第1話 ★
その光景を一言で表すなら世界の終わりだった。
周りの巨大な建物が半ばで倒壊し、車だったと思われる物の残骸がある。
人の死体と血だまりが数多あり、辺りには生きていると言えるのは俺と仲間、そして「アイツ」しかいない。
聞こえてくるのは俺達と「アイツ」との激しい戦闘音のみ。
戦闘は数時間一進一退の状況を保っていたが、それは俺の仲間が倒れた事で唐突に崩れた。
「君の力は仲間との絆からもたらされたもの。周りから狙うのは当然だろう?」
茶色の髪をした女性が真っ先に剣に貫かれて殺された。戦いはそれから一方的な展開となっていく。
仲間を殺されたことに動揺していた隙を「アイツ」が見逃すはずもない。俺に向けられた致命の刃を、綺麗な金色を持つ碧眼の女性が俺をかばいそして殺された。
仲間二人を失った後こちらの陣営は脆かった。引き締められた肉体を持つ獣人の男性がすぐに殺された。
何度も「アイツ」の攻撃を受けた結果、俺の手に握られた剣がついに限界を迎え少女が現れる。
「ごめんテイト……アイツの攻撃受けきれなかった……」
そして小柄でサイドテールの少女が己のふがいなさを恥じるように涙を浮かべ気を失った。
「彼は、彼だけはやらせない。私が守る!」
最後に残った猫耳で白髪の少女が「アイツ」と相対する。
俺も予備の武装を取り出し少女に合わせて攻撃を行うが、ほとんどの仲間が倒れた今すべての攻撃を簡単にいなされる。
つかの間の攻勢の後「アイツ」の攻撃が少女を捉え致命傷を負い、彼女をこちらへ蹴り飛ばしてきた。
「うぐっ、わたしが、テイトを守るって誓ったのに、ごめん、ごめんね……」
俺は彼女を受け止めるも少女は左胸から右わき腹を大きく切り裂かれ、とめどなく彼女から血が流れていく。
彼女の生命がもうすぐ終わる、それがはっきりと分かりたまらなく怖かった。
俺が弱いせいだ……もっと俺に戦う為の力があれば……
「わたしをっ、何度も救ってくれて……ありがとう。後は……任せたよ……世界を、わたし達の未来を――」
そういい残して彼女は眼をゆっくり閉じ、微笑を浮かべたまま二度と綺麗な黄緑色の瞳を見せてくれることはなかった。
「あ……あぁ……私はまた……。あぁ……今更思い出しても……もう遅い……な。いつも――」
「アイツ」はまるで憑き物が落ちたような顔をして俺にゆっくりと近づいてくる。
「なぁテイト……ボクはキミを殺したくはない。敗北を……認めてくれないか?」
それは……できない……俺は仲間に庇われそして失ってしまった。もう……後戻りはできない。
俺にもっと力があればッ! こんな事にはならなかったのに……!!
そう強く願うと自分でも制御できない膨大な力が溢れてくるのを感じた。
「そう……なるよな。だがその力は一体……? 君は一人では並みの能力しか発揮できないはずじゃ……」
俺は自滅覚悟で溢れ出る力を全力解放しつつ、一度少女の姿に戻っていた己の相棒を召喚する。
少女の了承を得ずに武器化、そして限界以上に力を引き出す。
当然少女にかかる負担は相当になるため心の中で謝る。
溢れ出た力の影響か、倒れた仲間達の魂の繋がりがまだギリギリ繋がっているのを感じる。
そして俺はその繋がりから仲間のスキル・身体能力を無理やり己へと重ね使用する。
「……いいだろう、我も全力で相手をしよう。こいっ!」
俺の限界を超えた力に対抗するため「アイツ」も限界以上の能力を使用する。そして一騎打ちが始まった。
お互い限界以上の力を行使しての戦いだったため必然的に短期決戦となる。
戦いの結果は――
「ぐぅ……そうか、相打ちか。……貴様とは初めての相打ち、か」
俺と「アイツ」の剣はお互いの心臓を貫いていた。
「相打ち……相打ちか。くくっ、……ならば次は或いは……」
そう言い残して「アイツ」は倒れた。俺も心臓を貫かれた傷に加えて、力の行使によって立っているのが限界だった。
まただ――、また……俺は、守れなかった――いつもいつも仲間に守られてばかりで……
――もっと力があれば――
何度目めになるか分からない後悔を抱きながら俺は――
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「――また……この夢か」
そう無意識に呟いて俺は目から流れ落ちた涙をぬぐった。
俺が十歳のころから時々見るようになったこの夢だが、年齢が上がるにつれて夢を見る頻度が増えた。
そして四年程前に二十歳の誕生日を迎えてから、ほぼ毎週同じような夢を見ている。
「それにしても……あの夢の景色はいったいどこなんだ?」
俺が今住んでいる場所は木造の一般的な大きさの家になっている。
たまに小金持ちな住人が鉄筋造りの広い家に住んでいる程度で、夢で見たような高さ二十メートル以上の建物なんてものは見たことがない。
あるとすれば俺たちの住んでいる国の首都くらいだが、あいにく俺は一度も言ったことがなかった。
そしてこの夢だが不思議なことに毎回見る夢の内容が少しずつ異なっている。具体的には戦っている場所であったり、俺の仲間として戦っている登場人物が異なっているのだ。
ただし白髪の少女と金髪の女性は必ず夢に出てきている。
いつも見る夢はいつも俺が負けて殺された場面で目が覚めるが、今回だけは初めて引分けとなりお互い斃れたところで目が覚めるということが起きた。
「まぁ……いいか。夢のことよりまずは今日だ」
一年間は三百六十五日、七日を一週間とし、一日は二十四時間でこの世界は回っている。
そして今は朝の午前七時で、そろそろ起きなければおいしい仕事がなくなる。
俺はベッドから起き上がり自室からご飯を食べるため、リビングへと向かう。
三つ子の妹二人がすでに朝ごはんを食べていた。
どちらも俺と同じ黒髪黒目でセミロングだがより短い方がエミリ、長い方がナオミだ。
俺達は三つ子で母親は俺達が十歳の時に、父親は十六歳の時に亡くなった。
父親が亡くなった時はいろいろと大変だったが今はようやく我が赤羽家も落ち着いてきた。
その時期から不思議なことに俺は特定の人からの感情や思考を、なんとなく感じ取ることができるようになった。
今は二人から起床が遅い俺へ呆れの感情を向けられているのを感じる。
二人が用意してくれた朝飯を、そこそこのんびり食べながら今日一日の予定を考える。
俺は父親が亡くなってから冒険者としてギルドから発行されるクエストをこなしつつ、達成報酬でお金を稼いでいる。
ちなみにエミリは赤ちゃんや幼い子供をお世話する仕事、ナオミはある程度育った子供に教育をする仕事をしている。
ギルドでは冒険者個人とパーティーに対してランクを設定している。
基本的にパーティーランクは個人のパーティーランクより、上げにくく設定されている。
俺はよく一緒にクエストに行く幼馴染がいるが、個人技を磨くためソロでパーティーとして扱ってもらい基本ソロで活動している。
幼馴染からはパーティーをいずれパーティーを組む約束をしているが、実力差がありすぎるのでもう少しパーティーを組むのを待ってもらっていた。
ソロで活動する以上無茶なクエストは受けず、いいクエストがなければ筋トレなど訓練をするのが俺の日課だ。
「ごちそうさま、美味かったよ。ほんじゃいい仕事あれば受けてくるわ」
朝飯を食べ終わった俺は二人に挨拶をして家を出た。