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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
1章 海の章
3/160

3 だいけんじゃ が あらわれた

 

「よお、タルぅ!! 久しぶり!! ピザでも食おうぜ!!」


 ドアを開けるとハイテンションの美形の男が大量のピザの箱を抱えて立っていた。


「オラ、どけ。さっさと入れろ!! 何ボケっとしてんだ、まったく……うんこしたい。トイレどこ?」


 絶句し、その場で立ち尽くすことしかできない私を無視して男はズカズカと部屋に上がりこんだ。


「なぁ~に、黙ってんだよ? 呪いはもうとっくに解いてやったろう? このままだと『大賢者おもらし(大)』って魔スポあたりにデカデカと書かれちゃうかもしれな、あ、やば……もういいや、自分で勝手に探す。これ頼んだ」


 抱えていた大量のピザ箱を乱暴に私に渡すと、レオナルド・セプティム・アレキサンダーは迷うことなくトイレに入っていきみ始めた。


「はぁぁぁぁ!! 大賢者スプラァァッシュ!!!!」


 意味の分からない叫びと恥も外聞もない排便音がドアを貫通してこちら側にまでよく聞こえた。





 ほどなくして、大賢者はトイレから出てきた。


「はぁ、すっきり。ちょうど紙が切れたから、替えておいた方がいいぞ?」


 この男と接するにあたって一番大事なこと、それは簡単に騙されてはならないことだ。


「……騙されませんよ。紙は今朝替えたばかりですから。私が悪臭で悶絶する姿がただ見たいだけでしょう?」

「バレた? 可愛くねぇなぁ。すっかり擦れちゃって。この子ったら、どうしてこうなっちゃったのかしら?」

「全部、あなたのせいです」


 正確に言えばそうではない。しかし彼との約6か月に及んだ旅の日々が、私の人間性にとどめを刺したことに違いはなかった。


「ははは、変わってないな。元気だったか?」


 爽やかに笑いかけながら突然優しい言葉をかけてくる。この人の得意技だ。


「どうして……」


 できることならば、今すぐにでも首を絞めてこの男の息の根を止めてやりたい。それなのに、私はなぜか溜めこんでいた恨み節をすぐに言語化することができなかった。


「うん?」


 彼は余裕綽々の表情と態度で私の出方を穏やかに待った。本当にずるい人だ。


「……どうして、式典に姿を見せなかったのですか?」


 この男は、大賢者の称号授与式に姿を見せなかった。本人不在の式典なんて前代未聞の事で、実際に調べてみると本当に魔法史上初めての事だった。あれほど珍妙な光景もなかった。同時に心のどこかで、この男との再会を楽しみにしていた自分に気がついて腹も立った。


「おー、それはねぇ……いや、俺もお前には会いたかったんだよ?」

「別に私はあなたとまた会いたいなんて思ってませんけど?」


 嘘だった。あの時の自分への苛立ちを思い出し、どうしても我慢ならなかった。


「タルぅ……」


 すると彼は悲しそうな顔をして、しおらしい態度をとりはじめた。


「ピザが冷めちゃう。座って食べながら話そう?」


 本当にどこまでも人の感情を弄ぶ男だ。冷めるピザがそんなに心配か。というか、朝からピザって。異常者らしい食生活だ。


「……あ、でも今は来客中でして」

「知ってるよ、俺が教えたんだもん。あの童貞臭い坊やだろ?」

「え?」


 わからない。何もわからない。全然、状況が、何一つとして。


 大賢者レオナルド・セプティム・アレキサンダーは私に手渡した大量のピザの箱を一つも持つことなく、まるで家主のように歩いてダイニングルームへと向かった。

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