。遠慮しすぎてかえって相手に迷惑をかけてしまっている。これは減点だ。いつの間にか大賢者の手にはチェックシートが挟まれたクリップボードとペンが握られていた。渋い表情を浮かべた大賢者はチェックシートに大きく×印のようなものを描く手の動きを見せた。


「遠慮せずに上がってくださいよ。座ってお話ししましょう?」

「は!! それでは、失礼仕りまする!!」


 言葉遣いがおかしくなっている。もしかしたらアシハラは面接が苦手なのかもしれない。どうでもいいけど、こういう光景を見ると立場の弱い方を応援したくなるのは何故なんだろうか。


「ガンバレ!! オッサン!! リラックス、リラックス!!」


 応援付きの面接なんて聞いたこともないが、キラは変わらずアシハラの肩を持ち続けていた。


 雪原と山々を一望できるデッキに上がると、アシハラは大賢者と向かい合わせにピクニックテーブルに座った。彼の背後にはキラがほとんどピッタリくっつくようにして位置をとっていた。横から見比べると2人の体の厚みには同じ生命体とは思えないほどの差があった。


「では最初に、お名前と年齢の方をお願いします」

「はい。葦原と申します。数えで45になります」

「数え?」

「ええ。日本独自の歳の数え方でして……」

「カッコつけないでいいんで。こういった場では国際基準でお願いします」

「44です」

「デュフフフフフ」


 44歳か。彼が加入したら平均年齢がグッと上がりそうだ。いや、逆に下がるのか。キラとピィちゃんは見た目も精神的にも子供だが実年齢だけは高い。キラの実年齢は不明のままだが、ピィちゃんは第7魔王でもあるのでざっと計算すると220歳くらいのはず。改めて真剣に考えると、いかに自分たちがおかしな集団であるかを思い知った。今更へんてこな中年の侍が加入しても、なんという事は無いような気もしてきた。


「ほうほう。下のお名前がありませんけれど、これは?」

「はい。侍なので名前はありません。侍はただ(さぶら)う所だけがあればよい、と。幼少の頃にそういう教育を受けまして」

「なるほど~。名前がないというのは、珍しいですねぇ……住所とこれまでの職歴は?」

「主君を求めて各地を転々としておりますので、特定の住所はありません。当然ながら、表の職歴も。侍なので」

「あぁ~。そうでしたか……住所不定無職、というわけですね?」

「はい」

「デュフフフフフ」


 キラが笑いながらアシハラの背中をバシバシ叩いて喜んでいたが、どうにも旗色が悪かった。面接官レオナルドはなめらかに質問を続けた。


「先ほど表の職歴とおっしゃられていましたが、裏の職歴というのはあるのでしょうか? もしあるとしたら、直近のもので構いませんので何をしていたのか、簡単に説明をお願いします」

「そうですなぁ……最近ですと、なんかよくわからんチンピラ集団を一夜で壊滅させました」

「それはすごいですねぇ……その時の報酬と殺害人数を、差し支えなければ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「あ~、はい。報酬は『無銘破天魔』と呼ばれるこの妖刀だけでした。殺害人数はすいません、ちょっと正確には数えていないので、わかりませんけど……もし相手が防御術を知らない人間だとしたら200か、250か、それぐらいだったと記憶してます」

「いいぞ!! オッサン!! もっと言ってやれ!!」


 虐殺者じゃないか。とんでもないマイナス要素だ。反社会的組織に所属する人間ならば防御術を知らないという事もないだろうが、これは大丈夫なのだろうか。日本の警備局が追ってきたりはしないのだろうか。


「そうでしたかぁ~。ちなみに当社では一切の殺しを禁止させていただいているんですけども、それについては大丈夫でしょうか?」

「え~と、それっていうのは人間だけでしょうか? その~……魔獣の類ですとか、生死問わずの賞金首ですとか、敵意のある神格ですとか、そういう輩も含めて?」

「いやいや、それは含めません。やらないとやられる場面の時は流石に許可しています。そういう時に、いちいち許可を取らなくても、ね? 大人ならわかりますよね?」

「左様でございますか。それならばこちらとしては何ら問題はございません。御社の方針を順守したいと思います」

「理解してもらえて、こちらとしてもありがたいです。最近、後先考えないですぐ殺しに走る未熟な魔法使いが増えていまして。きっと、戦い方に幅が無いんでしょうね。まぁ、あなたもこれまでとは違った戦い方をしなければならなくなるので、苦しくはなると思います。しかし弱い者いじめは厳禁です。そこからは何も得られません。むしろ自分で自分の成長と可能性を奪ってしまうことになりかねない」

