第4話
東門へと向かった俺は顔見知りの衛兵に簡単に挨拶を行って門を通してもらい森へと向かう。
森までは大体街を出てから一時間ほど歩くと到着する。
ちなみに自転車などの乗り物で移動することはしない。
というのも森の中では自転車が当たり前に使用できないのだが、森の近くに止める自転車は魔物が積極的に破壊しようとするからだ。
そのためストレージリングを持たない冒険者は、基本的に冒険者の移動手段は徒歩となる。
徒歩と言っても街の周囲は、冒険者が定期的に魔物を狩っているため比較的安全だ。
まぁ念のため周囲を警戒はする。警戒しつつものんびりとストレッチなどを行ない歩いていると森へと到着した。
俺はさっそくウィンドウルフを見つけるための痕跡を探すことにした。
ウィンドウルフは基本的に小型の魔物を狩って食料としている。
そのため探す痕跡というのはウィンドウルフの基本的な食料となるゴブリンや、ゴブリンの利用している獣道だ。
ゴブリンは人間と同じ姿をしているが、成人でも人間の腰くらいの身長しかなく肌の色は緑色をしている。
一般的な人が想像している以上に知能があるため、人間の使うような道具を使ったり、連携を取って大型の動物を仕留めることもある。
そんなゴブリンだが基本的には体格が小さいことから、小型の動物や木の実などを食べて生活している。
そのためゴブリンを探すときは木の実が成る木の近くを探せば高確率で見つかる。
この森に関しては俺が十五歳で冒険者になった時から時から何回も入っているため、だいたい木の実の成る木の位置は把握している。
ここからだと一番近いのは……五分ぐらい歩いたところだな。
森ということで当たり前だが視界と足場が非常に悪いため、俺は注意しながら目的の木の生えている場所まで向かう。
そして歩くこと五分とちょっと。目的地の木の場所まで到着すると……いた、ゴブリンだ。
ゴブリンはちょうど落ちている木の実を収穫しに来たようで一匹で行動している。
ウィンドウルフは基本的に単独のゴブリンを狙うことが多いため好都合だな。
俺は一旦ゴブリンから距離をとりあたりに落ちている土や、葉っぱを自分の体にこすりつけ自分の体臭を消した。
ゴブリンはもちろんのこと嗅覚が鋭いウィンドウルフに臭いでばれないようにするための措置だ。
そうして自分のにおいを消した後、先ほどのゴブリンの監視できる。位置までこっそりと再度近づいた。
あとはウィンドウルフがゴブリンに食いつくのを待つだけだが……。
そう思っていると突如周囲の空気が張り詰めていく気配を感じる。ウィンドウルフが来たようだ。
さりげなく周囲に視線を向けてみるとウィンドウルフがおそらく二匹、ゴブリンを囲んで様子をうかがっているのがわかった。
ウィンドウルフに仕掛けるのはやつらがゴブリンを仕留め、ゴブリンを食べる事に夢中になっているタイミングだな……。
ウィンドウルフは一から二匹で獲物を探し獲物を見定めたあとは三から四匹合流し、獲物を包囲・逃げられない状態にしてから確実に仕留める習性がある。
そのため俺は物陰に身を潜めたままベルトから閃光弾を取り外し、いつでも投擲する準備しながらウルフ仲間が合流するのひたすら待った。
そして待つこと数十秒、仲間が三匹合流し、いよいよウィンドウルフによるゴブリン狩りが始まった。
と言ってもゴブリンが単独なのに対してウィンドウルフは五匹、多勢に無勢な為ゴブリンはあっという間にウルフ達の食料となった。
そして五匹がゴブリンに噛り付いた。今だ。俺は用意していた閃光弾をゴブリンの亡骸の上に投げる。
「「「キャウンッ!?」」」
閃光弾は俺の期待通りの効果を発揮し、見事ウィンドウルフ達の視界を奪った。
俺はその隙を逃さないように手前に居るウィンドウルフから順番に、首元を狙って引き抜いた剣を振り下ろし仕留めていく。
「んなっ!?」
「グルルルル……」
三匹目を切り捨てたところで残り二匹の視界が回復し剣を避けられた。回復が予想よりだいぶ早かったな……。
