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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
1章 海の章
30/160

30 風神vs雷神

 

 次の攻防は召喚獣戦となった。刹那選手が自身の背丈ほどの大きな灰色のイタチを3匹召喚すると、紫電選手はそのイタチの倍以上に大きい紫色の虎を召喚した。3匹のイタチが一斉に虎に襲い掛かったあと、そのうちの2匹が刹那選手の近くに戻った。戻らなかった1匹は、虎の爪に切り裂かれ消滅していた。劣勢になった刹那選手は2匹のイタチを双頭の蛇に変化させた。



「へびぃ……」


 キラは身震いをして双頭の蛇を気味悪がった。



 召喚獣が激しい戦いを続ける中、両選手はそれぞれ別の魔法攻撃の準備を進めていた。紫電選手は背中に何本もの紫色の光の槍を、刹那選手は自らの腕に旋風の輪を何重にも重ねていた。


『ここで双頭の蛇が消滅!! 召喚獣対決は紫電の虎に軍配が上がりました!! ああっと!!??』


 紫電選手が高々と跳躍し、海老反りになっている。その手には光の槍が握られていた。


「オラアァァァァ!!!!!」


 咆哮とともに3本の槍が立て続けに投擲された。刹那選手は構えを取り、1本ずつ確実に受け流して3本の槍の攻撃を見事に防ぎ切った。その間に紫電選手はさらに3本の槍を投げ込んでいた。1本は外れ、残った2本は刹那選手に向かっていったが、2本ともに簡単にいなされてしまった。次の瞬間、刹那選手が何かに吹き飛ばされて地面に倒れこんだ。紫色の巨大な虎が彼女を見下ろしていた。魔法で拡大された文字が宙に浮かび上がり、10カウントが始まった。


 1……2……


『なんという事でしょう!! 雷神の槍を見事にいなした刹那選手のボディに、強烈な虎の一撃が決まりました!! これは立てないか!?』


「3!! 4!!」


 進むカウントをキラが観客とともに読み上げた。


「5!! あぁ~……」


 残念そうな声をあげて彼女はカウントを止めた。魔法円の中では刹那選手が何事もなかったかのように立ち上がっていた。



『立ち上がりました!! しかし、ああっ!!???』



 起き上がったばかりの刹那選手の頭上に虎の鋭い爪が迫っていた。


『危なぁぁい!!!』


 刹那選手が両手を虎に突き出すと強烈な竜巻が放出された。竜巻に飲み込まれた虎はその身を切り刻まれ、影も形も無くなってしまった。


『危機一髪のところで風神の刃が炸裂!! これで状況は再び1対1となり……え?』


 この間にも紫電選手は次の動きを行い、それを完了させていた。彼女は実況も仕事を忘れるほどに怖ろしいまでの量の魔力を自らの右腕にため込んでいた。紫電選手の右肩から拳の先までが紫色の光に包まれ金色の稲妻が(ほとばし)っていた。


「ふはははは!! あいつ、俺の好きなタイプの馬鹿だ!! あの距離からそれをどうやってぶち当てるつもりだ!?」


 大賢者は大喜びしていた。確かに彼の言う通り、紫電選手と刹那選手との距離は10メートル以上離れている。ここまでの戦闘を見るに、いわゆる中距離の魔法攻撃を両者ともにまともに当てられていない状況が続いている。彼女はいかにして必殺の一撃を当てるつもりなのだろうか。


「当たっても当たらなくてもアレで終わるな。さあ、キラ。山場だぞ? ありったけの声を出して、応援してやれ」


 キラが大賢者のアドバイスに頷いた。


「シデーーーン!!! ガンバレーーーーー!!!!!」



「ウオォォォ!!!」


 紫電選手が自らを鼓舞するかのように(いなな)いた。前方からは8つの竜巻が近づいてきている。刹那選手もぬかりなく攻撃を仕掛けていた。



『た、戦いは最終局面に入ったようです!! しかし!! 紫電選手に8頭の竜が迫ります!! 彼女はこの攻撃をどのようにして防ぐのでしょうか!!?』



 紫電選手は一歩前に進み出し、そのまま歩いて刹那選手との距離を縮め始めた。その間にも、彼女の右腕に込められた魔力はさらに大きくなっていった。


『なんと!? 紫電選手、丸腰です!! このまま突っ込めば、彼女の身は無事ではすみません!! 一体どうなってしまうのでしょうか!!??』



「ふはははは!!! お構いなしか!! この不器用者め!! でも最高!! そうこなくっちゃなぁ!?」


 大賢者はさらに高揚していた。彼女のしていることは危険なんてものではなく自殺行為だ。このままでは彼女自身が召喚した虎のようになってしまう。私は呆気にとられながらも、彼女の豪胆ぶりに心を震わされていた。


