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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
1章 海の章
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51 地獄のパーティー野郎

 

 相も変わらず広がり続ける海と空。部屋に備え付けられたプールでは、いつものようにそれぞれが定位置についている。ついに私も船旅に飽きが来てしまっていた。


「なんだかんだ、あと3日で到着かぁ。早いような、遅いような……」


 涼し気な色をしたトロピカルドリンクをやたら軌道の長い曲がりくねったストローで吸い上げ、大賢者が独り言にしては大きな声で船旅を振り返った。


「水着、水着、水着見せろ!!」


 私はしつこく上着を脱がそうとする華奢な手と攻防戦を繰り広げていた。


「そうね。タルのドスケベ水着姿を拝む事以外に、もうやり残したことはないな。船内の行けるところは粗方回ったし」

「……でも、スーパースタークラス専用のエリアにはまだ行っていませんよ?」

「イデデデデデ!!」


 そろそろ煩わしくなってきた私はキラの腕を捻転させ肩を極めながら大賢者に意見した。この豪華客船にはスーパースタークラス専用エリアと呼ばれる、一定水準以上の客室に泊まる乗客だけが行けるエリアがある。私たちはまだそのエリアにだけ立ち入っていなかった。


「行かない行かない行かない。そんな軟弱なエリアは行かないし、お前たちの事を連れて行きたくもありません。普通が一番」

「そうですか……」


 大賢者の強い反発を少し残念に思ったが、彼がそういうのならば仕方がない。私は庶民派のリーダーに意見を合わせることにした。


「……もしかして、行きたいの?」


 私の顔をのぞき込んだ大賢者はすぐに態度を軟化させた。


「せっかくですし……はい」


 私は正直に自分の気持ちを打ち明けた。そこには純然たる好奇心のみが存在していた。


「マジかよぉ……じゃあお前らだけで……いや……それも危ないなぁ……」


 大賢者は自分の額をペシペシと叩きながら悩み続け、私は制圧していたキラの身を自由にさせた。


「一か八か、どっちかなんだよ。やつらっていうのは知り合いだけで集まる習性があるから」


 独り言なのか、それとも私に語りかけているのかギリギリ判別がつかなかった。しかし、彼の言っている『やつら』というのが超富裕層に属する魔法族のことを差していることは容易に推察できた。


「天国か、地獄か……うーむ……キラは行ってみたいか?」

「そこには何があるんだ?」


 伸ばされていた筋を自分で揉みほぐしていたキラが大賢者の方に顔を向けて言った。


「下らんものだ。ラウンジとかトレーニングルームとかスパとか、そんなもんがある」

「すぱ? おっぱいはたくさんあるのか?」


 キラは彼女にとって最も大切なことを聞いた。


「……ああ、あるとも」


 表情なく、うつろな目で大賢者は答えた。嘘を言わなかっただけ凄いと私は思った。


「じゃあ行く!!」

「そうか……元カノとかセフレとか、そういうのがいなきゃ連れて行ってやってもいいんだけどなぁ」


 そういう事か、クソ野郎め。大賢者が真の理由を暴露した。


「大賢者にも恐れるものがあるんですねぇ~?」


 危うく騙されかけた私は出来るだけ彼に憎たらしく聞こえるように、挑発的に言ってやった。


「そう言うけどなぁ……ヤバいんだよ? そういう……一般的ではない環境で、チヤホヤされた魔女っていうのは、その~……ヤバいの。とっても。本当に。そんな奴らを相手に、俺がいつもみたいに相手の顔と名前を思い出せないで、お前ちゃんは誰だっけ? なんて態度とってみろよ。めんどくさい事になるぞぉ~? だからアイツらは嫌いなんだよぉ。俺なんて男は、ただセックスしたいだけなんだから。曲がりなりにも魔女ならば、そんな事は見抜いてほしい。その点で言うと、シシーちゃんは最高にプロフェッショナルだったな。もう一回ぐらい、抱いとけばよかった」


 口数のわりには希薄な内容の話が終わった。プロフェッショナルの魔女の名前だけが、ただ懐かしく感じられた。


「全部自業自得ですし、そんな態度とらなきゃいいだけの話じゃないですか。私は聞いてみたいですけどね? あなたが過去に捨てたセレブな魔女たちの憤怒怨嗟の声を」

「まったく、いい趣味してやがるなぁ……ヘヘっ、わかったよ」


 決心がついたようだった。彼を焚きつけるのであれば、まともな事を言ってはいけない。なぜならば、彼自身がまともではないのだから。


「キラ、タルと一緒に着替えておいで。耳は隠して、杖はポーチにしまっておきなさい」

「うん!!」

「ゼノ……はいいか。お前はそこで待ってていい。万が一、部屋に何者かが侵入したら……殺し以外なら、なんでもやっていいぞ?」

「ピィ!!」


 大賢者のテキパキとした指示に、子供たちはそれぞれ元気に返事をした。





 スーパスタークラス専用のエリアは部屋から反対側のデッキにあった。受付でのチェックを済ませると、長い廊下の先でアンティークデザインの重厚な両開きの扉が待ち構えている通路へと通された。共有エリアとは明らかに踏み心地の違うカーペットの敷かれた道を歩く大賢者の後ろ姿はいつもと変わらないものだった。


