負け犬の成果物
モリオン領の領主一族、スモーク家が滅びた。
それなりに旧い血筋の貴族だったが、一族には跡取りとして適齢の若者がいなかった。唯一の娘は国王の側室となり、王子を生んだ。それがハリーである。
衰退するスモーク家が勢力を取り戻すには、王子を使って権力闘争に打ち勝つしかない。一族の者たちは皆、このハリーに期待して、あらゆる財産をこの青年に明け渡した。ハリー自身も玉座を望み、次期国王の候補である兄たちや他の政敵を始末するため、古の怪物を使役してみせた。このために多くの人間が、時にはスモーク家の縁者さえ犠牲となったが、結局は兄たちを殺めるに至らなかった。そしてハリーは国家転覆の罪によって処断された。
モリオン城では、仕えてきた臣下たちが慌ただしく荷物をまとめている。事情を理解していない下働きの者どもは、ただ狼狽えているばかりだが、少しでも知恵のある者は皆、死の臭いが満ちるこの城から金目のものを持って逃げ出すつもりなのである。城主が反逆者として討たれた以上、時を置かずして新たな国王の名代がここを制圧しに来る。その時ハリーの手先だった人間が無事で済むはずがない。誰もかれも忠誠より命が惜しい。
男は一人、城の地下にいる。彼はハリーの計画に賛同していた。優秀な者が弱い連中に足を引っ張られて堕落することを良しとせず、闘争によって望みを叶えるような国造り。環境のせいでくすぶっているものが日の目を見るような世界は、きっと素晴らしいものに違いなかったが、ままならぬものだ。
辺りには、実験のために集めたものが転がっている。魔法に関する資料、記録、実験の材料。ハリーが資産を費やした、その生きざまの結晶のような部屋。それはハリーに仕えていた男にとっても価値を持つ。手放すには惜しいが、全てを回収するには時間が足りない。今や男は主同様の敗北者であり、生き延びるには何かを諦めねばならない。
持ち出すものを選別する中、男は虹色の石に目を留めた。光にかざすと奇妙に煌めく妙な石で、これもまたハリーの魔法研究のために、男が調達したものだった。
「ハリー様は見切りをつけた実験だが……」
価値を見出されず、放棄された残骸だ。それでも男にとっては僅かに得られる遺品の一つであり、かつて主に見た希望であり、成果だった。他の誰も知らないものなので、男がそれを持ち出すことを咎める者もまた存在しなかった。