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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
1章 海の章
26/160

26 順位付け

 

 朝起きると一緒に寝ていたはずのピィちゃんがいなかった。


「あでぇ?」


 ケアもせずに眠りに落ちた罰は、恐ろしく低いガラガラ声だった。まず、この喉をどうにかしたかった私は洗面所へ行くために、ベッドから抜け出した。


「あでぇ?」


 視界に入ったキラのベッドがもぬけの殻だった。不審に思ったが、先に喉のケアと身だしなみを整えてから二人の事を探すことにした。


 それからトイレ、バスルーム、キッチン、リビング、念の為に書斎も探したが二人の姿はどこにもなかった。他に打つ手もないので、仕方なく大賢者の部屋へ行くとそこにも誰もいなかった。


「あれぇ?」

「ピィッ、ピピッ!!」


 振り返るとそこにいたのはピィちゃんだった。


「みんな、どこに行ったの?」


 私はピィちゃんに失踪者たちの所在を聞いた。彼は私のローブの裾を掴んで玄関の方を指差して鳴いた。





 外に出ると、少し離れた場所にキラがいた。彼女は地面に片膝をついて息を切らしていた。そのすぐそばで、大賢者が腕を組んで彼女の事を見下ろしていた。


「わかったか? お前は暫定3位だ」

「くっ……」


 朝から決闘でもしていたのだろうか。勝負はすでに決した後のようだった。森の木々は煤け、地面はあちこちが抉られていた。現場の荒れ方から察するに、テントにかけられた防音魔法がいかに優れているかがよくわかった。私はどうするか少し悩んだ後、二人のところに駆け寄ることにした。


「おはようございます」

「おはよう、タル」

「あ゛!! タルになら勝てる……けど、今は魔力が」


 嫌な予感が的中したが、どうにか避けられそうだった。


「それなら心配するなって。ほれ」


 大賢者が余計なことをした。自身の魔力を分け与えて、彼女の魔力を完全に回復させてしまったのだ。ついでと言わんばかりに彼は煤けた木々と抉れた地面も立ちどころに修復させていた。


「だが、タルの戦闘能力はそんなに高くないぞ? な?」

「ええ、そうですよ」


 特防課に所属していた時は戦闘の訓練もしていたが、職務内容は基本的には捜査がメインだった。よって私の戦闘能力なんていうのは、この二人の前では赤子に等しい。


「でも、タルはお前には絶対に負けないよ? な?」


 私は沈黙を返した。


「あれ? 一応聞くけど、お前みたいなもんがこいつを相手に何をしたらいいかは、もうわかってるよな?」

「根っこを押さえることが出来れば、まぁ……」


 自信はなかったが、私は過去から学びを得ているつもりではあった。


「大丈夫じゃん。よし。じゃあお互いに位置についてから、向かい合って」

「ピィッ!!」


 いつの間にか大賢者の足元にいたピィちゃんがひと鳴きした。


 抵抗を諦めて位置につくと、約6メートル先に自信満々の笑みを浮かべた小さな巨人がいた。


「し、失敗したら、骨は拾ってくださいよ?」


 間に立った大賢者に、みっともなく最後の抵抗をした。


「いいからいいから。お互いに構えて」


 キラは杖の柄の部分を持ってグリップをこちらに突き出すようにして構えを取った。私は肘を軽く曲げ手首を下にした状態で、できる限りリラックスさせた利き手を前方に伸ばした。


「俺が号令とともに手を挙げたら、始めるように」


 緊張感が高まった。これほどまでに魔力の高い相手と対峙した経験は記憶になかった。


「よーい」


 大賢者の右腕が私とキラの間に水平に入った。やることは一つだけだ。私は集中し号令を待った。


「始めぇ!!!」


 大賢者の腕が挙がった瞬間、キラがとんでもない魔力量を高速で杖に伝える前に私は彼女の杖を魔法で引き寄せた。


「うおぉい!! そんなのズルだ!! ズル!!」


 杖を失ったキラが地団駄を踏みながら喚き立てた。ほとんどだまし討ちのようなものだったし、それも無理はないと思う。だけど、これが凡人として生まれた者の戦い方なのだ。エルフは杖なしで魔法が使えない。だから私は彼女の強力な魔法の根幹に当たる部分を物理的に奪い取った。


「やるじゃん。なかなかいい緊張感と速度だったぞ、タル」


 利き手には木製の杖が収まり、額からは汗が噴き出していた。失敗してたら、どうなっていたのだろうか。


「はい、最下位決定。弱き者は強き者の言うことを聞くんだろう? 少しずつでいい。これからは、タルにあまり舐めた口を利くなよ?」

「うわぁぁぁん!! やだぁぁぁぁぁ!!」


 キラは泣いた。声をあげて、わんわんと。この子、実年齢は何歳なんだろう。私の疑問は一つも晴れることはなかったが、森の朝の空は青く澄み渡っていた。

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