33 魔法史:補講 『最後の領地と第7魔王』
アレキサンダー領への部外者の立ち入りは現在でも固く禁じられているため不明点が多い。魔法史上でも現存するものとしても『最後の領地』であるその場所は、今から217年前に星墜としの魔女レオナ・グローブ・アレキサンダーが第7魔王ゼノを討伐した地でもある。
「……とまあ、『最後の領地』に関してはこんなものです。テスト対策として押さえておく部分は、第7魔王が討伐された年代とレオナ・グローブ・アレキサンダーという名前ぐらいかな」
ユリエルはその日も2人の女生徒を相手に補習授業を行っていた。大学受験を希望しない、卒業することだけが目標のその2人はいつも通り、頭上にクエスチョンマークを浮かび上がらせて彼の話を聞いていた。
「それって、ユリちゃんの実家の話でしょ?」
「……まあ、そうですね。はい」
複雑そうな表情を浮かべ、ユリエルはアルファの質問に答えた。
「自分の実家が教科書載るって、どんな気持ちなん? 『俺、もっと知ってるぜ』みたいな気持ちになるん?」
今度は終始タメ口のイオナが彼に質問した。
「いやぁ……本音を言えば、そっとしておいてほしいとは思っています」
「だよなあ!? 私だったら絶対嫌やもん!! よくそんな平然とした顔で教えられるなあ!?」
「仕事だからと言ってしまえばそれまでだけど、魔王討伐の歴史が入ってしまうと、もうどうしようもないからね」
ユリエルは苦笑しながら心情を吐露した。
「でもさぁ、この『星墜としの魔女』って通り名、カッコよくね? そういうの、私も欲しいんだけど」
今度はアルファが本音を打ち明けた。
「わかるわぁ~。私も欲しい。ユリエル、なんか頂戴。うちらにそういうの」
「うーん、本当に欲しいのかい? 二つ名なんか持ってても、良い事は無いよ? 裏社会に生きる良くない魔法使いたちに、命を狙われたりとかもするし」
「え? 怖っ。大魔導士のユリちゃんも、そういうのあったの?」
「大魔導士になりたての頃は本当によく狙われた。若かったし、そういう世界で名を揚げようとする人たちにとっては与し易しと思われたんだろうね。ここだけの話、詐欺にも遭ったことがある」
「詐欺ぃ!? あはははは!! 大魔導士、しっかりしろよぉ~」
「それってどんな詐欺?」
「普通にお金をだまし取られた。本の出版をしたいからって話を持ちかけられて、振り込む必要がないお金を詐欺師に振り込んでしまったんだ。何も知らない10代だったから、いとも簡単に騙されてしまって」
二人の女生徒はユリエルの話を聞いて笑い転げた。
「でも本は書けてたから、仕方ないからそのまま自費出版して」
「あはははは!! さらに金かけてるの!? おもろ!!」
「ユリエルって頭おかしいわ、やっぱ」
完全無欠のように見えてどこか抜けている、少し変わった経歴まで持ったこの教師に対して、二人は今までにない興味を抱くようになっていた。
「……ていうか、関係ない話してもいい?」
「はい、いいですよ?」
ユリエルはいつものようにアルファの話を丁寧に聞こうとした。
「大魔導士って、協会から毎月お金もらえるってマジなの?」
「そ……そうなの?」
いかにも初耳といった様子で、ユリエルはどこか不安そうにアルファに聞き返した。
「うん、友達からそういう風に聞いたよ? 大賢者と大魔導士は、協会から特別助成金がもらえるから、働かなくても食っていけるって」
「えーっと、ねぇ……それは、あの……宿題にさせてください」
ユリエルはしどろもどろに答えた。
「あはははは!! おいおいおい!! 知らなかったんか!? 大魔導士の弱点は金かあ!?」
「でもそれ結構ヤバくない? お嫁ちゃんにめっちゃ怒られるんじゃね? もしかして離婚?」
嬉々とするイオナとは対称的にアルファは親身になって心配した。ユリエルは一人、ローブの下に冷たい汗をかいていた。




