19 魔法史:補講 『魔法界の危機を救った者たち』
始めは何でもない、よくある自然現象だと思われていた。空間が何らかの事情で捻じれ、まったく別の場所へと繋がってしまう。そんな現象が数件ほど確認された。この空間の捻じれに対し、国際魔法警備局はすぐに対応と修正を行った。しかし、またすぐに同じ事象が現れた。
異変をいち早く察知したのは、大賢者ストラデウスだった。ストラデウスは、ある人物に異変の調査を依頼した。それが『はじまりの木』の再発見者テオ・ユスティニアヌスである。彼は独自に異変を調査し『はじまりの木』の幹から下の部分が存在する別世界を発見した。その報告を受け、事態を重く見たストラデウスは『はじまりの木』の失われた樹冠を探し出し、木を一つに戻すことをレオナルド・セプティム・アレキサンダーに任せることにした。
一方で世界の空間の歪みは数を増やし、その規模も徐々に大きくなっていった。中にはそのまま消失してしまった空間までもがあり、それはもはや世界がちぎれ始めているといってもよいほどの異常現象になっていた。
レオナルド・セプティム・アレキサンダーは『はじまりの木』の失われた樹冠の部分のある異世界へ旅立った。彼は根元のある別世界で闇の組織を相手に奮闘していたテオ・ユスティニアヌスらの協力の元、これらの世界を一つにまとめ『はじまりの木』をもとの一本の木に戻すことに成功した。
『はじまりの木』がひとつになると、世界中で起きていた空間の捻じれは完全に消失。魔法界は彼らの功績を評価し、それぞれが大賢者、名誉魔導士として称号を得た。
「……とまあ、これが現代における魔法史の大きな出来事です。これらはセットで問題が出されやすいので、ふたりとも頑張って覚えましょうね?」
メガネをかけた恰幅の良い若い男性教師が、並んで座る2名の女生徒たちに向かって穏やかに微笑んだ。
「ふぅーん……ユリちゃんってデブだけど、パーツは整ってて結構可愛い顔してるじゃん」
色素の薄い長い髪を手で遊ばせながら、女生徒は補講内容と全然関係のない教師の見た目の感想を口にした。
「……はい?」
予想だにしない女生徒の発言に教師は間の抜けた言葉を返すだけであった。
「はぁぁぁあ”あ”あ”!!!! なんっでイケメンに戻らへんねん!!!! もどれよぉぉ!!! 大魔導士なんだろう!??? ユリエルゥ!!!!!」
一方で猫背の女生徒は独特な訛りで、ただひたすらに自らの願望を叫ぶだけだった。
「これは……聞いていたよりも、だいぶ手ごわいな……」
三年生の中でもトップクラスに我の強い二人の女生徒を前に教師は頭を抱えた。
「私の話はつまらないかな?」
「うーん……つまらなくはないよ。ただ、私が馬鹿で理解できないだけ」
「そんなことはないよ。君は星詠みの一族だろう? ということは、先祖伝来の膨大なデータが頭に入っているということだ。それはとても尊い事だし、決して君が馬鹿ではない証拠でもあるんだよ?」
「えへへ、ありがとう」
「うあぁぁぁ!!!! イケメンの姿で言われてぇぇぇ!!!!! 私も褒めろよぉ!! ユリエルゥ!!! ブタァ!!!!」
「ははは……じゃあ今度はもっとわかりやすく、映像化して説明させてもらおうかな」
名門魔法学校の放課後は、その日も平和であった。




