第5話 ★
ウィンドウルフの一番の武器は何かと問われると、その身軽な体から繰り出されるスピード・鋭い爪があげられることが多い。
そしてやつらは獲物にとどめを刺す時には、必ずその強靭な顎と牙を用いて、相手の急所を嚙みちぎる習性があり、その急所というのは基本的には首を狙ってくる。
おそらく首を狙う際爪を振り上げるのがタイムロスになるため、基本的に噛みちぎる事になっているのだろう。
俺は敢えてその噛み付き攻撃を誘発させるため、自ら後ろへ倒れこみ隙だらけであるかのように見せかけた。
「!! ギャオオン!!」
掛かった。
好機とみたウィンドウルフが目論見通り、俺の首を目がけて一直線に飛びかかってきた。
俺はタイミングを合わせ左手のひらに貯めていた血を、攻撃を避けつつウィンドウルフの顔面目掛けてぶちまけた。
「キャウンッ!?」
よし、血による視覚と嗅覚を奪う作戦はうまくはまった。
ただやはり知能の高いためか視覚と嗅覚を奪われた直後だというのに、すぐに聴覚のみで俺の位置を把握することに切り替えたようだ。
むやみやたらに動くことをせずじっと音を聞く事に集中し、様子を伺っているような様子を見せている。
俺はすぐ仕掛けることはせず腰のホルダーから下級ポーションを取り出し、まず自分の傷を治すことにした。
ポーションを半分傷口にふりかけ、残りの半分を飲み空瓶を左手に構えた。
するとゆっくりとだが傷がふさがり始め、血を失っていたことで重くなっていた体も少し軽くなった。
ポーションは即効性と持続性の両方の効果があるため、時間が経てば傷と失った血は回復するため万全な状態になる。
俺はずっと聴覚に意識を向けているウィンドウルフの気を引くため、ポーションの空瓶をウィンドウルフの後方へ投げた。
――ガシャン
「ガウ!!」
空瓶の割れる音に注意を向けた隙を俺は逃さないため、ウィンドウルフへ向けて駆けだした。
俺が駆けた瞬間にウィンドウルフは引こうとしたがもう遅い。
俺の振り上げた剣が最後の一匹の首を捉え鮮血が待った。
「アオォォォン!!」
最後に一鳴きしウィンドウルフが倒れ、ようやく決着がついた。
「っふうー……なんとか……なったか……」
俺は討伐証明のためウィンドウルフの両耳を回収するべく、討伐し物言わなくなったウィンドウルフ達へ歩み寄った。
――その時小雨が降り始めた。
下級ポーションで治療を行ったとは言え、閃光弾一発で楽に達成できるクエストだと思っていた上、危ういところまで追い込まれかけたので肉体的にも精神的にも思った以上に疲れた。
だが、疲れているとは言えのんびりと両耳を回収していると、あたりに漂っている魔物の血を嗅ぎつけて別の魔物がやってきてしまう。
重い体を動かしながら手を動かし、なんとか五匹の両耳を回収し専用の袋へ入れ終わった、その時強烈な嫌な予感と悪寒を感じた。
「――っ!?」
その殺気から逃れるように俺はとっさに前方へと飛び、転がることでその場から離れた。
直後、俺が元居た場所の地面が何かにズタズタに引き裂かれ、巻き込まれた土砂が盛大に宙に舞った音がした。
「……なんだ?」
前転の勢いを利用し立ち上がり、何かが飛んできた方向へと身体と視線を向けた。
――そこにいたのは全長はゆうに三メートルを超え、澄んだ綺麗なエメラルド色の毛を持つ一匹の狼だった。