「……感服でございます。葦原の主君として、これ以上にない方と改めてお見受けいたしました。こちらの勝手な都合ではございますが、何卒お取り計らいの方をお願い申し上げます」

「うむ」


 採用前提の前向きな言葉に対し、アシハラは簡単に悦に入らずに落ち着いた対応を見せてきた。難しい言葉ばかりでキラはついていけてないようだったが、私は彼の侍たらしい忠義ぶりに感動を覚えた。


「最後になりますが、何か聞きたい事とかはありますか?」

「そうですなぁ……聞きたい事……タバコは……禁煙?」

「じゃないです。あのー、社長が愛煙家なので。ご自由に楽しまれて大丈夫です」

「それは良い事を聞けました」

「ちなみに贔屓の銘柄なんかはあるの?」

「贔屓はありませんが、非魔法界の臭ぇやつが好きです。あっちの世界のタバコでないと感じられない臭みがあるので、そこが気に入っていますね」

「あ~、わかるわ。俺も非魔法界の紙巻きのやつ好きで吸ってるんだけど、臭いよな? あの臭みって、どうやって出してるんだろうな?」

「なんでも葉っぱ以外の物が入っているらしく、それが臭いんじゃないか、なんていう話を聞いたことがあります」

「へぇ~、知らなかったわ……今度さぁ、非魔法界のタバコ屋一緒に行かない?」

「は!! 是非に!!」


 バカ喫煙者どもが。何で面接よりも会話が盛り上がってるんだよ。私の感動を返せ。今度から喫煙する際は外に出てもらおうか。喫煙する人数が増えたら室内の空気が悪くなる。


 キラがアシハラの背中に指で文字を書く遊びを始め、面接官がチェックシートに細々と何かを書き込むと面接試験は終了した。





「結果発表おおおお!!!」

「イエェェェェイ!!!」


 大賢者とキラの大きな声が雪景色に吸い込まれた。私とキラに挟まれて立つアシハラは緊張した面持ちで面接結果を待っていた。


「アシハラさん、お疲れさまでした。早速ですが、今回の結果を発表させていただきます」

「は、はいっ!!」


 直立不動のまま、アシハラはごくりと生唾を飲みこんだ。キラは彼の顔を下から覗き込み、にやにやと笑った。


「今回の結果は合格です。ようこそ、レオナルド軍団へ」

「え゛!? やった……やったぁぁああ!!」


 本人だけが結果に不安を抱えていたらしく、アシハラはその場で素直な喜びの感情を表した。


「よかったなぁ!? オッサン!!」


 キラはアシハラの手を取りブンブンと激しく揺さぶって彼を歓迎した。


「ありがとう、ありがとう!!」


 今回の面接にアシハラが合格できる要素なんてどこにもなかった。始めから結果が決まっている、出来レースというやつだ。大賢者企画脚本演出主演の茶番劇により、私はその日の時間も無駄にすることとなった。


「名前名前!! レオ、この汚いオッサンに名前をつけてやれ!!」


 手をつないだままのキラがアシハラの命名をねだった。


「え~? 日本人名はむずいし、このオッサンそれなりに強いからなぁ……最近仕えた人の中で、お前に名前を付けたやつはいないのか?」

「あ~、そういえば『無我(むが)』という名を最近授かりましたね」


 他人事のようにアシハラが自分の名前を紹介した。


「いいじゃん。それでいこう。お前の名前は今日から『ムガ』だよ? よろしくね?」

「はい!! 飯炊き、風呂掃除、トイレ掃除、何でもします!! お嬢さん方も、どうかさっきまでのオジサンの事は忘れて、今は集団の中の一番下っ端だと思って、遠慮なく何でもお申し付けください!!」

「ムガ~、雪を使った遊びを教えろ!!」

「承知ぃ!!」


 二人は仲良く雪原へと駆け出していった。アシハラが魔法で生み出した雪の龍が蛇に似ているという理由でキラが怒り出したのは、それからすぐの事だった。

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