第7話
雲一つない満点の星空が広がる空の下で俺は彼女に呼び出されていた。
「珍しいな、君が二人で話したいことがあるなんて」
「ごめん、でもアイツと決着を着ける前にどうしてもテイトに伝えたい事があって……」
満月による月光が彼女の綺麗な白髪を照らすことで夜の闇に映え、普段から幻想的な雰囲気がより魅力を増して見えた。
俺は何となくこの後の展開が読めたが……それはフラグという物ではないだろうか?
「なぁ、それは……どうしても今じゃないと駄目な話なのか?」
「……ん、今がいいの。今じゃなきゃもう話せない、そんな気がするから」
「……わかった、だけど俺から先に話をさせてほしい」
彼女はこちらを緊張した面持ちで見つめつつ小さくうなずいた。
彼女の話たい事が分かっていた俺は、無理に話を引き延ばすこと諦め覚悟を決めた。
むしろその話を彼女からさせる事は男としてどうかと思った。だから――
「リビア、俺は――」
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「っ……ぁっ……!!」
なんだ!? 少女が俺を庇って倒れる姿を視認した途端、俺は過去に類を見ないほどの頭痛と白昼夢に一瞬襲われその場で片膝を着いた。
あの白昼夢は一体? あの少女はいつも夢に出来る少女と同じ人物なのか? そして何より目の前で俺を庇った少女は誰でなぜ俺を庇ったのか?
様々な疑問が脳裏を駆け巡る中、先ほどの頭痛と白昼夢に襲われてから、何かよくわからない力が体の中から溢れて来たのを感じる。
「グルァ……」
魔獣はどうやら風の刃で少女を傷つけた後、一旦距離を取ったようだ。
尻餅をついた状態で痛みを堪えて魔獣の様子を伺うと、俺のただならぬ様子を警戒しているのか奴もこちらの様子を伺っている。
「……よくわからないけど今のうちに彼女に中級ポーションを」
俺はふらふらと立ち上がって少女の方へと歩きつつ、魔獣を警戒しつつ腰のホルダーから中級ポーションを取り出した。
傷は少女の腹部を左上から右下へかけて斜めに走っており、結構な深い傷で出血がひどかったので俺の傷を手当てした時と同様に、半分を傷口にふりかけもう半分を瓶の口を少女の口にあてがいゆっくりと飲ませた。
「ポーションだ、飲んでくれ」
「んっ……んっ……」
どこか艶めかしい声を上げつつポーションを飲む少女、そんな場合ではないというのに若干変な気持ちになる。
そしてこの時少女からまた会ったばかりだというのに、なぜか俺に対する信頼に似た感情が向けられていることを感じ少し戸惑った。
少女にポーションを飲ませながら少女の容姿をちらと確認するとあまりの可愛さに息を吞んだ。
綺麗な長い白髪が腰ぐらいまで伸びており、猫の獣人なのだろうか……頭には髪色と同じ白色の獣耳が付いている。
そして顔は少し幼さの残る可愛い顔立ちをしているがどこかツンとした印象を抱かせ、綺麗な黄緑色でまるで宝石の様な大きな目を持っていた。
「ん……あんまり見つめられると恥ずかしい……」
少女の落ち着いた声音でありつつも、少女らしさも感じさせ高めの声で話し掛けられ我に返る。
「あっ……ごめん……、庇ってくれてありがとう。お礼はあの魔獣を倒せたら改めてするから」
「分かった、わたしはまだ動けないから……でも今のテイトの力ならきっとアイツにも勝てるよ」
庇われた際にも思ったがなぜ俺の名前を知っているのか? こんなにかわいい獣人の少女であれば一度会ったら忘れることはない。
それに先程から溢れて来たこの力の正体を知っているのかのような口ぶり。謎の信頼感はどこから来たものなのか?
「それはどうい――」
「……来るっ」
少女の言葉に色々と思考を回していると直後痺れを切らした魔獣が、こちらへ向けて風の刃を放ってきたのを今までよりもハッキリと感じた。
俺はとっさにそばに置いておいた愛用の剣を構え少女の前に出る。
ハッキリと風の刃の存在を知覚できるようになったとはいえ威力が落ちたわけではない。力が湧いてきている今なら、自分一人だけは回避も安易にできそうだがそうすると少女に直撃してしまう。
少女を抱えて回避するのはもう間に合わない……どうするかと思ったその時、不意に全ての動きがスローモーションになり音が消失した。直後脳内に凛とした声が聞こえた。
『集中して魔法を見て下さい。今のあなたには魔素の可視化及び、魔法の脆弱な部分が見れるはずです』
「っ!?」
次から次へとなんだ!? この声は明らかに白髪の少女の声とは違う。
だがまず何より目の前の危機を脱出するべく、謎の女性の声が言うように風の刃の存在を感じる場所へ目を向ける。……だが何も見えない。
『自分を信じてください、マスター』
そう言われ俺には見える、そう思い込みを強めて再度魔法のある位置を見据える、すると……見えた。
はっきりと三日月状になって迫ってくる風の塊と、三日月の中心に走る赤い線が。
『その線をなぞる様に剣を振ってください、魔法を切れます』
それは魔法切りを俺にやれという事か!?
Aランク以上の冒険者でも特殊な才能を持つ剣士にしかできない芸当が魔法切りだ。
急にそんなことできるとは思えないし、何より切れなかったら俺が真っ二つになるが……
『ファイトですよ、マスター』
「簡単に言うっ!!」
だがもうやるしかない、俺は半ばやけくそ気味に言われた通り線をなぞる様に剣を振る。
「はあぁぁ!!」
――ザンッ!!
本当に魔法を切れたっ!!
正直自分でもかなりビックリしていたがより驚いたのは魔獣だろう、奴の目が見開かれていた。
ここで魔獣もあんな顔をするんだな……なんて思うくらい精神的に余裕がでてきているのを自覚したのだった。