クエスト達成分の討伐はしたため閃光弾の効果が切れた以上、これ以上リスクは取りたくないのだが……逃がしてくれなそうだ。
だが二匹相手ならば油断しなければ対応できるはず。
俺はウィンドウルフから視線を外さずに深呼吸をし気分を落ち着かせ、剣を右手一本で持ち正面に構えた。
左手はベルトから音響弾やポーションを取り出したり、素早い動きに翻弄され態勢を崩してしまった時に、臨機応変に対応できるよう腰のあたりに構える。
「……」
「グルルルル……――ガァ!!」
一拍の睨み合いの後一匹のウィンドウルフが我慢できなかったのか、牙を剝き出しにしこちらに飛びこんできた。
もう一匹のウルフの様子を視界からはずさないよう気をつけつつ、体を右側へ数歩分ずらし飛び込んできたウルフの攻撃をよける。
その際すれ違いざまに飛び込んできたウルフの首元を狙って剣を振るが、素早い動きで交わされ元の位置辺りまで戻っていった。
正面のウィンドウルフは大きな動きは見せず、こちらの隙を伺いじりじりと俺の左側に回り、死角を突こうとしているように見える。
かなり知能が高めのウィンドウルフにみえるため注意しなければ……。
二匹に挟撃されない様立ち回りを考えつつ、俺は先に攻撃を仕掛けてきた方を先に処理する事に意識の七割ほどを向けた。
先ほど先手を取られたので今度はこちらから仕掛ける。
まず死角を突こうとしている方の牽制のため、右足で足元にある石や砂を顔面に向けて蹴り飛ばす。
期待通り片方の注意を引けたのを横目で確認しつつ、俺は正面に陣取るせっかちな方へ距離を詰める。
正面にいるウィンドウルフはこちらを迎え撃つつもりのようで、体制を低くしこちらの動きに対応する姿勢に見える。
長時間二匹を同時に相手するのはスタミナや今の技量的にまずい、そう思った俺は剣を正面に掲げることで剣に注意を向けさせた。
そして左手で腰のベルトのホルダーにセットしていた音響弾を外し、手首のスナップで音響弾を正面のウィンドウルフに向かって投げつける。
――キィィイイイン!!
「ッ!! グルァ!!」
目の前で発せられた非常に大きな音が正面のウィンドウルフの鼓膜と脳を揺さぶる。
結果目論見通りふらふらとまともに立ってられない状態になった。
頭を振って状態異常を治そうとするウィンドウルフの隙を逃さず、全力で残りの距離を駆けその首を一閃した。
よし、後は一匹だけだ。少し気が緩んでしまったんだろう、俺は側面に回り込んでいたウィンドウルフに直前まで気づかなかった。
「ガァ!!」
「くっ!?」
ギリギリ剣で首に噛み付かれる事を防ぐことに成功したが、その後の爪を使った攻撃には対応することができず左腕に傷を負ってしまった。
「ハァ……ハァ……。クソッ、順調だったから油断した……」
冷静に機会をうかがっていたのだろう。こいつはやはりほかのウィンドウルフに比べ知能が高い。
恐らく先ほど切り捨てたウィンドウルフは囮にされたのだ。
傷を治療するため腰のホルダーにセットしている下級ポーションを取ろうとするが、その傷のせいで手に力が入らずうまく取り外すことができない。
そんな絶好の機会をウィンドウルフが見逃してくれるわけもなく、こちらを仕留めるべく猛攻が始まった。
剣で攻撃を捌きつつこの状況を打開する方法を考える。
その間思ったり左腕の傷が深かったのか、攻撃を捌くたびにどんどん血が流れて体が重くなるのを感じた。
このままではまずい。ふと何か打開策はないかとウィンドウルフの様子を伺ってみるが、隙のようなものは見受けられない。
そうして十分程度攻防が続き、とうとう視界がおぼつかなくなり始めた。
その間ウィンドウルフは俺の左腕からの流血が、自らに降りかかる事をお構いなしに攻撃を仕掛けてくる。
待てよ……血……?
ふと、この状況を打開する一つの作戦をひらめいた。
いい挿絵が作成できなかったので挿絵はありません。
いつか追加出来たらお知らせします。