「はあぁぁぁっ!!!」


 紫電選手が大声を張り上げ1つ目の竜巻に左手を突っ込んだ。竜巻は消え去ったが、彼女の左手はいつか見た大賢者の手のようになっていた。


「へったくそぉ!! でもそこが可愛い!! ほらほらほらほら!! あと7回耐えれば勝てるから!! 頑張れ!!」


 大賢者が檄を飛ばした。観客は彼の様に興奮する勢力とあまりの惨状に目を覆う勢力の二極化をしていた。


「あ゛あ゛あぁぁぁ!!!!!」


 2つ目の竜巻。彼女はまたしても左手を突っ込んでそれを消し去った。曲がってはいけない方向に腕が曲がっている。しかし、苦しそうな表情を浮かべていたのは紫電選手ではなく、刹那選手の方だった。


「このまま、マジでいきそうだな……さてどうする、刹那ちゃん。相手は腕がちぎれようが、首だけになろうが、お前を殺しに来る魔女だぞ?」


 大賢者が小声で呟いていたのを、私は聞き逃さなかった。苦しいのは刹那選手も同じという事らしい。


 顔を歪めた刹那選手が忙しく腕を動かし、竜巻の軌道を変え始めた。軌道の変わった6つの竜巻がお互いにぶつかり合い、巨大な一本の竜巻となって再び紫電選手へと襲い掛かった。



『6頭の竜が巨大な竜へと姿を変えた!!! どうする、紫電!!? あぁっ!!!??』



 成す術もなく紫電選手は竜巻に飲み込まれてしまった。



『なんと、なんと、雷神が巨大な竜に飲み込まれてしまった!!! もはやここまででしょうか!!!』



 会場全体が静まり返り、全員が魔法円の領域を凝視していた。竜巻はゆっくりと勢力を弱め、やがて完全に消え去った。残された場所には何も存在していなかった。紫電選手の姿もまた、完全になくなっていた。


「……シデン?」


 キラが魔法円の上方を見て呟いた。


 天井から小さな光が降って来た。


「でえぇぇぇぇっっ!!!!」


 その光は叫び声をあげていた。この試合で何度となく聞いた甲高い声。間違いない。その光は紫電選手だった。彼女は溜めに溜めた魔力を、雷神の大槌を刹那選手の頭部目がけて思い切り叩きつけた。



『――――――なんということでしょうか!! 天より振り下ろされる雷神の攻撃を予期していた風神のカウンターが一閃!!!! 紫電選手!! 痛恨のダウンです!!!!!!』



 無情にも紫電選手の攻撃は対戦相手に届かなかった。恐ろしいのは刹那選手だった。彼女はそのことを予期していたように、その場を一歩も動かなかった。刹那選手もまた、ひたすら紫電選手のように魔力を溜めて彼女の事を待ち構えていたのだ。放たれた旋風は紫電選手を飲みこみ、彼女から完全に闘志を奪いとった。意識を失った紫電選手はカウントが10に達してもピクリとも動かず、救護班に連れられて退場していった。








「……シデン……負けちゃった」


 キラは目に涙を浮かべ、耳まで垂らして傷心していた。私は大賢者と顔を見合わせた。


「……医務室に行こう」

「だ、大丈夫なんですか、それ?」

「当たり前だ。俺は大賢者だぞ?」


 そうじゃなくて、負けたばかりの選手の所に行くのは、常識的に考えて良くないんじゃないだろうか。


「ちょっと……責任取らせないといけないから、行くぞ?」


 こういう時は、どうしたらいいのだろう。突如として未知の領域に足を踏み入れることになってしまった。私たちは否応なく医務室へと連れて行かれることになった。

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