第8話
ホテルエリア以上はどこもかしこも警備だらけだった。少し進むのだって警備の目をいちいち気にしなくてはならない。
今はホテルエリアのとある連絡通路だ。二人の警備員がこの先の道をふさいでいた。
すると警備員の前に何者かが表れた。
「誰だ! この先はVIPエリアだ。会員証がないと通ることはできないぞ!」
警備員は何物かに銃を向けた。
「ちょっと待て。様子がおかしいぞ」
「うえーん。おかあさーん」
「子供だ。きっと迷子なんだ」
警備員の一人は銃を降ろし泣いている子供に近づいた。
「どうしたのお嬢ちゃん。お母さんとはぐれちゃったかなぁぁあああああッ! ぐへ」
無防備に近づいた警備員の背後から、天井裏に隠れていたサルが素早く覆いかぶさると、体術で無力化させた。
「な、なんだ? どうしたんだ!」
突然の仲間の叫び声に慌てふためく警備員B。
その隙にサルは素早く近づくと、警備員Aと同じように締め技を決めて無力化させる。
「ああっ 肩がこりそうだぜ」
「お見事お見事ー」
サルの後ろからクラッピングが聞こえた。泣いていた迷子の子供は赤美の演技だった。
「いえいえ、これぐらい大したことありませんぜ。お嬢様」
「この先はこうもいかないわよ。きっともっと警備が厳しくなってるハズ」
「無視かい! でもそうだな~」
サルはご自慢の頭脳を使って考えた。
警備員の口ぶりからしてもココを越えればもうVIPエリアだ。入ってしまえば宝石のある場所までもうすぐという事になる。問題はどうやってVIPエリアまで侵入するかという事なのだが……。
その時サルの視界に通気ダクトが映った。
「なあ、ここはいっそのことテンプレートな方法を試してみないか」
赤美はサルの視線の先の物に気づいた。すると猛烈な動きで首を横にふりだした。
だが結局他に方法も見つからなかった。嫌がる赤美を無理やり押し込むと、二人は通気ダクトの中を進んでいった。
ガタン、 ガラガラ…………
天井にある通気ダクトの金属製のふたが落ちて大きな音を立てた。そのあとに人影が通気口の中からその部屋に降りて来た。
部屋はVIPエリアの中にある空き部屋だった。空のショーケースがいくつも乱雑に保管されている。
「誰もいないぜ。ここは安全らしい、降りて来いよ」
「う、うん。ちゃんと受け止めてよね」
「ああーん。分かった分かった。早く降りろ」
「ホントに分かった? 私こわいんだから!ちゃんと受け止めないと承知しないんだからね!」
赤美は怯えてなかなか降りてこなかったが、サルが急かすと意を決し天井の穴から飛び降りて来た。サルは落ちて来た赤美のワンピースの背中を、タイミングよくヒョイと摘まみ上げるとそのまま地面に着地させた。
「きゃっ ねえ、ちゃんと支えてって言ったでしょ!」
「今のじゃダメなのか~細かいやつだな」
「あなたが大雑把なのよ」
人間はやたら運動能力が低い。それに加えこの女ときたらやたら怖がりだ。自分の家に入った泥棒を一人で追いかけて来た肝の据わった女とは到底同一人物と思えない。
「なあ、お前。そんなに怖がりなのにどうしてこんなところまで来たんだ? 家宝の宝石なんてほっておけばいいだろう」
するとそれまでぷんすか怒っていた赤美は真面目な顔になって答えた。
「さっきも言ったでしょ。ゴッドブレスが盗まれたせいで家の加護が消えて大変な事になっているの。宝石をとりもどして何とかしないと、弟や妹がこの先困ってしまうわ。もっと強力な災厄に遭うかも」
「するとアレか? お前はあるかないかも知れない災厄とやらから他人を守るために、遠路はるばるここまで来たと。子供のくせに」
「他人じゃないわ。大事な弟妹たちよ! それに子供でもないわ」
「いいや、ガキだね」
サルはそう言い切った。
「さっき私兵隊に囲まれた時、オレ達が居なかったらお前は死んでたんだぜ?いくら家のためにここまで来たとはいえ、命をぞんざいに扱うような奴はまだまだ頭の足らないガキとしか言えねえぜ」
「ううっ な、なによそれ……」
赤美はサル頭に言いくるめられてその場で黙りこくってしまった。
やれやれ、人間はすぐ弱ってしまう。その様子を見たサルは赤美にこう言った。
「ああー。だからオレみたいな頼れる保護者がついてやらないとな。さあ、行きますよお嬢様。」
「だ、だれが私の保護者ですってっ 相変わらず無礼な奴ね」
赤美は顔を真っ赤にしてずんずん進むサルを追いかける。
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