「なんで変装しなかったんですか?」


 私はいつもよりも足取りに元気のない大賢者に話しかけた。


「このエリアが変装魔法禁止だから」


 大賢者は私の質問に素っ気なく答えた。


「どうして?」

「防犯上の理由、とだけ書いてあったね」

「えぇ? 共有エリアでは禁止されていないのにですか?」

「思想にまで突っ込むのは良くないぞ? この船を運営してる会社だって商売なんだから」

「どういう意味ですか?」

「だから、一番金になるやつらがそれだけうるせぇってことだよ。優越思想ってやつ。運営会社はそれに負けちゃったの。わかった?」

「はぁ……」


 扉の前にたどり着くと彼は足を止め、私たちがいる方に振り向いて口を開いた。


「キラ、お前は好きにしてていい。誰かに何かムカつくことを言われても、ポーチから杖は出すな。何かあったら俺が守ってやる。タル、キラが何かしでかしたとしても人前でガミガミ叱るなよ? 反論は許さん」


 大賢者は真剣な顔で私たちに忠告した。私はキラと顔を見合わせて、彼の方にもう一度顔を向けてから首を縦に振った。


「色々うるさく言ったが、せっかく来たんだ。目一杯楽しもう」


 大賢者は左右のドアのノブに手をかけて両方の扉を力強く開いた。同時に軽く10は超える色とりどりの呪いの閃光が大賢者に向かって飛び込んできた。彼は全ての呪いを正確に発信源へと反射させ、扉の先に広がっていたであろう安らぎの空間を阿鼻叫喚の地獄絵図へと変えた。彼はそっと扉を閉めると、すぐに私たちに作戦の変更を伝えた。


「話が変わった。キラ、今すぐポーチから杖を取り出して絶対に手放すな。自分の身は自分で守りなさい。ただし、殺しはダメだぞ? 俺に使ったあの魔法も禁止。タル、キラを見ていてくれ。防御魔法とサポート魔法を怠るなよ? 二人とも俺から離れて、万が一誰かに話しかけられても、俺のことは知らぬ存ぜぬで他人のふりを貫き通せ。ここから先、俺たちゃ他人だ。せいぜい楽しめよ?」


 それだけ言い終えると、先ほどよりもさらに勢いよく両開きの扉を開け放ち、大賢者は単独行動をとり始めた。


 豪華絢爛な装飾の施されたラウンジの一番近い所にいた、美人で胸の大きい白人の魔女に大賢者の方から近づいて話しかけに行った。


「よお、アデル!! 久しぶりだなぁ!! どうした、 おっかない顔して? 月の女神様よりも美しく生まれた顔が台無しだ!!」


 話しかけられた魔女は思い切り大賢者の横面を引っ叩くと、無言で私たちのいる方へと歩いてきた。


「……どいてくださらない?」

「す……すいません」


 私はキラの身体を抱き寄せて彼女に扉のある通路へ出る道を譲った。


「……アリエスだったかな? 乳輪のデカさが俺好みだったことは覚えていたんだが」


 顎に手を当てながら大賢者はぽつりと呟いた。


「お~い、どこ行くんだよぉ? メディカルルームかなぁ!? このくそざこ君は放っておいていいのかぁ~!?」


 床にはうずくまって震える黒人男性の姿があった。先ほど大賢者に放った呪いを返された人物の一人だった。


「はいよ、これで大丈夫だろ? 当船は物騒な魔法の使用を禁止しております。ご乗船ありがとうございました」


 大賢者は男にかけられた呪いを解くと、彼に向かって強制退去を告げるアナウンスの真似事をした。解呪されてもなお、男は大賢者の存在に怯えているようだった。


「冗談だよ。ドンマイ、そのうち良いことあるって」


 大賢者は震える男性の肩に手を乗せ、慰めの言葉をかけた。


「追いかけろ。きっと喜ぶぞ?」


 男は大賢者の言葉に頷き、足をもたつかせながらラウンジを出て行った。


「さて……」


 ラウンジには男女合わせて20名ほどが居合わせていた。男のほとんどは床に這いつくばりながら悶え苦しみ、ほとんどの女は殺気のこもった視線を大賢者に向けていた。


「皆様、地獄のパーティーへようこそ!! 主催のレオナルド・セプティム・アレキサンダーです!! この度はお集まりいただき、誠にありがとうございます!! 私に恨み辛みを抱えている方々に朗報です!! どこの馬の骨かもわからない下僕なんぞに任せず、ご自身の手で私を始末するチャンスを与えましょう!! それでは今から15秒数えてからパーティーの開始となりますので、退室を希望される方は速やかに出口の方へお進みください!! 1!! 2!!」


 カウントしながら大賢者は倒れている男たちを全員引き寄せて解呪し、強制的に彼らを扉の外へ放り投げた。痴情のもつれとは関係していないと思われる数人は退室していき、その場には7、8人の魔女だけが残った。


「13!! 14!! 15!!」


 カウントが終わると間髪入れずに床から出てきた無数の手が大賢者の足を掴んだ。動きを止められている隙に鋭利な刃物を手にした一人の魔女がゆっくりと歩いて距離を詰めると、躊躇なく彼の腹部を一突きした。


「……お前はよく刺す子だったな? これで俺はもう死んだ。俺の事は忘れて、もっと刺し心地の良い男を見つけて幸せになれ。こんな俺に、身に余る大きな愛をくれて、ありがとう」


 大賢者は自分を刺した魔女のことを両手で抱きしめ、相手の背中をポンと軽く叩いた。魔女はそのまま大賢者の腕の中で意識を失い、彼の足を掴んでいた無数の手は消え去った。


 ラウンジにあるすべてのソファが宙を舞った。ソファは全て窓際に寄せられ、簡易ベッドのようなものがいくつか出来上がった。大賢者は腕に抱く魔女を優しくそこへ寝かせ涙を拭いてやったあと、注意事項を一つ付け加えた。


「やる気のないやつはこっちへ!! これより、窓際への攻撃は禁止とする!!」

 指示に従ったのは私たちと数人の魔女だった。


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