4 奇妙な三者面談
「よお、若者。もう告った?」
レオナルド・セプティム・アレキサンダーは一番奥の席にどっかりと座り込こむと、気さくにアランに話しかけた。
「だ……大賢者様!? ど、ど、どうして、あなたがここに!?」
「俺がここにいちゃおかしいか?」
まるで付き合いの長い友人のようにアランと言葉を交わす大賢者だが、そのような事実関係は一切ない。この人は誰に対しても大体こういう態度をとるのだ。大賢者は人に興味がない。そのため、アランと前に一度会っているということすら覚えていない。賭けてもいい。この先アランは彼に絶対に名前で呼ばれることはないだろう。
「だ、だって、今、ニュースで中国にいるって」
アランはスピーカーと大賢者を交互に見ながら困惑していた。
「ふはははは。そのニュース、大体当たってやがる。そんなことはどうでもいいんだよ。俺は俺がいたい場所にいる。いつでもな。それで、もうコイツには告ったのか?」
大賢者は遅れて席についた私を親指で差した。
「こ、ここここ……な、どう、なんなんですか?」
質問にはっきりと答えないアランに対し、大賢者は露骨に顔をしかめて口を開いた。
「察しの悪い坊やだ。さっき、お前にこの場所を教えた星詠みのねーちゃんがいただろ? あれは変装した俺だ。お前のようなピュアな人間は嫌いではないが特防課の人間なら、もっと人を疑う事を覚えた方がいい。朝っぱらから、そんな希少種がピザ屋なんかにいるわけねぇだろ?」
相変わらず無茶苦茶な理論を振りかざす男だ。朝のピザ屋に星詠みの一族はいなくとも、大賢者はいたじゃないか。世界に2人しかいない大賢者が。星詠みの一族がいかに希少な種族といえど、あんたに遭遇する方が余程確率が低いというものだ。
「そんな……」
悪ずれした私とは違って純真で少し足りないところのあるアランは大賢者の説明を素直に受け入れて絶句してしまった。
「この調子じゃあ、まだみたいだな? そんな事だろうと思ったよ。どれ、俺が助けてやろう。その前にタル、俺にもコーヒーをくれ。この坊やと同じ淹れ方で」
全身の筋肉が固まった。突然にして彼は私の良心を突き刺してきた。
「……どうして、わかったんですか?」
私は虚勢を張って声を振り絞った。
「いいか? 悪いことするんだったら、せめて魔法の痕跡を消せ。特にお前らみたいないい子ちゃんが使う魔法っていうのはわかりやすすぎる」
今度は私が黙らされる番だった。彼はテーブルに置かれた箱を開け、湯気の立つピザを食べながらまた話し始めた。
「まぁ、そこがいいところでもあるんだがな。さぁ、この世の酸いも甘いも味わい尽くした魔女の口噛みコーヒーをふるまってくれ。きっとうまいんだろうなぁ?」
大賢者は皮肉な笑顔を浮かべながら改めて特別製のコーヒーを注文してきた。
「うーん……思ったより普通だな。当たり前か。やっぱりカップに直接吐き戻してもらわないとダメみたい」
何がダメなんだろうか。おぞましいことを平気で口にしながら大賢者レオナルド・セプティム・アレキサンダーはコーヒーを私の想像以上に豪快に、ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干した。気が付けばピザの箱はすでに3つほど空になっていた。
「苦い……やっぱコーヒーの気分じゃなかったわぁ」
そんなことは知らない。それにあんたが頼んだんじゃないか。私は喉から出そうになった正論をグッとこらえ、相手の出方を待った。何が目的かはわからないが、彼が来たからにはもうおしまいだ。嫌なことはすぐに終わらせたい。私は抵抗をあきらめる決心をつけていた。
「さてさてさて、若者よ」
一呼吸おいてから彼は自分の左斜め前に座るアランにうやうやしく話しかけ始めた。
「貴殿は淡い恋心を抱いている。物質的に手が届く位置にいるのに、心の距離ははるか遠く、それは憧れに近い感情だ。そのお相手がこちら」
そういって彼は右斜め前に座る私を掌で差し示した。
「ところが、その思い人は退職してしまい、物質的にも遠く離れてしまうことを、今朝一番に知った君は焦った。紆余曲折はあったみたいだが、とにかく君は自らの思いを告げるためにここまでやってきたわけだ。間違いないね?」
「は……あい」
アランは苦しそうに息を詰まらせながら大賢者の問いかけに答えた。大賢者はうんうんと頷き、ゆっくりと私の方に顔を向けて口を開いた。
「どうだろう、イシュタル君。キミにその気持ちがないのは重々承知ではあるが、魔法界の治安を維持するという非常に重い職務を放棄してまでここまでやって来てくれた、そんなひたむきな愛を持つ者への手向けとして、せめてこの若者のペニスをキミのカントにわずかにでも挿入させてやるというのは?」
油断するとすぐこれだ。いい話をしておいて下劣な内容を差し込んでくる。彼の質の悪さを知っていた私は迷うことなく即答した。
「断ります」
「あちゃー……ダメだったわ。ゴメン」
「そ、そんな……」
「まだ諦めるな。もう少し粘ってみるって。任せろ。俺は大賢者だぞ?」
そこから奇妙な三者面談は始まった。




