太陽は西に沈む
カヅキはメイドと客室への帰路を辿った。メイドはカヅキとはあまり話したがらないのか、斜陽の廊下には二人の足音だけが響いていた。
──異世界にいる以上、誰かから嫌われたりして反感でも買ったら面倒だ…… こいつとも仲良くしてかなきゃだな
「なあ、アイリス……」
「はい、ご用件は」
「こんなの馬鹿な質問に聞こえるだろうけど、答えてくれ。あの星はなんていう星なんだ?」
「はい?本当にお馬鹿なのですね。『太陽』ですよ──」
カヅキは望んでいた回答と違って拍子抜けだった。
「『太陽』って、あの東から登って西に沈むあれか……?」
「太陽なら太陽なんです。8つの子でも理解していることですよ。あなた、本当に学が無いのですね──」
太陽の存在は確認できた。ならば、問題はこの、今自分がいる場所だ。
「じゃあ、今俺たちがいるこの星の名前は?」
「……星?今、私たちは星の中にいるのですか?馬鹿な冗談はおやめください」
──この場所は星とか惑星とかいう概念の範疇にないってことか……?
「ここの場所は?ここはどこなんだ?」
「先ほどローズ様はケール王国の次期王継承者第1位だと言ったでしょう。ケール王国ですよ」
「そんなことくらいは覚えてるさ。このケール王国は何に属しているんだ?」
「──属しているも何も、私の知っている限りこの世にケール王国以外の場所はありません」
──マジか…… この世界ではまだ古代の『地球平面説』のままなのか?それとも本当になんかそういう概念なのか……?
そんなことを考えているうちに目的の場所に到着した。
「ありがとな、アイリス」
「とんでもございません、後ほど夕飯をお持ちしますので、暫し部屋でじっとして、おとなしく、お過ごしくださいませ」
「了解!いい子にしてますねー──」
いい子にしてますね、なんていつぶりに口にしただろう……
やがて外は藍色になっていき、『太陽』はきちんと『西』に沈んでいった──