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無頼の魔女イシュタル  作者: ふるみ あまた
1章 海の章
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20 異世界の支配者

 

 大賢者の驚異的な胆力により、生ける鉱石(リビングオーズ)をなんとか手に入れることのできた私たちは、神様に献上するような貴重な宝石の情報を求めて、とある場所へとやってきていた。


 我々魔法族が『はじまりの木』と呼ぶ大樹のあるこの世界は、私たちが住む世界とは違う次元に存在している。今から2か月ほど前、我らが大賢者様は正気を失い暴れまわっていたこの世界の支配者との殴り合いを制し、両方の世界に平和と秩序を取り戻した。簡単に説明すると、こんなところだろうか。もちろん実際は、殴り合いなんていう生易しい戦い方ではなかった。





 『はじまりの木』に寄り添うように建てられた巨大な宮殿がある。2か月前はボロボロだったこの建物も、今ではすっかり綺麗に建て直されていた……のにも関わらず、今日この日この時に、またしても宮殿はボロボロになってしまっていた。大賢者レオナルド・セプティム・アレキサンダーと、この世界の支配者であり大賢者の恋人の父親でもある『デミナスケヴラ』との一騎打ちが再び行われたからである。


「ひぇぇ……」


 宮殿の玉座の間だったところの端っこで、腰を抜かして情けない声を上げているのが私だ。すぐそばでピィちゃんが私の事を気遣ってくれている。


 私たちから少し離れたところでは『はじまりの木』の女神『エリシェバ』が、白い円形のガーデンテーブルに座ってのんびりとお茶を飲みながら男たちの戦いを優しく見守っていた。


「なぁ、そろそろいいだろう? 怯えちゃってんだよ、俺の可愛い下僕が」


 己の血で顔を真っ赤に染めた大賢者が、自分の何倍も厚みのある体を持つ支配者を(いさ)めた。支配者は力の権化ともいえる体つき以上に力強い眼で、私の事をちらりとだけ見てからまた大賢者の方へと視線を戻した。こちらの方もまた、顔中が血まみれだった。


「……お前は何なんだ? 前に戦った時以上に攻撃が当たらん。一体、どうやっているんだ?」

「こんだけボコボコに殴っといてよく言うなぁ? 言っとくが、俺と二度以上戦って、血を流させるほどの相手はあんたが初めてだ。もっと自信持っていいよ?」


 大賢者は相変わらず質問にきちんと答えず、支配者の事を挑発した。


「質問に答えろ、レオナルド」

「……別に。覚えた攻撃を二度と貰わないようにしてるだけさ。さあ、もういいだろう? くだらない茶番はやめて、とっとと宝石の在り処を教えてくれ。あんたの娘にピッタリの宝石の在り処を」


 瞬間、支配者の足元の床に亀裂が走った。私がそう認識した時に支配者の姿はもうそこにはなく、大賢者の顔にその剛腕を振り下ろしたような様子だけが知覚できた。


「……見事だ」


 支配者は音を立てて膝をついた。その拳が届く前に、大賢者の一撃が決まったのだろうか。


「……ありがとさん」


 一方で、大賢者は渋い顔を見せてお礼を言いながら、床にめり込んだ右足を引き抜いた。もしかすると、相打ちだったのかもしれない。とにかく、再会のじゃれ合いは終わったらしい。私はそのことに心の中で安堵しつつも、体はちっとも動かせないままでいた。




「まったく、男の人ってやぁねぇ? ねぇ~、ママ?」


 先ほどまで熱い殴り合いを展開していた大賢者が、今はクネクネとオネェ口調で女神に向かっておどけている。天井も壁も砕け散り、黄金の葉を豊かに茂らせている巨木の枝が風に揺れる様子がよく見える。玉座の間はすっかり廃墟のようになってしまった。床もあちこちボコボコになっていて、この場にふさわしくないほどにピカピカの、白い大きなガーデンテーブルに全員が座っていた。


 この神格の巣窟では、私はまともに喋ることすらできない。ただ傍らで、人外たちの繰り広げるホームドラマの様子を眺めることしかできなかった。


「ふふ、そうね」


 余裕たっぷりの大人の態度で女神は大賢者のジョークを笑った。白い肌と黄金色の長い髪、触れれば弾けそうな豊かな胸とお尻、そして引き締まった腰。その外見は大賢者の恋人であるソフィーさんとよく似ている。性格は断然こちらの方が丸みがある。


「娘は……ソフィーは元気か?」


 私の倍ぐらいの身長がある支配者は、先ほどまでとは打って変わって落ち着いた様子で、貫禄たっぷりに大賢者に聞いた。筋骨隆々の支配者たる隙のない肉体をしていて、真っ白な髪と長い白髭が特徴的だ。性格はソフィーさんに限りなく近いと思われる。


「ああ。相変わらず元気に怒ったり、泣いたりしてるよ。ほんと、パパそっくり」


 恋人の両親の前でふてぶてしく天を仰ぎながら煙草をふかして答えたのが、我らが大賢者である。この男の態度は、本当に、身の危険を感じるほどにふてぶてしい。私は膝の上に座るピィちゃんの横腹の肉をムニムニと弄ぶことで心の安定を図った。


「ぬかせ」


 支配者は満更でもない様子で大賢者の不遜な態度を許した。


「でさぁ、ソフィーに贈る指輪の石の事なんだけどさ……あ、そうだ。はじまりの木の琥珀でもいいって聞いたな。ママ、ちょっと頂戴よ。琥珀。琥珀って、ママの涙? それとも母乳?」


 最悪最悪最悪。なにこいつ。ちっともTPOをわきまえない。よりにもよって、恋人の母親にセクハラをしやがった。


「うふふ。私はまだ復活して間もないから、琥珀は無理よ」


 女神は彼の蛮行を笑って許した。神々の堪忍袋の緒の強度に救われた。


「子供の予定はあるのか? 戦士にしよう」

「気が早いわよ、あなた」

「ああ。だけどもしそうなったら……とんでもなく気の強いガキが生まれることだろうな。同じような性格のやつが3人も揃っちまったら、今度こそこの世の終わりだ」


 大賢者がそう言うと、私以外の全員が大笑いした。恐るべし、神にも通じる大賢者ジョーク。


「……さて、もうコイツの精神力も限界だ。そろそろ宝石の在り処を教えてくれないか?」

「残念だが専門外だ。エリシェバ、何か知らんか?」


 力担当の支配者は、妻の知識を頼った。


「そうね……エルフの秘宝はどうかしら?」

「エルフか……そういえば、この世界にはエルフがいたな」


 いたもなにも、あんた自分がしたことを覚えてないのか? と、私は思った。


「ええ。その秘宝ならば、きっとあなたたちにピッタリだと思うの。彼らにはあなたたちの訪問を知らせておくから、秘宝の場所は直接聞いてみて?」


 また揉め事の匂いのする流れになって来た。女神様、あなたはどうして余計な争いの種を与えるのですか? もっと平和に取れそうな宝石は本当に他にないのですか?


「わかった。そうしてみよう」


 私の願いむなしく、次の目的地が決まってしまった。

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