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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
1章 海の章
23/160

23 会談

 

 エルフの少女キラは怒りを露わにした。


「どうして私がこんな奴の世話にならなければならないのですか!?」


 まったくその通りだと思った。もし私が彼女と同じ立場だったら、きっと同じことを言うだろう。


「なんだ、まだ怒ってんの? ちょっと木の枝を突っ込んでほぐれたところで、カエルさんとヤらせようとしただけじゃないか。カエルさんにペニスがついてなかったから、諦めたけど」


 大賢者はエルフの長の前で邪悪極まりない過去の所業を悪びれもせずに白状した。


「ほら!! こいつはこういう事をする奴なんです!!」


 白い肌をこれ以上にないくらいに赤く染め、キラはさらに激昂した。


「……それで、お前はその時どうしたんだ?」


 エルフの長は姿勢を正し、一貫した態度を崩さなかった。


「……何も……できませんでした。そこの魔女に……助けられて」


 キラは言葉を尻すぼみにさせた。少しだけ沈黙があった後、長が息を深くついてから口を開いた。


「今の今まで、どうして助けられた事実を口にしなかった? 答えずともよい。私にはどうしてお前がそういう事をされたのか、簡単にわかるからな?」


 言い方は穏やかだったが、その言葉にはドスの効いた魔力が含まれていた。


「お前は助けてもらった方の名前すら言えぬだな? 大方、最初に礼を欠いたのはお前の方なのだろう? 自分で喧嘩を売っておいて、負けたら大騒ぎする。それでなぜ、お前は被害者面ができる?」


 キラはうつむいて黙っているだけだった。


「大賢者様の堂々たる振る舞いを見ろ。わからないか? この御方には能力があるのだ。自分のされたことを騒ぎ立てるばかりのお前と違って、自分の起こしたことへの責任を果たす能力が」


 それはちょっと褒めすぎだと思った。さすがに。いくらなんでも。


「私がこの方たちに秘宝の話をしている間、外で頭を冷やしてきなさい」


 キラはお盆をテーブルの上に投げ出すように置いて走り出した。すぐに大賢者が彼女の手首をつかんでその動きを止めさせた。


「待て待て。ついでにこれ、下げといてくれ。虫はさすがに好き好んで食わんから」


 お盆に並んだティーカップのひとつに、どデカいムカデが2匹沈みこんでいた。どうやら彼女の将来には大きな希望が持てるようだった。





「お見苦しい所をお見せして申し訳ございませんでした」

「いや、なぁに。気にすることないさ。今度うちに遊びに来るといい。1分とまともに喋れなくてもいいのなら」


 重々しい雰囲気を、大賢者は得意のジョークで吹き飛ばした。


「あの子には特別……気を付けていたのに、嫌な所ばかり真似されてしまった……」


 余程思い入れがあるのか、エルフの長はキラの事をまだ気にしている様子だった。


「気にすんな。ガキっていうのはそんなもんさ。あとは俺が責任をもって甘やかしてやる」


 子なしの独身男が上から物を言って慰めた。確信を持ってこの男が異常者であると思えた。


「大賢者様、どうかあの子の事をよろしくお願いします」


 そう言ってエルフの長はその場で頭を下げた。


「重く受け止めよう。タル、身の回りの世話は頼んだ」

「え゛……」


 ですよね? 何なんだ、この人。全部自分がやるみたいな雰囲気出しておいて。


「ほら、女の子だし……な?」

「……わかりました」


 取ってつけたような理由で私を納得させようとしたのには腹が立った。大体性別の事なんて、こっちが気にしたって、そっちが気にしないじゃないか。しかしここで『嫌ですよ』なんていう事が言えたのならば、最初からこの人の旅に付き合っていない。今更爆弾が一つ増えたところでなんら支障はない。どっちかが爆発したら終わりなのだから、それにさえ気を付ければいい。


「どうした?」


 エルフの長がクスリと笑ったのを、大賢者が見逃さなかった。


「いえ……あなたたちの関係が羨ましくて、つい」

「そうだろう? こんなに我慢強くて根性のある魔女は、世界に二人といない。羨ましいだろう? 欲しい? あげないよ?」


 これはきっと、私の事を褒めてくれているのだと思う。だとすれば、素直に嬉しい。世界一の男が他種族のトップの前で自分の事を褒めてくれたのだから。


「あなたたちといれば、あの子もきっと……」


 長は感慨深そうに窓の外を眺めた。





「そろそろ秘宝について教えてくれ」


 大賢者が本題を切り出した。


「記録しても、よろしいでしょうか?」


 私は自分の役割を全うするため、エルフの長に確認を取った。


「ええ、構いませんよ」


 長は快く了承してくれた。私は手早くテーブルの上に使い魔を出して記録を始めた。


『その秘宝ならば、きっとあなたたちにピッタリだと思うの』


 はじまりの木の女神エリシェバの言葉を思い出しながら、私は胸を高鳴らせて長の話に耳を傾けた。きっと種族の壁を越えた、素敵な愛の逸話が聞けるに違いない。


「これは私たちエルフに伝わる古いおとぎ話のようなものです……」


 長はゆっくりと、話を始めた。

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