コルディエー公の返信
親愛なるアレクサンドル兄上へ
穏やかで過ごしやすい気候が続いていますが、お変わりなくお過ごしでしょうか。
この度はとても素敵な贈り物をいただき、ありがとうございます。
貝の化石でこれほど美しいものは他に知りません。それに、魔力が籠っている。何でも石灰の鉱山にて発見されたものだとか。自然哲学の研究論文によれば、我々が暮らす大地は、大昔には海の底であったと言います。そして、長く土に埋まったものは、時折周りの土の成分に影響を受けて、その性質を変化させることがあるとも。魔法、魔力とは、現象を定義する力ということですから、この石も、そのような自然の現象によって変化し、魔法の力を蓄えたものと思います。永く大切にさせていただきます。
配達人のスフェーンに聞きましたが、モリオンでは随分と大冒険をなされたそうですね。彼はよく周りのことを見ているのでしょう、随分話し上手で、モリオンでの兄上の様子が目に浮かぶようです。兄弟で手を取り合い、騎士たちと共に悪に立ち向かう。これは並大抵のことではありません。誇り高く勇敢な兄上がおられることは、我らがベルトラン陛下もさぞお喜びでございましょう。とはいえ、体を壊してしまっては本末転倒ですから、成すべきことがいかに多かれど適度に休養を取られますよう。
ところで、そろそろ、舞踏会の予定が近づいておりますね。
兄上はもしかするともうご存じかもしれませんが、一応お耳に入れておきたいが一つございます。スピネル兄上のことです。
先の悪精霊による災害においては、民の避難誘導に尽力してくださった一人でございますが、ラブラドル兄上よりずっと内向的なお方です。そのスピネル兄上が、ウェルナーで織物の図案を描いている絵師に弟子入りして絵を習っておられるのですが、それだけではなく、絵師の娘に熱を上げています。これがどうやら遊びではなく、本気で入れ込んでいるようなのです。
舞踏会には様々な方が招かれますが、もしスピネル兄上と外交上重要などこかの姫君を引き合わせようとお考えなのでしたら、それは難しいことかもしれません。何しろ末娘の私が事実上、愛で結婚相手を決めたものですから、自分にそれができないとは納得してくださらないでしょう。無理に縁談を進めようとすれば、何かしら揉め事になることは間違いありません。
モリオンでご活躍なさったというラブラドル兄上のような他の王子に任せるか、それも難しいのであれば、私に借りのあるサーペンティン殿を呼びつけるほうがいくらかマシかと思いますが、そのご判断は、ベルトランお兄さまとご相談なさってください。
どのような結果になるにせよ、全ての兄弟に、良いご縁が結ばれ、幸福が訪れることを祈っております。
どうか、くれぐれもご健康にはよくお気をつけて、ベルトラン陛下を永く支えて差し上げてくださいませ。
末の妹
アルミナ・ルチル・コルディエー
虚構転成冥界紀行、完結です。
ベルゼア王国のちょっとしたサイドストーリーくらいのつもりだったのですが自分が遅筆なため、随分時間がかかってしまいました。ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。楽しんでいただけていれば幸いです。
元々はタイトルも虚構転成冥「怪」紀行にするつもりだったのですが、変換をミスったまま6話くらい投稿してから自分がおもてたんと違うタイトルにしてたと気が付き、そこまでいったらもうこのままでええやろの精神で現在のタイトルで進めてきました。そういうこともある。
今作は前作で語られた婚活パーティーの舞踏会の準備中の話です。この間にアルミナが結婚し、舞踏会の参加者から外れている一方、舞踏会までの間に大きそうな問題を片付けておくのがアレクサンドルの仕事でした。
アレクサンドルの魔眼は過去視ですが、過去であれば一秒前でも視られるので、ほとんど千里眼として機能しています。これはアレクサンドルがちょっとした過去にしか興味がないためこのようになっています。即座の命の危機を回避するためには、現代の人間の行動だけを考慮すればいいからです。今回アレクサンドルと共に戦ったスフェーンやラブラドルたちは、特段変わった能力があるわけではない普通の人ですが、その性格や行動からアレクサンドルポイント(ベルトランの治世に役立つまたは邪魔にならなそうかどうか)が高いのでアレクサンドルは彼らとの交流においてはわりと機嫌が良いです。
さて、この過去視の魔眼で光る石の正体についてぼんやり魔力がめっちゃある石だなあくらいのことしか把握していないのは、アレクサンドルが古代の浪漫みたいなものに一切興味がないからです。たとえ興味があったとしても、悠久の過去の全てを取得するには人間一人の器では処理しきれない膨大な情報量になるため、簡単なことではありませんでした。
逆にプレゼントで貰ったアルミナが貝の化石だヤッター! となっているのは本人の興味、学習、そして本人的には前世の記憶と思っているものが由来です。もしもアルミナがモリオン領に行っていれば、見たもののだいたいのことについて九割くらいの正解率で答えがわかったでしょうが、本人がか弱いので無事では済まなかったでしょう。そもそも鉱山を歩くことが体力的にできない。
そんなこんなでモリオンの話は一区切りです。今後はベルトランのことをもうちょっと書きたいような気もするし、アルミナの日常を書きたい気もするし、ベルゼアのもっと昔の話を書きたい気もするし、あるいは未来のことを書きたいような気もしますが、まだ何も決まっていません。そのうち何かしっくりきたら、しれっと何か書き始めていると思います。
改めまして、ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。




