21 魔法史:補講『エルフについて』
「エルフって何なの?」
星詠みの女生徒は、その日もスケールの大きい質問をした。
「エルフは……分類的には妖精だね」
慣れた様子で恰幅の良い男性教師が、おそらくは女生徒が求めた意味ではない回答を繰り出した。
「妖精!?」
回答に食いついたのは、それまで教師に暴言を吐いていた猫背の女生徒だった。
「うん。だけど、実際の所よくわかっていない部分は多いです。なにしろ、世界からエルフがいなくなったのが、今から約500年前だからね」
「へぇ~……どうしてエルフって、いなくなっちゃったの?」
教師の奮闘もあってか、星詠みの女生徒は以前より幾分かは魔法史に興味を持つようになっていた。
「ええと……だからそれが、今説明した『エルフ戦争』っていうことなんだけど」
「あはははは、そうだったね」
問題は若き教師の熱意溢れる補習授業を受けても、すぐにその内容を忘れてしまう事だった。
「追い出されたんか。私ら人間に……」
きちんと内容を理解していた猫背の女生徒は、ショックを受けたように呟いた。
「……そう。先人たちはエルフとの生存競争に勝った。だから我々は今、こうして呑気にお話ができている」
「勝ったんだ。うちらの勝ち。魔法族最強ってことでしょ?」
星詠みの女生徒が調子づいた。
「うーん……大事な事は、勝った負けたっていう所じゃなくて、もっと別の部分にある」
「どゆこと?」
「例えば、エルフ戦争と同じようなことが今起きたら、アルファ君もイオナ君もどうする?」
教師は一人ずつ目を見て質問した。一人はポカンとするばかりで、もう一人は教師の過去の姿を思い出して人知れず胸を高鳴らせた。
「……そんなん、ユリエルだったらどうすんねん?」
イオナと呼ばれた生徒が少し考えてから、教師に聞いた。
「私だったら、なんとかして共生できる道を探す」
それはあまりにも都合のいい、理想的な回答だった。アルファはその回答にすっかり納得がいってしまっていた。
「自分の親兄弟が殺されても? 私には考えられへん」
少しだけ頭の回るイオナは易々と騙されなかった。
「では、イオナ君がもしそういう状況になって、家族に手をかけられて復讐を果たしたとする。そしたら、その復讐した相手の家族はどう考えると思う?」
「あ……」
彼女は沈黙した。
「憎しみに囚われすぎると、停滞を生む」
「てーたい?」
口を開けて聞いていただけのアルファが、言葉の意味を知りたがった。
「ああ、その……もっと良いことに時間を使った方が、人生というものがより楽しめるんじゃないか、ということかな」
「そういうことなら大賛成」
「エルフたちは結局……どこに行ったん?」
「いくつかのグループに分かれて、それぞれが別の世界へ行ったのではないか、という説が現在は主流です。ただ……」
そこまで言って教師は不自然に言葉を切った。
「ただ?」
当然、二人の女生徒たちは彼を追求した。
「……いや、もしかしたら意外と近くにいるかもしれない。例えばその……親戚の家とかに」
「ははははは、ホームステイしてるの? エルフが?」
「はは……今のは、ほんの冗談」
「……ユリエルゥ、なんか隠しとるやろ?」
「世界は秘密に溢れているッ!! 今日の所は、これぐらいで終わりにしよう」
ユリエルはその日の補習を無理やり切り上げた。




