始まりの悟り
「──んっあ゛ぁ゛ぁ……」
いつもの天井を見た。
夢にしちゃあ、やけに生々しかったよな……
念のため自分かを確かめるために手足を動かしてみたり頬をつねってみたりもした。ちゃんと動くし、しっかり痛い。一安心したような、でもなぜかすっきりしない朝を迎えた。何が起こっているのかを確かめるために、という口実に基づき再びベッドに飛び込んだ。浪人生"だった"この男は、勉強に追われる毎日の中に虚無感を募らせていき、いつの間にかただの、純粋且つ清々しいほどの引きこもりになっていたのだ。
「……kぅき、カヅキ、カーヅーキィー!」
──はっ!
なんだろう。先ほど覚えたあのなんとも言えない感情が再び蘇った。誰が自分の名前を 鮮明に呼んでいたということを断言できる。見たこともない人の声。若い女性から放たれる、なんとも言えないほんのり甘い魅了される香り。夢というのは、ある程度の概要を覚えていても、全てを思い出せるわけではない。かの女性の名も、覚えていない。すっきりはしないが、なんだか自分にとって都合の良いストーリが展開されていたような気がして、気分も良くなってきた。またあの女性に会いたいとさえ思った。
結局その日はいつも通り現実逃避のソシャゲに明け暮れ、夜は適当なラブコメアニメを見て、寝た。
「おいっ!」
昨晩の女性の声だ。まぶたがうまく開かず、眼球を露出できない。
その瞬間に、彼──オリノ・カヅキはただの夢ではないことを悟った──