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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
2章 山の章
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58 『交渉決裂』

 

 日本のとある場所に建てられた高層ビルの一室では謀反が起ころうとしていた。無機質な部屋の中で一人の醜男が魔女に対し、詰め寄っていた。


「は? なんで? 約束したじゃんか」


 これまでに見せなかった威圧感を纏い葦原無我は椿をじりじりと壁際に追い詰めていた。


「そ、それは……その……」


 原因は性欲に絡んだことであった。無我と安易に約束を交わしてしまった美しき魔女は身を縮こまらせながら後退し、ついには白い壁に背中をくっつけてしまった。彼女が元々立っていた場所には何人もの魔法使いが横並びで立っていたが、誰一人動くこともできずにその様子を傍観しているだけであった。


「あっそ。じゃあもう交渉は決裂だね。最初からきな臭い連中だとは思ってたんだが、これほどまでに幼稚とはな。上も上なら下も下だ。やってられねぇよ」


 その瞬間、無我は部屋の一段高い場所で鎮座する外神桜子を主君として認めなくなった。


「椿!! 自分で交わした約束でしょう!? 受け入れなさい!!」


 無我の心の内など知る由もなく、桜子はなんとか事を収めようと椿の説得を始めた。


「しかしお嬢様、それはあまりにも」

「勝手に喋ってんじゃねえ!!!!」


 無我は声に魔力を込めて椿を吹き飛ばし、そのまま彼女の事を壁にめり込ませてしまった。壁面には意識を失った彼女を中心に椿の花の形をした亀裂が悲しく咲いていた。


「金剛!!」


 桜子は身の丈7尺はあろうかという大男をけしかけ、この異常事態を鎮圧しようとした。


「何が金剛だよ!!」


 桜子の介入はすべてが裏目に出た。無我は臆することもなく自身に迫りくる巨体を蹴り上げた。金剛の姿は消え去り、天井からパラパラと塵が落ちてきた。無我の頭上には天井板に首の部分までが突き刺さった金剛の姿があった。


「胸糞わりぃ!! ガキどものごっこ遊びなんて、これ以上付き合いきれんわ!!」


 息を荒くした無我が桜子の元へ迫り、彼女が手に持つ日本刀を掴もうと手を伸ばした。しかし桜子は無我に刀を渡すことを拒み、黒い鞘と藍色の柄をしっかりと握りしめた。その行為はまたしても無我の心を焚きつけてしまった。


「さすがこの集団の頭領だ。見苦しい事を躊躇なくしてくれる。離しな、お嬢ちゃん。これ以上反故を増やす気なら、こっちにも考えがあるぜ?」


 二人の魔力の差は明白だった。大蛇とネズミほども差のある事実をわかっていながらも部下たちのいる手前でもあった桜子は気丈に振舞い、首を横に振って無我の要求を拒んだ。


「きゃああああ!!」


 無我は桜子の座る椅子の後ろ側に回り込むと、彼女の乳房を激しく揉みしだいた。注意力と刀を奪い取ることにまんまと成功した無我はそのまま後ろの壁面を刀で斬り抜くと、開け放たれた夜明けの空に飛び出した。


「お、お待ちなさい、無我!! どこへ行くというのです!!」


 やっと椅子から立ち上がった桜子は必死で宙に舞った無我を呼び止めた。


「キャナダだよ!! 俺より強いやつがいるんだろう!? 今後はそいつに食わせてもらうことにする!! もし追いかけてくるなら死ぬ気で来いよ!? バーカ!!」


 吐き捨てた無我は勢いよく加速し空の彼方へと消えていった。


「お待ちなさい……」


 どうすることもできず、力なくその場に座り込んだ桜子の心の中には不思議な感情の種が撒かれていた。

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